今年9月、お笑いコンビ「レインボー」のジャンボたかお氏が、X上で行ったポストが大きな話題となった。
「凄いこいつら、俺らのコント何本もパクリにパクってるけど、許されるのか?!」
凄いこいつら、俺らのコント何本もパクリにパクってるけど、許されるのか?! pic.twitter.com/MsDCCm97TA
— レインボー ジャンボたかお (@kando_jjj) September 16, 2024
レインボーのネタと“ほとんど同じタイトル”の漫画アニメが、YouTubeチャンネル「オンナのソノ」に公開されていたことを告発したのだ。
オンナのソノは「タイトルの一致」認めつつ“釈明”
ジャンボ氏による告発後、SNSを中心に「オンナのソノの動画は著作権侵害ではないか」など批判的な声が集まり、無断盗用の疑いが指摘された動画はすべて非公開となった。また、レインボーの他にも、ジェラードン、エレガント人生など人気芸人のネタ動画と“ほとんど同じタイトルの動画”が同チャンネルに複数アップされていたことも明らかになった。
後日、オンナのソノはチャンネル上で「お詫びとお知らせ」を公表。盗用疑惑について、タイトルが一致していたことと、動画の作成にあたりレインボーなど他のチャンネルの動画コンテンツを参考にしていたことを認め、〈本件動画内のストーリーやセリフ自体について、本件投稿者コンテンツと一致している事実はございませんでした〉と釈明した。
指摘を受けた動画は炎上後すぐに非公開となったため、タイトルだけの模倣だったのか、ストーリーやセリフの一部も引用であったのかは判然としない。
とはいえ、少なくとも“参考”にされた上で“タイトルを無断盗用された”芸人らに、オンナのソノ側から直接の謝罪などはないようで、ジャンボ氏は〈以上〉と締めくくられた謝罪文に対し「謝る側にも関わらず以上で終わらせるチャンネル」と皮肉を込めてポスト。さらに、YouTubeチャンネルには『【コント】人のネタパクってYouTubeに載せてる友人にブチギレる男』を公開し、騒動を笑いに変えた。
「著作権」が注目される本件について、YouTube「不動産弁護士チャンネル」を運営し、M-1グランプリに出場するなど“芸人”の顔も持つリット法律事務所の清水勇希弁護士に、法律家としての見解を聞いた。
レインボーらは「謝罪広告」など請求できるのか?
まず、本件においてジャンボ氏は、オンナのソノに対し、著作権侵害を理由に謝罪広告や損害賠償を求めることはできるのだろうか。
清水弁護士は本件について、事実関係の詳細が判明していないことを前提としつつ、まず謝罪広告について、「芸人さんたちは名誉回復等の措置として謝罪広告を求めることができる可能性があります」と説明する。
ただし、謝罪広告を求めるためにはオンナのソノが投稿した動画が、レインボーの「著作者人格権」を侵害したものと認められる必要があるという。
著作者人格権とは、作品を公表するか決める権利(公表権)、作品の公表時に著作者の名前を表示するかどうか・どのような名前で公表するかを決める権利(氏名表示権)、作品やそのタイトルを無断で改変されない権利(同一性保持権)の3つからなる。
「これらは著作物の創作者が作品に対して持つ人格的利益を保護する『著作者人格権』で、この著作者人格権を侵害された場合、相手に対して謝罪広告など名誉回復等の措置を求めることができると定められています(著作権法第115条)」(清水弁護士)
損害賠償も「請求できる可能性ある」
また、清水弁護士は損害賠償についても請求できる可能性はあるという。
今回、オンナのソノは、レインボーの動画コンテンツを参考資料として用いていたと認めている。これに対し清水弁護士は、「著作権には、既存の著作物を基にして新たな著作物を創作する『翻案権』という権利が含まれ、これも著作権者に認められている権利です(著作権法第27条)」と指摘。
「もちろん単にアイデアやテーマが似通っているだけでは翻案権の侵害とは言えませんが、基となった著作物の“表現上の本質的な特徴”が新たな著作物から感得できれば翻案権が侵害されたと言えます。
オンナのソノが投稿した動画から、レインボーなど芸人さんが投稿した動画の“表現上の本質的な特徴”が感得される場合には、著作権侵害が認められる可能性があり、そうなれば損害賠償を求めることができるでしょう」(清水弁護士)
著作権侵害作品“非公開・削除”後も権利侵害訴え可能
クリエイターが権利侵害に気づいた場合、まず「著作権侵害の事実を立証するため、動画など証拠を残すことが大切」(清水弁護士)であるという。
その後は権利者が求めるものによって必要な対応が異なるというが、訴訟などで相手に差し止めや損害賠償を求める場合には、証拠を持って弁護士に相談するのが一般的な流れとなる。
訴訟などではなく、「とにかく権利侵害をやめさせたい」場合については、YouTube等のプラットホームに対して、当該作品が権利者の著作権を侵害している旨を通報し、削除依頼を行うことも有効だという。
「訴訟よりもずっと簡易に行えますので、まずはプラットホームへの通報をおすすめします」(清水弁護士)
また、権利侵害の指摘があった作品について、侵害者が非公開や、削除しても、証拠さえあれば権利者は権利侵害を訴え、損害賠償請求などの法的な対応・措置を講じることができるという。
つまり、一度でも動画などを公開すれば、権利侵害をなかったことにはできないという訳だ。
ジャンボ氏のネタに対する熱い気持ち「よく分かる」
清水弁護士は、自身の経験からも「ネタを考えるのは非常に大変で、自分が作成したネタには愛着があります。本件の事実関係は明らかではない部分もありますが、ジャンボさんのネタに対する熱い気持ちも個人的にはよく分かります」として、ゼロから作品を生み出す人に最低限のリスペクトを持ってほしいと話す。
「他人の創作物を許可なく使用・パクることは、創作者の権利や感情を害する行為になり得ます。
動画の作成者などのクリエイターは、最低限のモラルや倫理観をより一層深めていく必要があり、権利者の権利を守ることの大切さを認識し、誤解されないよう投稿していく必要があると思います」(清水弁護士)