台湾の三大節句の一つである「中秋節」は、旧暦8月15日(2024年は9月17日)。この日は名月を愛でながら月餅を食べる風習がある。日本ではきつね色に焼かれた生地に小豆餡や蓮の実餡などを詰めたものを多く見かけるが、これはいわゆる広東式。台湾式は薄いパイ生地に餡を入れ、ふっくらとお饅頭のような形をしているのが特色。餡の種類は様々で、緑豆餡や棗餡、タロイモペースト、さらには満月に見立てたアヒルの塩漬け卵の黄身入りもある。また、「鳳梨和生餅」というパイナップル餡入りの丸い月餅も好まれる。大きいサイズは祝い事の贈答品に用いられるが、小さなサイズもある。現代人の嗜好に合わせ、甘さ控えめに改良されているのもありがたい。台湾土産に喜ばれること間違いなしだ。

70年以上続く家族経営の小さな郷土菓子店。

 台北市の老舗再生プロジェクトにより改装されたモダンな外観の店。奥にある工房では3代目の周揚志さんとご両親が生地をのばしたり、捏ねたり、餡を包んだりと、休みなく作業を続けている。寺廟の祭時に用いられるお供え物や結婚式の引き出物を依頼されるケースが多いというが、店頭にはバラで購入できるものも並ぶ。写真の「鳳梨和生餅」はポロポロとこぼれ落ちない厚みのある生地に冬瓜入りのパイナップル餡が加えられていて、干しブドウがアクセントになっている。直径は11㎝ほどで、表面には満月とウサギが描かれている。そのほか、油っぽくない弾力性のある生地を用いた正方形の月餅も美味。カカオ味や抹茶味、アールグレイティー&鉄観音茶味など、変わり種もある。

宜德和志
イーダーフーツー

台北市大安區潮州街149號 02−2394−9889 10:00~21:00 不定休 写真右は中サイズ(95元)、左は小サイズの鳳梨餅(40元)。

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台湾人なら誰もが知る名店。種類豊富な月餅。

 1894年に創業した老舗。素材を厳選し、確かな技術で作られた月餅は上品な味わいと評判だ。中秋節になると長蛇の列ができる人気店で、扱う月餅も30種類近くある。写真は左から緑豆餡が入ったミニ月餅「綠豆小月餅」、黄身を加えた「綠豆蛋黄酥」、タロイモ餡の「香芋酥」、サクサク生地に小豆餡と黄身が入った「酥皮紅豆蛋黄酥」。このほか、松の実入りの棗餡「棗泥松子酥」もおすすめだ。ニュージーランド産バターを使用した月餅は、軽やかな食感とクリーミーな甘さが自慢。なお、黄身入りは食べ慣れないという日本人の声もよく耳にするが、適度な塩気がいつのまにかクセになる。レンジでほんのり温めると、より風味が増すのでお試しあれ(ただし温めすぎには注意)。

台北犂記
タイペイリーチー

台北市中山區長安東路二段67號 02−2506−2255 9:00~21:00 無休 綠豆小月餅1個60元、香芋酥や酥皮紅豆蛋黄酥は1個65元。

文/片倉真理 
※この記事は、No. 131 2024年11月号「&Taipei」に掲載されたものです。

台北在住ライター・コーディネーター 片倉真理

1999年から台北に暮らす。台湾に関する書籍の執筆、製作のほか、雑誌のコーディネートなども手がける。台湾各地を隈なく歩き、料理やスイーツから文化、風俗、歴史まで幅広く取材。著書に『台湾探見』、共著に『台湾旅人地図帳』(共にウェッジ)、『食べる指差し会話帳』(情報センター出版局)など。