1.バイタルサインとは

バイタルサイン(バイタル)とは、人間の生命活動における重要な指標で、生命兆候を意味します。

主に「呼吸」「体温」「血圧」「脈拍」の4つの項目を基本とし、数値を測定することで治療の効果や状態の変化、異常を早期に発見することを目的としています。救急医療現場や集中治療室などではさらに「意識レベル」「尿量」の2つを含めた6項目をバイタルサインと称することもあります。

医療・福祉職において、患者さんや施設利用者さんのバイタルサインの正常値を把握しておくことは非常に重要です。とくに「呼吸」「体温」「血圧」「脈拍」の正常値はおさえておきましょう。

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2.バイタルサインの正常値(基準値)と測定方法

※数値は成人を対象としたもの

呼吸 呼吸回数 12〜18回 / 分
体温 36〜37℃
血圧 130mmHg未満(収縮期) / 85mmHg未満(拡張期)
脈拍 65〜85回 / 分
意識レベル 意識清明(JCS=0、GCS=15)
尿量 1回排泄量:約200~400mL 1日総量:約1,000~2,000mL

参考文献:介護と医療研究会 著『介護現場で使える急変時対応便利帳』翔泳社

正常値(基準値)は上記の表のとおりですが、平常時の数値は個人差もあるため、日頃からバイタルサインの測定を繰り返し、個人ごとの基準を把握しておくことが大切です。

次にチェックすべきポイントについて、各項目ごとに詳細をみていきましょう。

2-1.呼吸

患者さんや施設利用者さんの容体が急変した際、まずはじめに確認すべきは「呼吸」です。

呼吸からは「呼吸回数」と「呼吸の仕方」の2つを診る必要があります。

呼吸回数は「吸って吐く」を1回と数え、上下する胸部および腹部をみながら1分間測定。

呼吸回数の測定と同時に、呼吸時に異音(ゼーゼー、ヒューヒューなど)を発していないか、苦しそうではないか、胸の動きに左右差はないか、など普段の呼吸とは違った様子がないかを観察しましょう。

呼吸パターンがいつもと極端に違う場合は、肺や脳などに異常があるかもしれないので注意しましょう。

測定ポイント

酸素の循環における重要な指標として、「呼吸回数」と「呼吸パターン」のほかに「SpO2」もあげられます。これは「血中にどれだけ酸素が含まれているか」を示す数値です。

この数値が95%を下まわると呼吸不全が疑われるので注意が必要。

以下画像のような「パルスオキシメーター」という機械で簡単に測ることができるので、呼吸の測定時にあわせて活用しましょう。

パルスオキシメーター:指先に装着して測定する

2-2.体温

日本人の平常時の体温は、36.5℃(±0.5 ℃)とされています。

しかし体温は個人差も大きいうえ、早朝は比較的低く夕方になるにつれ高くなるという性質もあります。

そのため、検温する際は個々人の平熱をきちんと把握しておき、平熱からどの程度変化しているかという点に注意しましょう。

測定ポイント

体温計は、45°くらいの角度から脇の中央部(上方向)に向かって差し込みます。

差し込めたら、体温計の先端が脇の中央部に密着するよう、反対の手で検温側の腕を押さえてもらいましょう。

また、最近では肌に直接触れずに素早く検温できる「非接触体温計」も販売されています。

2-3.血圧

血圧とは、心臓から血液が巡る際に血管壁にかかる圧力を指します。

血圧を測定することで、心機能の異変や全身の血液量の異常などを察知することができます。

とくに高血圧は高齢者に多く、脳卒中や心筋梗塞など、さまざまな疾病を引き起こす要因となるので注意しましょう。

また病室や診察室で測定する場合は、緊張などもあり普段より高めの数値が出てしまうことが多いため、高血圧の基準値は診察室で測る場合と家庭で測る場合とで差があります。

高血圧の基準値(正常値は130 / 85 未満)

   最高血圧(収縮期血圧) 最低血圧(拡張期血圧)
診察室血圧 140mmHg 以上 90mmHg 以上
家庭血圧 135mmHg 以上 85mmHg 以上

※日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン 2014」

血圧に影響を与える要素は「心臓のポンプ機能の強さ」「心拍出量」「血管の硬化」などさまざまで、前述したように高齢者の場合は動脈硬化による高血圧が多く、血圧が変動しにくいという特徴があります。

平常時の数値をしっかりと把握しておき、高血圧の方の血圧が急激に下がっていないかなど、変化の幅に注意しましょう。

測定ポイント

測定時は腕を心臓と同じ高さに置き、肘を曲げないよう注意。

血圧は時間帯によっても変化します。介護職員や看護師は、それを踏まえたうえで測定するようにしましょう。

また血圧計には、聴診器を使いながら手動で加圧していくタイプと、全自動タイプのものがあります。自分に合った方法で測定しましょう。

全自動血圧計には上腕に巻くタイプと手首に巻くタイプがある

2-4.脈拍

脈拍は血圧と同様に、血液循環を把握するための指標となります。

1分間の脈拍数を測ると同時に、脈拍のリズムが一定であるかを確認することも大切です。

異常値として、1分間に100回を超える場合は頻脈、50回未満を徐脈と呼びます。

頻脈・徐脈やリズムの乱れが見られる場合は、心機能の異常や脱水症状などの可能性があります。

測定ポイント

人差し指・中指・薬指の3本の指の腹を手首の橈骨(とうこつ)動脈に軽くあて、1分間測定します。

また、電動血圧計では同時に脈拍も測れるものが多いので、そちらを利用するのもよいでしょう。

2-5.意識レベル

意識の状態を評価する基準として「覚醒」と「認知(自分と外界の正確な認識)」の2つがあります。

しっかりと覚醒しており、認知もきちんとできている普段の状態が「意識清明」。「覚醒」と「認知」の両方または、どちらかが阻害された状態を「意識障害」と呼びます。

日本においては、JCSまたはGCSのどちらかに基づいて意識レベルを評価することが多く、正常な状態はそれぞれ「JCS=0」「GCS=15」と表されます。

JCSは主に頭部外傷や脳血管障害の進行の評価に使われ、GCSは外傷性脳障害による意識障害の評価に使われます。

◼︎JCS(Japan Coma Scale / ジャパン・コーマ・スケール)

3-3-9度方式とも呼ばれ、意識レベルを9段階で表したもの。数字が大きいほど重症。

I. 刺激しないでも覚醒している状態
0. 意識清明
1. 見当識は保たれているが意識清明ではない
2. 見当識障害がある
3. 自分の名前・生年月日が言えない
II. 刺激すると覚醒する状態
10. 普通の呼びかけで容易に開眼する
20. 大きな声または身体を揺さぶることにより開眼する
30. 痛み刺激を加えつつ、呼びかけを続けると辛うじて開眼する
III. 刺激をしても覚醒しない状態
100. 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする
200. 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる
300. 痛み刺激に全く反応しない

◼︎GCS(Glasgow Coma Scale / グラスゴー・コーマ・スケール)

E〜Mの3項目を合計した点数(3〜15点)でスコア化したもの。

15点を正常とし、一般的には8点以下を重症とする。数字が小さいほど重症。

例:GCS 8(E2 V3 M3)

E(開眼 / eye opening)
0. 意識清明
4. 自発的に開眼
3. 呼びかけにより開眼
2. 痛み刺激により開眼
1. 痛み刺激により開眼なし
V(言語反応 / verbal response)
5. 見当識あり
 4. 混乱した会話(見当識障害あり)
 3. 不適当な発語(単語)
 2. 理解不明の音声(アーアーウーウー)
 1. 発語みられず
M(運動反応 / motor response)
5. 見当識あり
 4. 混乱した会話(見当識障害あり)
 3. 不適当な発語(単語)
 2. 理解不明の音声(アーアーウーウー)
 1. 発語みられず

2-6.尿量

尿は身体の代謝によって濾過された、血中の不要物や老廃物です。

腎臓によって生成されるため、腎臓の機能が阻害されていると正常に排出されません。

したがって、尿量は腎臓機能の評価に有効な指標となります。

ただし尿量の評価は、1日に排泄される尿を正確に管理する必要があるため、膀胱留置カテーテルなどを使用できる病室や介護施設でないと難しいでしょう。