「あの人はサイコパスだね」。一見、自信にあふれ魅力的に見えるが、関わるほどに常識外れの冷徹さなどに驚かされる人物をさして、そう評する場面がある。
では、「サイコパス」とは具体的にどんな類型の人物なのか。実は明確な定義はない。「精神病質者」と訳されるが、それってなに?というのが実際のところだ。
本連載では、サイコパスについて、ビジネス心理学の第一人者でもある内藤誼人氏が、その特徴、対処法、存在が多い職業などについて、時にデータを交えながら解説する。
第一回では、ビジネスシーンにおいて、「サイコパスが成功しやすい」理由について考察する。
※この記事は、内藤氏の著作『面白すぎて時間を忘れるサイコパスの謎』(三笠書房)より一部抜粋・再構成しています。
ビジネスシーンでは「カリスマで魅力的」に見える
サイコパスは、ビジネスの世界において、その特性をポジティブに発揮できることが、数多くの研究で明らかにされています。
米国ノース・テキサス大学のポール・バビアクは、従業員数が150 人から4万人規模の7つの会社のマネジャー、CEO、副社長、重役たち計203名に、サイコパステストを受けてもらいました。
また、それぞれの360度評価(上司からだけでなく、部下や同僚からも評価してもらう形式の人事評価)の記録も教えてもらいました。
すると、サイコパス度の高い人ほど、カリスマ的で、魅力的で、コミュニケーション能力が高い、という評価を受けていることがわかりました。
サイコパスは、いつでも堂々としていて、自信たっぷりに振る舞うので、カリスマ性があるように見えますし、魅力的にも見えます。
また、サイコパスには「ウソつき」という特性もあり、平然とウソをつくことができます。そのため、コミュニケーション能力が高いと周囲の人に思われるのでしょう。
サイコパスは一匹狼 周囲と歩調を合わせるのが苦手
ただし、バビアクの調査では、サイコパスが悪く評価されている点もありました。
それは、一匹狼としてならよいけれども、チームの一員として周囲とうまく歩調を合わせることができない、というところです。
つまり、サイコパスはリーダーには向いているものの、チーム一丸となり、同じ目標に向かって邁進する仕事には向いていないようです。要するに、チームプレイが苦手なのです。
また、サイコパスには「無責任」というネガティブな評価もありました。サイコパスは、自分の好きなことには全力を出しますが、気に入らない仕事は手を抜きます。
そういう点が、いいかげんだと思われることもあるのでしょう。
組織の序列が上の人ほどサイコパス度が高い?
もうひとつ、別の研究もご紹介します。
英国の国立大学であるアングリア・ラスキン大学のクリーブ・ボディは、サイコパスは難しい仕事にも果敢に挑戦することができるので出世しやすいのではないか、という仮説を立てました。
この仮説を検証するため、346名のホワイトカラーについて調査をした結果、やはり組織の序列でいうと、上の階層になればなるほど、サイコパス度が高くなることがわかりました。
下のマネジャーよりはミドル、ミドルよりはさらに上のシニア・マネジャーのほうが、よりサイコパスの度合いが高くなっていたのです。
つまり、どんどん出世していけるという点では、サイコパスは羨ましい特性を持っている人だと言えるでしょう。