衆院選の「当落予想」はなぜ“当たらない”? “現行の選挙制度”の下で自分の票を生かす「効果的な投票行動」とは

10月27日投開票の衆議院議員総選挙が近づいてきた。新聞や雑誌、ウェブメディアの記事、はてはSNS等で「議席予想」「当落予想」が行われるが、実のところ「なかなか当たらない」というイメージが強い。その主な理由として、選挙制度として採用されている「小選挙区・比例代表並立制」の下では、政党支持率が必ずしもストレートに獲得議席数へと結びつかないことが挙げられる。

現行制度のベースとなっている「小選挙区制」には制度的にみてどのような特質があるのか。現行制度の下、有権者として投票行動を決めるうえで何を基準にすればよいのか。

知っておくべき「小選挙区制の特質」とは

有権者として投票行動を決めるにあたり、現行の選挙制度を十分に理解する必要がある。

現行の「小選挙区・比例代表並立制」は、自治体をベースに設定された全国289の選挙区からそれぞれ1名ずつ選出する「小選挙区選挙」と、全国を11ブロックに分けブロックごとに政党の得票数に応じて議席数を割り振る「比例代表選挙」の二本立てとなっている。

有権者は投票用紙に、小選挙区選挙ではその選挙区の立候補者名を、比例代表選挙では政党名を記入し、投票する。小選挙区で敗退した候補者も、「惜敗率」が高ければ比例代表選挙で「復活当選」できることがある。

衆議院議員の定員は465名、その内訳は小選挙区が289議席、比例代表が176議席となっており、小選挙区により多くの議席が配分されている。

国会議員秘書、市議会議員を経験した三葛敦志(みかつら あつし)弁護士は、数々の選挙戦を闘ってきた経験をふまえ、小選挙区制の「メリット」と「問題点」のそれぞれについて述べる。

三葛敦志弁護士(弁護士JP編集部)

三葛弁護士:「小選挙区制においては、小選挙区で得票の過半数を占めた候補者が選出されるので、大政党の候補者が当選しやすく、その反面、小政党の候補者は当選しにくくなっています。よく『二大政党制』につながりやすいといわれます。

小選挙区制のメリットとして大きいのは以下の二点です。

第一に、政権が安定しやすいことが挙げられます。政権与党への支持率(不支持率)については全選挙区で大きく変わるものではないことから、比較的同じ傾向の結果が出やすいためです。

第二に『選挙にお金がかからないこと』です。その理由として、同じ政党の候補者同士による戦いがなくなること、選挙区が大選挙区制や中選挙区制に比べて小さく対象有権者数が少ないことが挙げられます。また、1選挙区から1人が選出されるので、正面から政策をぶつけ合う政策本位の選挙になりやすいといわれます」

特に第二のメリット「選挙にお金がかからないこと」については、1993年に現行の「小選挙区・比例代表並立制」が導入される前に採用されていた「中選挙区制」の弊害が大きかったという。

三葛弁護士:「中選挙区制は、1つの選挙区から複数の議員が選出されるしくみでした。

現在、参議院の『東京都選挙区』は定数6で、過去2回の選挙では自民党と立憲民主党がそれぞれ2名の候補者を立てています。あのようなイメージです

中選挙区制では同じ政党の候補者が議席を奪い合う『同士討ち』が発生しやすくなります。それが全国で展開されるとなると、大政党の場合は同じ政党の候補者同士で争うようになり、『派閥』が大きな影響力を持つようになります。派閥のバックがないと、選対の運営も、支援団体との関係も、応援弁士の手配もままなりません。そこにお金の問題も絡んでいたというのが定説です。

また、そうして形成された派閥が、大臣ポストの配分にも大きな影響力を持っていました。お金や権力が派閥に集まる構造ができ上がっていたのです。

それでは民主主義のあり方として健全ではないということで、1993年に自民党が下野して細川連立内閣ができたときに、『政治改革』の一環として現在の選挙制度に改められました。

小選挙区制には問題もありますが、導入されたこともあって、【図表】のように、買収が減ったのは事実として間違いありません。

また、9月の自民党の総裁選でも明らかになったように、『派閥』も以前ほどの影響力を持たなくなってきています」

【図表】衆議院議員選挙での買収の摘発数(1990年以降)(出典:警察庁資料)

「民意の的確な反映」という面からは問題も

他方で、小選挙区制については「民意が的確に反映されない」との批判が根強い。

三葛弁護士:「最大の問題点は、得票率1位の候補者のみが当選するため、2位以下の候補者への投票は『死票』になってしまうことです。

また、2005年、2009年、2012年の総選挙では、それぞれ自民党と民主党の議席数が極端に増減しました。民意が大きく動くときに、これほど議席数が大きく振れてしまうのは想定外だったのではないかと思います。

どのような選挙制度も『完璧』はあり得ません。よりよい制度設計は何なのか、常に考え、場合によっては手直ししていくという視点が大切です」

たとえば、国会議員の選挙制度に詳しい憲法学者の上脇博之(かみわき ひろし)教授(神戸学院大学法学部)は、研究者の立場から、憲法43条の「全国民の代表」の概念を重視し、これと整合的な制度設計を提唱する。

上脇博之教授(神戸学院大学法学部)(本人提供)

上脇教授:「憲法は議会制民主主義を採用しており、憲法43条は国会議員を『全国民の代表』だと定めています。この概念については法理論上もいくつかの解釈がありますが、民意を可能な限り正確・公正に国会に反映させることを要請している、と解釈する立場が妥当です。

各議院を構成する国会議員の選出方法についても、可能な限り、すべての国民が実際に議場での議論に参加しているのに近い状況を作り出す必要があると考えられます。

つまり、衆議院と参議院をそれぞれ『民意の縮図』にするのです。

その点、小選挙区制は、しくみ上、大政党を過剰に代表させ、中小政党を過少に代表させることになってしまいます。

議席構成において多様な民意を正確・公正に反映できないので、前述した議会制民主主義に反していると考えられます。それゆえ、日本では政権交代が阻まれてきた面があるのです。

また、選挙区の区割りが市区町村を基礎として決められるので、いわゆる『投票価値の平等』を犠牲にし、『一票の格差』の問題も引き起こされています。

その観点からは、得票率に応じて議席が正確・公正に割り振られる『比例代表制』が、少数派も含めた多様な民意を国会議員の構成に反映することができ、議会制民主主義に最もふさわしい制度ということになるでしょう。

難点として、一つの政党が過半数の議席を獲得するのが難しくなることが指摘されますが、小選挙区制度のしくみとして過半数の得票がない政党に過半数の議席を与え、民意とは真逆の政治が強行される危険性があることのほうが重大な問題です。

私は、民意を可能な限り正確・公正に国会に反映させ、議会制民主主義を実現するために、無所属の候補者の立候補も保障した『完全比例代表制』を採用すべきだと考えています」

どの選挙制度を採用しても変わらない「議会制民主主義の本質」

このように、小選挙区制を中心とした現行の選挙制度には、長所と短所の両方が指摘される。特に、死票の多さと、一政党が実際の得票率を大きく超える議席を獲得する可能性があることは、心に留めておく必要があるだろう。

三葛弁護士は、どのような選挙制度をとるかにかかわらず、国会で充実した議論が行われること、少数意見が尊重されることの重要性を強調する。

三葛弁護士:「民主主義の本質は多数決だけではありません。そこに至る過程で、充実した議論が行われることが大前提です。

多数派が正しく、少数派が間違っているとは限りません。また、課題ごとに多数派と少数派が入れ替わることもあります。互いの言い分に耳を傾け、議論を行うことで、補い合い、一致点を見つけ出し、物事を決めるのが議会制民主主義です。

自分がいつ少数派になるか分からないのが世の中です。利害関係が複雑化しているからこそ、常に多数派が多数派であり続けるわけではないことを自覚しなければなりません。

だからこそ、 “議論”によってよりよい結論を求める。少数派にも配慮する。それによって民主主義が強くなります。多数派が独善的になり、少数派をギロチン送りにしていたら民主主義がどうなるかは、歴史が証明しています。

報道ではどうしても『与野党の対立』が誇張されがちで『分断』が深刻化しているように見えますが、実際はそれほどでもありません。多くの課題については、議論して一致点を見つけ出し、物事を決めています」

「小選挙区制」中心の現行制度下で投票行動を決めるための“ポイント”

以上を前提として、現行の「小選挙区比例代表並立制」の下で、どのような投票行動をとるべきか。

三葛弁護士は、「小選挙区制だから」といって、過度に「戦略的な投票」を心がける必要性は乏しいと指摘する。

三葛弁護士:「小選挙区制は死票が多いと言われます。しかし、現行制度では、その弊害を緩和するための『比例代表選挙制』が、議席数が少ないとの指摘はあるものの、並行して採用されています。

小選挙区の立候補者が比例代表選挙区に重複立候補している場合には、得票率によっては『復活当選』の芽もあります。

『死票になるのを避けたい』などとあまり考えずに、自分の政治的信条に忠実に投票することをおすすめします」

そのうえで、2つの『評価軸』を挙げる。

三葛弁護士:「第一は、自分が大切にしている政策とのマッチ度という評価軸です。

この点については、毎日新聞の『えらぼーと』や朝日新聞の『ボートマッチ』など、マスメディアが各候補者にアンケートをとって公表しており、参考になります。ただし、どうしても選択肢が両極端になりがちで、その候補者の意図を必ずしも反映していない場合もあります。

選挙公報や、各候補者のHPや街頭演説での発言内容などをチェックすることをおすすめします。

第二に『この候補者だけは絶対嫌だ』という評価軸も考えられなくはありません。その候補者の掲げる政策が自身の政治的信条と真っ向から反するとか、過去の言動や不祥事が許せないとか、どうしてもその候補者を当選させたくないのであれば、最も有力な対立候補に投票するという選択肢も有り得ると思います。

いずれにしても、選挙は、私たちが『主権者』として意思表示を行う数少ない機会です。選挙期間中、候補者が必死になる姿を見るのは、民主主義のありようを考えるきっかけになります。ぜひ、街頭演説を見に行くことをおすすめします」

民主主義に「完全」はあり得ないからこそ“投票行動の意思決定”が大切

政治不信が叫ばれるようになって久しい。また、18世紀、フランスの啓蒙思想家ルソーは、イギリスで世界に先駆けて採用された代表民主制の欠点について、皮肉を込めて以下のように鋭く喝破(かっぱ)している。

「イギリス人民は、自分たちは自由だと思っているが、それは大間違いである。彼らが自由なのは、議員を選挙するあいだだけのことで、議員が選ばれてしまうと、彼らは奴隷となり、何ものでもなくなる。自由であるこの短い期間に、彼らが自由をどう用いているかを見れば、自由を失うのも当然と思われる」

(「社会契約論」ジャン=ジャック・ルソー 著/作田啓一 訳(白水社)より)

この指摘は、「社会契約論」が刊行された1762年から約260年を経た現在でもなお当てはまる。代表民主制は完全な制度ではない。だからこそ、国民の不断の努力が求められる。

私たち国民が「奴隷」とならず「自由」を維持し続けるには、選挙権を効果的に行使し、国会議員に「全国民の代表」としての緊張感をもって職務にあたらせる必要がある。だからこそ、現行制度の内容とそのメリット・問題点を十分に理解したうえで、投票日の10月27日までに、候補者ないしは政党の政策や過去の言動・実績等を十分に見極め、投票行動を決めることが大切である。