「天然なのか、わざとなのか…」体を密着させスマホ内の写真を見せてくる31歳女に、男は…

◆前回までのあらすじ

アパレル関連の会社を経営する翔馬(32)は飲食店オーナーの秋山が開催した食事会に参加する。そこで出会ったのは、香澄(31)、ミナ(29)、玲(29)。香澄との2度目のデート中、ミナと秋山に遭遇し…。

▶前回:「彼女に手を出すのは、やめておこう」29歳女を家に泊めたけど、男が理性を保った深いワケ

Vol.7 蜜かな夜の甘い誘惑



「びっくりしましたね〜!」

適当に入った、薄暗い六本木のバー。

重厚なカウンター席に腰を下ろすなり、香澄は興奮しながら言う。

香澄との焼き鳥デート中、偶然ミナと秋山を見かけたので俺らは好奇心でふたりの後をつけた。

六本木にある雑居ビルにふたりが入っていったのを確認し、俺たちは、近くにあった適当なバーに入ったのだ。

ふたりが入っていったビルには、S級クラスの美人ばかり在籍していることで有名な店が入っている。

「ミナちゃんって、背が高くてスタイル神だしドレスも似合いそうですもんね〜。でも私ならやらないなぁ…」

「いや、まだミナがその店のキャストだと決まったわけじゃ…」

香澄はミナが店で働いているのだと、完全に決めつけていた。

「でもぉ、他にあのビルに用事ってありますぅ?食事会でミナちゃんが職業を明かさなかったのって、夜職だからなのかも!」

話のネタを見つけた香澄は、焼き鳥を食べていた時よりもイキイキとしている。

俺は、ミナ本人から聞いたので彼女の職業が歌手であることを知っている。

歌だけで生活するのが困難ならば、六本木で働いていることも納得できるし、むしろ応援してあげたいと思う。

事情を知らない香澄がネタにするのは、ちょっと感じが悪いので、ミナの話を終わらせる方向に持っていった。

「どうでもいいじゃん、この話はもうやめよ。ほら、何か旬のフルーツでカクテルでも作ってもらったら?」

「…はぁい。う〜ん、何飲もうかなぁ。あまりアルコールが強くないのがいいんだけど…」

「それでしたら、完熟の柿とオレンジを使ったカクテルはいかがですか?」

マスターが香澄に提案する。

「わぁ美味しそう!じゃあそれ、お願いしま〜す。楽しみ楽しみっ!」

香澄は、大人しく従ってくれた。

― よかった。いつもどおりの彼女だ。

相手の提案に素直に乗るところや、可愛いリアクションが完璧で、さっき感じたマイナスな感情が薄まっていく。

「あ…じゃあ、俺はグレンリヴェットをロックで」

なんとなく、秋山に出会った時に飲んだウイスキーを注文した。

― 彼らは今、何をしているんだろう?

ロックグラスを揺らしながら、そんなことを思っていると香澄に肩をツンツンされる。

「翔馬さん、やっぱりあっちのソファ席にしません?」

「いいよ。その方がゆっくりできそうだもんね」

俺たちはスタッフに確認してから、半個室の席に移動した。

L字型のソファなのに、お互いの足が触れそうな距離に腰を下ろす香澄。

焼き鳥に行った後なのに、彼女の肌や髪からはちゃんといい匂いがするからすごい。

「私、こう見えて料理するんですよ」

突然“家庭的ですよ”アピールを始めた香澄。

「会社にはお弁当を持って行ってるし、予定がない日の夕飯は必ず自炊するようにしてて…」

俺にぴったりとくっついて、スマホ内の画像フォルダを見せてきた。

どれどれと見てみると、そこには絶妙に微妙な手料理の数々が並んでいた。

天然なのか意図的なのかわからないが、男心をくすぐる何かを香澄は持っている。

「偉いよ。いい奥さんになりそうだね」

俺が褒めると、次は過去の恋愛について語り出した。

学生時代に元彼がストーカーになったため、男性不信になりかけたこと。直近の彼氏とは結婚の話も出ていたが、男の浮気が原因で別れてしまったことを。

「そうだったんだ…浮気された経験なら俺もあるよ」

その流れで、俺も自分の恋愛観や理想の女性像などを話した。

「一番最悪だったのは、生活費を渡してあげてた彼女がいたんだけど。そのお金が他の男の借金返済に充てられてたことかな」

「うわぁ。それは、めちゃくちゃムカつきますね」

「でしょ?気づかなかったのも、金を渡してたことも、バカすぎて。このこと話したの元太と香澄ちゃんだけよ」

その会話の後、ふたりの間に沈黙が訪れた。

彼女の視線が自分に向けられているのを感じながら、ゆっくりとウイスキーを口に運ぶと氷がグラスの中で揺れる音が、妙に響く。

「香澄ちゃんはさ、俺のこと好き?」

「……はい♡」

「それは、俺が経営者じゃなくても?」

「もちろん。関係ないです」

香澄が飲んでいるカクテルは、オレンジの液体がまだ半分くらい残っていた。

「これ、美味しかった?もう一杯何か飲む?」

長い沈黙のあと俺が聞くと、彼女は答える代わりにグラスを持ち上げ、カクテルを口に含んだ。

その姿が妙に色っぽくて、思わず顔を近づける。

香澄が目を閉じたので、俺は彼女の肩に触れ唇を重ねる。すると、口の中にオレンジの甘酸っぱさが広がった。

「はいはい、よーござんした。そんで?そのあとホテルへ直行!ってか?」

香澄との濃厚なひとときを過ごした日の3日後、俺は元太と外苑にある韓国料理店で、香澄とキスをしたことを正直に話した。

普段ならいちいち報告しないのだが、食事会で元太は香澄のことが気に入っていたようだったので、一応伝えておいたのだ。

― まぁ、コイツには彼女がいるから気を使う必要などないんだけど。

「いやいや。そのあとそれぞれタクシーに乗って帰ったよ。香澄ちゃんがそうしたいっていうから」

「それって…お前とのキスが微妙だったってことじゃね?」

「だったら、こんなにLINEこないだろ。見ろよ」

俺はスマホの画面を一瞬元太に見せる。あの日から、香澄からの連絡はさらに増えた。

「付き合うんか?」

「え?」

「だから、かすみんと付き合うのかって」

「それは、ほら。まだ…もうちょっとお互いのことを知ってからでもさ」

「でたよ。またそれか。結局そうやって、都合のいい女にするんだろ?」

元太は呆れ顔で答えながら、厚切りのポッサムに箸を伸ばした。

「しないよ。だから、今日お前を呼んだのはお願いがあって。香澄ちゃんがね、泊まりで旅行したいって。でもさ、ふたりで行ったらそれってもう…そういう責任が生まれるだろ?だから、みんなで行かね?」

「……旅行?それはちょっと楽しそうだけど」

俺は「だろ?」と同意を求めながら、元太のグラスにチャミスルを注ぎ、乾杯した。

「香澄ちゃんのことは、付き合ってもいいと思ってるくらいには気になってるよ。でも、まだ決定的な何かが足りないというか」

正直に今の気持ちを元太に話す。

「うん、まぁ言いたいことはわかるけど、あんまり先延ばしにするのも可哀想だぞ。可能性が無いなら無いで、会うのをやめないと…」

「わかってるよ。でも、しょうがないだろ。もう誰とも別れたくないんだから」

俺がそういうと、元太の表情は急に柔らかくなった。

「そっか、そうだよな。別れるのは精神的にくるよな…俺みたいに8年もダラダラと付き合っちゃダメだ。優柔不断な男!ってフラれるんだから」

「え、えええ!?お前、彼女と別れたの?」

そこから会話の主人公は元太になり、気づけばチャミスルが4本空いていた。

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食事会メンバーの旅行で波乱が…