衆院選の投開票日が27日に迫っている。
新聞社やテレビ局による世論調査や情勢調査では依然として「裏金議員」に対する批判は大きく、「与党過半数は微妙な状況」(共同通信社)「与党過半数割れも」(産経新聞社・FNN)といった報道も相次いでいる。
石破茂首相・自民党総裁ら自民党執行部は、今回の選挙で裏金議員の一部を非公認とし、公認した候補であっても、収支報告書への不記載がある議員は比例重複を認めない措置をとっているが、各社の報道では、非公認候補を中心に、劣勢が伝えられている。
これらの措置に対し、非公認などになった「裏金議員」や自民党内、支持者などからは、自民党執行部の判断に疑問や不満の声もあがっているという。
裏金議員とされる候補者の中には、選挙戦を前に立候補を辞退した議員も現れており、選挙戦を戦う議員側も、報道通りの「国民からの厳しい審判」が下されれば、不満を募らせ、執行部への法的な手段を検討する関係者が出てくる可能性もゼロではない。
非公認議員、司法での“救済”は「難しい」
たとえば、自民党による“処分”を受けた裏金議員が党を訴え、地位の確認・復活や損害賠償など法的な対応を取ることは現実的なのだろうか。
これについて政策秘書や市議会議員を務めた経験があり、現在は議員法務に注力する三葛敦志弁護士は「法的に何か救済を求めるのは、極めて難しい」と話す。
「選挙がすぐそこに迫っているというタイミングの部分などさまざま関係しますが、大きな要因としては、過去の判例があります」(三葛弁護士)
共産党による幹部党員の除名の当否が争われた「共産党袴田事件」では、1988年に最高裁判所は下記の判断を示していた。
1.政党が党員に対して行った処分は、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権が及ばない
2.政党が党員に対してした処分の当否は、政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り適正な手続きに則って処分の判断がされたか否かによって決すべき
「非公認や比例重複を認めないという自民党執行部の判断は、あくまで政党内部の問題です。
そもそも、非公認や比例重複を認めないという判断は、政党からの除名を意味するものですらなく、『一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題』と考えられます。
非公認となっても、党籍を保持したまま選挙に立候補し(それが反党行為と認定されれば除名もあり得ますが)、当選した場合には、これまでの事例を踏まえると、あとから党の追加公認を受ける可能性もあります。
組織から追い出すことすら意味しないわけですから、そのようなものに司法審理はなじまないと思います」
三葛敦志弁護士(弁護士JP編集部)
一部では“二重処分”批判も…
ただ、裏金問題について関与した議員らは、すでに自民党内での処分を受けている。そのうえで、今回の選挙で非公認などの“処分”を科すのは“二重処分”にあたり許されないのではないかという一部議員や支持者らの声も報じられている。
これについて、三葛弁護士は「二重処分には当たらない」として、理由を以下のように説明する。
「確かに、裏金議員に対する党員資格停止や党の役職停止といった処遇は、たとえば会社でいう出勤停止や戒告といった処分と同様、組織内での処分と言えます。さらにそういった処分を追加するとなると、二重処分にあたり許されないとも考えられます。
しかしながら、候補者を公認するかどうか、比例名簿に掲載するかどうかは、政党の考え方や戦略によって決められるものであり、公認されないということは『処分』ですらありません。
ですので、二重処分というよりも、今回の問題についての党員資格停止といった過去の処分が、公認や比例重複を認めないという執行部の戦略的判断にも反映されたというべきでしょう」
仮に裁判が起きても「裁判所が判断したがらない」
ここまでの説明を聞くと、裏金議員が自民党を訴える可能性は低そうに思える。三葛弁護士は「もし、あり得るとすれば」として、以下のケースをあげた。
「『選考過程において、執行部の事実誤認があり公認が認められなかった』と訴えることが考えられます。ただ、仮に事実誤認が認められたとしても、後の祭りになってしまうでしょう。
『公認』は、当選や議員の立場を確約するものではありません。同様に、比例選挙の場合も、立候補して名簿に掲載されれば、当選する可能性は高まるかもしれませんが、当選するとイコールではありません。
したがって、非公認や比例重複を認めないという“措置”が、事実誤認に基づいた判断であったと認められたとしても、そのことを理由に、たとえば『議員の任期分の報酬』を請求できるかというと、難しいのではないでしょうか」
さらに、三葛弁護士は「仮に裁判を起こしたとしても、裁判所が判断したがらないのではないか」と推察する。
「先ほども述べた通り、司法の場でなにか救済を求めるというのは難しいと思いますし、政党の中の価値判断や、政治闘争のようなところに、司法が入っていくのは違和感があります。
たとえば、選挙で票の取りまとめのためにお金が配られたとか、そういった不正であれば司法の判断はもちろんあり得ます。
ですが、それ以前の、民主主義の過程そのものに対し司法が入っていくのは許されるべきでないと思います。
逆のケースを考えてみるとわかりやすいかもしれません。
『あの議員が選挙の際に公認を受けたのは間違っている。だから公認が無かったものとすべきだ』という訴訟が起こされたとして、もし裁判所が『公認を受けていなければ、この議員はこれぐらいまで得票数が落ちるはずだから、落選したものとする』と判断するような事態になれば、おかしなことになってしまいます」
裏金議員にも「戦い方はある」
自分でまいた種とはいえ、司法の場でも党の公認について争えないとなれば、政治の世界に返り咲く道は残されていないのだろうか。
三葛弁護士は次のようにコメントする。
「今回、公認や比例重複を認められなかった候補者も、未来永劫(えいごう)そのままかと言われれば、そうではないかもしれません。
たとえば次の参院選や衆院選では、公認を受けられるかもしれませんし、そもそも石破総裁ら執行部が交代している可能性もあります。
ほかにも、首長選や地方議会に転身するという選択肢もあるでしょう。
今回の衆院選において、過去の実績や、実現したい政策、反省をアピールし、自力で選挙を戦い抜き当選するという方法もあります。
特に、今回は過去の郵政解散の時のように、裏金問題により自民党から大々的に刺客候補を送られているわけではありませんから、戦い方はあると思います」
ただ三葛弁護士は、仮に厳しい戦いに勝利したとしても、今後も裏金問題と向き合う必要があると念を押す。
「当選したことで、有権者の支持を得られたのだから、“みそぎ”をすませたという判断はあり得るかと思います。
だからといって、党や政府の要職への返り咲きが約束されているかと言われると、必ずしもそうではありません。特に大臣などの政府役職に就けば、国会答弁やメディアなどから追及を受けることは避けられないでしょう。
いずれにせよ、政治家として次のステップに進むためには、過去の問題と向き合い、けじめをつける姿勢が求められると思います」