たとえ暴落があっても…それでも投資は「やらないほうがリスク」なシンプルな理由

 2024年1月からスタートした新たな少額投資非課税制度「新NISA」をきっかけに、日本でも投資熱が高まっている。投資ブームの一方で、SNSを利用した投資詐欺被害が急増するなどネガティブなニュースもあり、投資に尻込みしている人も少なくないはずだ。

 しかし、大学1年生から投資を始めて以来15年近い投資経験を持つファンドマネージャーの田沼豪氏は、「投資をやらないほうがリスクがある」と警告する。

◆「貯金」よりも「投資」を選ぶべき合理的な理由

 今、投資を行わないとどのようなリスクがあるのか。田沼氏は「いちばんのリスクは、インフレによるお金の目減りです」と指摘し、こう続けた。

「日本や欧米のインフレ率(物価の上昇率)は、年間で約2%と言われています。今年100万円だったものが来年には102万円になるので、お金を毎年2%以上は増やしていく必要がありますが、給料を上げることはそう簡単ではないですし、社会保険料も上がっています。

 すぐに対策を講じなければ、将来は今よりもグレードの低いマンションに引っ越すなど、生活レベルを下げなくてはいけなくなる可能性が高いのですが、幸いにも今はインターネットで簡単に投資が行える環境が整っています。ご存じのとおり、銀行に預けていても利息はほとんどつかないので、貯金するなら投資を始めたほうが良いです」

 今年は日経平均株価が史上最高値を更新するなど日本株が好調だが、田沼氏は「長期的に見ると米国株のほうが強い」という。

「初心者が投資を始めるなら『S&P500』や『オルカン』(オール・カントリー「eMAXIS Slim 全世界株式」)を選ぶのが無難ですが、20~30年と長期的に続ける必要があり、短期的に必ず儲かるようなものではないということをきちんと理解しておく必要があります」

◆投資を行うなら長期的に続ける覚悟を持つ

 長期投資をするうえで、「暴落を覚悟する必要がある」とも。

「リーマン・ショックのような世界的な株価の下落が起こると、資産が一時的に半減することもあります。ここで、損失が怖くなり投資をやめてしまう人がいます。一度解約した後、市況が回復してから投資を再開すればいいと考えるかもしれませんが、そのような後手後手の行動ではあまり儲かりません。

過去の米国株のデータを見ると、20~30年と運用していれば、元本よりもほぼ確実に増えています。たとえどんなに悪いタイミングでデータを切り取っても、長い目で見ればプラスとなる可能性が極めて高いので、暴落を恐れずに投資を続けることが重要です」

 とはいえ、リスクに備えることも忘れてはいけない。

「投資初心者にとって難しいと感じるかもしれませんが、可能なら分散投資を行った方がいい。米国株だけで資産運用することも悪くはないですが、やはり暴落が起きた際の目減りや回復までの期間を受け入れ難い人も多いと思います。

 実は、プロの投資家は分散投資を行っていて、国内外の株式や債券など、値動きの特徴が異なる商品に投資することでリスクを減らしています」

◆今から投資を初めても遅くない!

 年齢や元手がないことを理由に、自分は投資ができないと思い込むのは早計だ。

「若いうちから投資を行ったほうがいいですが、40代、50代、それ以上の年齢でも決して遅くありません。人生100年時代と言われており、50代で始めても何十年と長期での資産形成をすることができますし、年金のほかに資産運用による不労所得があれば老後の大きな支えになってくれます。

 元手は生活に無理のない範囲で大丈夫です。ただ、弊社も10万円から投資できるサービスではあるものの、ずっと10万円ではたとえ2倍に増えても20万円にしかなりません。長期的に資産運用を行う場合は、最初にいくら投資できるかよりも、追加でどれくらい投資していくかが重要になります」

 お金をどれくらい投資に回すかは、金額よりも割合で考えるといいそうだ。

「アメリカでは、金融資産の約50%を投資に運用していて、現金は10%ぐらいしか持っていません。ですが日本では、金融資産の約50%を貯金していて、投資に回しているのは15%ぐらいしかありません。

 つまり100万円のうち、日本人は15万円しか投資をしていないけど、アメリカ人は50万円も投資をしていることになります。アメリカ人のように50%を運用するのは難しいにしても、まっとうな金融商品に投資をするなら、30%から40%は投資をしても良いと思います。

 また、一括と積立はどちらがいいかと聞かれることが多いですが、可能なら両方やったほうがいい。たとえば、貯金が50万円、毎月の給料が20万円なら、10万円で初めてもらって、給料の10%の2万円を毎月追加投資するといった形です。コツコツと長期的に続けていけば、これでも資産を増やすことができます」

◆信頼できる投資のパートナーを見つける方法

 初心者が投資を始めるなら、「独学でやるよりもファンドマネージャーなどの専門家に頼った方がいい」という。

「独学で投資をすることを絶対にダメというわけではありませんが、正直、厳しい戦いになります。というのも、投資の世界にはプロとアマチュアの境界線がないので、投資を始めたばかりの方も、世界中のプロ投資家を相手に勝負することになる。

 ここ数年の強烈な円安・株高の恩恵で初心者でも短期的に儲かっている方もいますが、プロを相手に長期的に勝つのは非常に難しいので、専門家であるファンドマネージャーに任せたほうが楽ですし堅実です」

 とはいえ、前述のようにSNS型投資詐欺も増えており、誰に相談すればいいのか分からないという人は少なくないはずだ。

「詐欺に騙されない最も確実な方法は、金融庁の免許(登録)を持つ会社か確認すること。あまり知られていませんが、お金を預かって資産運用を行うためには、医師や弁護士と同じく免許(登録)が必要になります。金融庁のホームページで確認できるので、ここに載ってなければ99.9%詐欺だと疑ってください」

 リスクをしっかりと把握したうえで自分にとって合理的な選択肢を選ぶ。初心者にとってはハードルが高く感じられる投資も実はやるべきことはシンプルだといえそうだ。