不測の事態と移住の失敗
九州に住むAさんの父に、認知症の可能性があると母から連絡がありました。Aさんの母は免許を返納しているため、父の通院を支えることができません。そのため、Aさんは九州に戻り、両親の生活の面倒を見ることにしました。
幸い、Aさんには歳の離れた弟が九州にいるため、常に付き添って面倒を見る必要はありません。しかし、任せきりにするわけにもいかず、1ヵ月の半分を九州で過ごすようになりました。
こうして、九州と移住地を行ったり来たりする日々が約1年続きます。1年をかけて医療費や父の介護のための実家のバリアフリー化などの費用がじわじわとかさみ、貯金も底が尽きそうな状態に。さらに、体力も続かないことからAさんは新居でこもりがちな状況に陥ります。しばらく家にこもったあと、久しぶりに外で近所の人と会うと、なんだか上手くコミュニケーションがとれません。積極的に関わりを持とうとしなくなったAさんのことを住民たちからは避けられているようにさえ感じました。
結果的に、Aさんは新居を安価で売却することを決断。逃げるように引っ越しました。ぎりぎりオーバーローンにはならず、わずかな売却益が残ったため、貯金の一部とあわせて住宅ローンを返済。その後は、九州に戻り実家の近くで安い賃貸物件を借りて、両親の面倒を見ています。
いまでは、両親を支えることに親孝行の念を抱きながらも、「どうしてこうなったのか。老後も勝ち組だったはずが……」と後悔する日々が続いているようです。
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日本人の寿命は延びている
厚生労働省が発表した令和5年度の「簡易生命表」※1によれば、男性の平均寿命は81.09歳、女性では87.14歳となっています。平成2年のデータ※2では、男性の平均寿命は75.92歳、女性では81.90歳と、約30年で6年も男女ともに寿命が延びている状況です。Aさんの父のように介護が必要な状態となってからも長く生きる人は少なくないのです。
Aさんは、大学卒業後ずっと独身で仕事と自分の私生活ばかりの人生を歩んできたため、家庭や家族との接点をあまり持つことなく定年退職を迎えました。そのため、両親や兄弟のことについて向き合う機会が少なかったのかもしれません。両親が長生きすることを踏まえたライフプランを十分に検討できていなかったといえるでしょう。