相続が “争続”に発展する理由のひとつに遺言書がないことがあげられます。また、遺言書は正しい形式で作成したものでないと無効となってしまいます。ここでは、正しい遺言書の書き方に加え、相続人が最低限もらえる「遺留分」についても見ていきます。相続専門税理士の岸田康雄氏がやさしく解説していきます。

遺言は、死後に遺族へ行う意思表示

「遺言」とは、人の死亡後の法律関係を定める意思表示のことです。遺言者が死亡したときに、その効力が発生します。

満15歳以上で正常な意思能力がある人であれば、遺言書を書くことができます。

遺言書では、特定の相続人の相続分を多くしたり、財産ごとにだれに相続させるのかを指定したりすることができます。また、お世話になった家政婦さんなど、法定相続人以外の人に財産を渡すこともできます。

ただし、遺言書の作成方法は法律で決められています。それに従わなければ、その遺言の内容が無効となってしまいます。

一般的に遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。

①【自筆証書遺言】遺言者が自筆して押印する

自筆証書遺言は、遺言者が全文、日付および氏名を自筆して押印する方法のことをいいます。日付、氏名を必ず書くことが必要で、書いていないものは無効となります。

証人や立会人は不要です。

遺言者が自筆することが必要とされ、パソコンや録音での作成は認められていませんが、パソコンで作成した財産目録や銀行通帳のコピー、不動産の登記簿謄本を添付することは認められています。

ただし、自筆証書遺言は、それを見つけた人は自ら開封することはできず、家庭裁判所に行って、相続人の立会いのもとで開封しなければなりません。この手続きのことを「検認」といいます。

これは、遺言書が書き換えられることを防止するために実施するものです。

なお、遺言者が法務局に預けておいた自筆証書遺言については、書き換えられるおそれがないため、検認は不要となります。

②【公正証書遺言】口頭で遺言を伝える

公正証書遺言は、遺言の内容を口頭で伝えて作成する方法のことをいいます。

下記のように、手順が明確に決まっています。

2人以上の証人が立会う

遺言者が公証人に遺言の内容を口述する

公証人がこれを筆記する

証人に内容を確認したあと、各自署名押印する

公証人が署名押印する

作成した遺言書の原本は公証役場に保管されることになります。

立会う証人について制限があり、推定相続人とその配偶者、受遺者とその配偶者など、遺言の内容について利害関係のある人は、証人になることができません。

なお、公正証書遺言には検認は必要ありません。

③【秘密証書遺言】遺言者と公証人が署名する

秘密証書遺言は、遺言者が自ら遺言書を作成して封印し、公証人の前で、「これが自分の遺言書である」と伝えたうえで、公証人と2人以上の証人が署名押印する方式です。

秘密証書遺言は検認が必要です。

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遺言の効力は? 撤回できる?

遺言は、遺言者が死亡した時点から、その効力が発生します。したがって、遺贈された遺産は、遺産分割の対象にはなりません。

また、遺言はいつでも何度でも撤回することができます。

遺言書を書いたあとに、遺言者が財産を処分してしまったときは、遺言者が所有する財産と遺言の記載事項が異なることになってしまいますが、その部分について遺言が撤回されたとみなされます。

また、複数の遺言書が存在する場合には、最も日付の新しい遺言書が有効とされます。古い遺言書のなかの記載事項のうち、新しい遺言書と異なる部分は撤回されたものとみなされます。