岐阜・高山の自然豊かな高地に佇む、ガラス作家・安土草多さんの工房へ。高山駅からバスに乗り、さらに狭い山道を歩くこと30分。森のはずれで昼休憩を取っていたら、なんとカモシカに遭遇! 工房に着くとその周りには崇高な自然が広がり、誰もおらず、静かだった。


ガラスを吹いてランプを仕上げる安土さん。息が竿を伝うことで、ガラスが液体から個体へと変わっていく様はまるで魔法のよう。工房を囲う豊かな自然を彷彿とさせる、その色使いにも惹かれる。ガラスを切ったりするための道具は繊細で、炉の中で熱するシーンも美しい。

 安土草多さんのガラスを知ったのは10年ほど前、東京で開催された展覧会だった。入り口に大きな木のテーブルがあり、その上に並べられた、たくさんの小さな花瓶に差し込む光の筋に驚いたことを覚えている。手吹きガラスならではの繊細な凹凸に、光が透過するのを見つめながら、私はその周りをぐるりと回ってみた。まるで光のダンスを眺めているようで、時間が止まったようだった。以来、花瓶、グラス、デカンタとコレクションが増えてきたが、ガラスを通して液体を観察するのが楽しい。彼のグラスで飲むと、ビールの風味まで繊細になるような気がするのだ! だから日本の職人に会いに行く旅をすると決めたとき、当然安土さんを思い浮かべ、岐阜へと向かった。

 工房に到着すると、彼はステムグラスのパーツを作っているところで、それは19世紀のフランスのワイングラスを彷彿とさせた。1325℃の溶融ガラスをブローチューブで取り出し、型に流し込み、吹きながら形を整えてカット。再加熱し、470℃の徐冷炉に保存。素材が何度も形を変える複雑な工程をまったく戸惑うことなくこなす。私は好奇心と驚きをもって見入る。吹き竿、手袋、道具。素材から彼を遠ざける要素はこれだけあるのに、ガラスとの距離を感じさせない、真の交わりが見える。その繊細な作風の素晴らしさを伝えると、彼は謙虚にこう答えた。「私のガラスに価値を与えるのは、それを使う人です」。使い手と共存する。まさに工芸品の本質だと思った。

安土草多Sota Azuchi

 安土さんはガラス作家の父、安土忠久より宙吹きガラスを学び、2002年に高山で築窯。型に吹き込んで成形する「型吹き」と、中空の吹き竿でガラスを巻き込み、竿の先端から吹いて成形する「宙吹き」の両技法を組み合わせる。手吹きならではの凹凸がある質感が魅力。通常工房の見学はできないが、飛騨高山『やわい屋』、大阪・谷町『趣佳』、岡山『FRANK』などで取り扱いあり。Instagramは@s_azuchi。

s-azuchi.com

Isabelle Boinot

フランス西部の田舎町、アングレーム在住のアーティスト、イラストレーター。繊細なタッチと柔らかな色使いが魅力。本誌ではパリを独自の視点で切り取った「パリいろいろ図鑑」を連載中。著書に『パリジェンヌの田舎暮らし』(パイ インターナショナル)など

instagram.com/isabelleboinot

illustration : Isabelle Boinot

&Premium No. 132 Folk Crafts & Art / 暮らしを楽しむ、手仕事と民芸。

地域に根ざした人々の生活のなかで生まれた民芸や、作り手の思いが込められた手仕事の日用品。歴史と伝統のなかで育まれた技術によって作りだされる、美しい暮らしの道具。その魅力をていねいに感じ取り、いまのライフスタイルに上手に取り入れていくことは、これからのBetter Lifeをより心地よく、温かなものにしてくれるのではないでしょうか。来年は柳宗悦らが提唱した「民藝」という言葉が生まれてから100年を迎える節目の年。私たちを取り巻く社会もテクノロジーも大きく変化していくなか、あらためてその心と楽しみについても見つめ直してみたいと思います。

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