「水曜日が一番、何を作ったらいいか分からない、何も考えたくない日。だから元気が出るカレーの日にした」と言うのは、料理家で管理栄養士の長谷川あかりさん。8月に著書『水曜日はおうちカレー~クタクタな日こそ、カレーを食べよう。』が出たばかり。紹介されているカレーは、“お味噌汁”のような存在!? さらに長谷川さんは言う、「家庭料理はおいしくなくていい」――。
カレーは「お守り」
料理家・管理栄養士として活動する長谷川あかりさんの書籍『水曜日はおうちカレー~クタクタな日こそ、カレーを食べよう。』(大和書房)が8月に発売された。
基本の「にんたまじゃがカレー」を始め、ノンオイルカレー、20分で作れるクイックカレー、ハレの日未満のとっておきカレーなど、50種類ものレシピが収録。普段の調味料とカレー粉で作るバリエーション豊かなカレーが特徴で、毎日でも食べられるお味噌汁のような存在という、新しいカレーの可能性を提案する一冊になっている。
「カレーをテーマにした大きな理由は、カレーが私にとって『お守り』のような存在だからです。疲れて何を食べたいか分からなくなって、そのうちに考えるのも嫌になって、適当に食事を済ませることになると罪悪感がいっぱい。そんなある日、カレー粉の香りを嗅いでみたら、一気に食欲や元気が湧いてきたんです。カレーは力強い食べ物でもあり、逆にやさしい味にもなる、どんな気分の時にでもしっくりくるんですよ」
特に、疲れている時に、カレーの香りが心身にパワーを与えてくれると長谷川さんは実感している。さらに、カレーという料理のフォーマットは懐が深く、いろんなバリエーションが楽しめて、驚くほど多彩な料理が作れるのだと。
「全く悪いことではないのですが、なぜか適当に作った料理ってなんとなく罪悪感や後ろめたさを感じてしまいがち。でもカレーなら『今日はカレーです!』と自信を持って食卓に出せるんです。そこにも助けられるというか。これもカレーという料理の持つ強さですね」
実体験をもとに作り続けてきたレシピに新たなレシピも加わり、今回、一冊にまとめられた。『水曜日はおうちカレー』という書名にも、忙しく過ごす私たちの日常を豊かにしてくれる思いが隠されていた。
「私にとって水曜日が一番、何を作ったらいいか分からない、何も考えたくない日なんです。平日5日間働いていると、土日に休んだ勢いで月曜日と火曜日は何とか乗り切れますが、水曜日になるとその勢いも切れてしまって『まだ水曜日か……』という気持ちになりがちで。外食やお惣菜を購入してもいいんですが、自分で作った優しい味が欲しい。そんな時、『今日はカレーだ』と決めておくと、心に安心感が生まれるんですよ」
毎日献立を決めるのは大変でも、週に1日だけでも「今日はカレーの日」と決めておく。すると、「じゃあ、何カレーを作ろうか」という発想になる。その不自由さが、逆に自由を生んでくれるのだ。
生姜ダレの混ぜサラダカレー ⓒ濱津和貴
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驚きの組み合わせができる秘訣
長谷川さんのレシピは、「その食材の組み合わせは初めて!」と驚かされることもしばしば。例えば、「ニラとたくあんのキーマカレー」「なすと鶏のゆず胡椒グリーンカレー」「切り干し大根とチキンのうまみカレー」などなど。「カレーは懐が深い」と言うが、レシピはどう生まれるのだろう。
「『切り干し大根とチキンのうまみカレー』を作ったときのことを考えてみると、もしこれが、切り干し大根と細かく切った鶏肉を煮た、さもないおかずに白米というだけ献立だったら、ちょっと質素に感じてしまうかもしれません。もちろんそれも悪くはないのですが、鶏肉をあえてごろっと大きく切ってカレー粉を加えると、この質素な献立が『切り干し大根とチキンのカレー』に変わるんです。立派な料理名がついて、ちゃんとした一皿になる。ばかばかしいと思うかもしれませんが、この変化がすごいところ。料理名がつくだけで、そして、カレー粉の華やかでスパイシーな香りが加わるだけで、つくる人も食べる人もより満足感が増すんですね。組み合わせは深く考えすぎなくても大丈夫。冷蔵庫にある食材を使って、最後にカレー粉を加えるだけでいいんです」
奇をてらったカレーを作ろうと思ったわけではもちろんなく、むしろ「カレー粉があるから大丈夫」という感覚で、好きな食材を入れる。食材も、普段手に入りやすいものやスーパーマーケットで買えるものが中心。気合を入れずに作れるのが魅力だ。
「私は比較的料理が好きな方ですし、職業柄、料理に時間を割くことに苦痛を感じにくい方ではあります。ですが、それでも日常生活になじまないなと思う旧来的な家庭料理がまだスタンダードとして残り続けている。もちろん、伝統的な料理を未来へ受け継いでいくという観点では残すべきだと思いますが、毎日忙しい方や料理がそこまで好きでがない方からしてみたら、そういった料理のレシピを料理家から日常のものとしてすすめられてしまうこと自体が苦痛や悩みの種になってしまう。私の場合、誰にでも作っていただけるように、生活になじむレシピであるということに一番の重きを置いています。それでいて家庭料理の核を崩さず、使いやすい形で提供するのが役目だとも考えています」