「特別受益」は何年前の分まで遺留分計算の対象になる?
生前贈与などの特別受益も遺留分計算の対象になるとはいえ、あまり古いものまで計算の対象となると、遺留分の計算が困難となってしまいかねません。そこで、民法では遺留分の対象となる特別受益に一定の制限を設けています(同1044条)。ここでは、遺留分計算の対象に含まれる生前贈与について解説します。
相続人が特別受益を受けた場合
生前贈与などの特別受益を受けたのが相続人である場合、相続開始前10年以内になされたものが遺留分計算の対象となります。ただし、被相続人と贈与を受けた相続人とがいずれも遺留分権利者を害することを知って贈与を行った場合は、10年以上前のものであっても遺留分計算の対象となります。
被相続人の財産がその後増える予定がないにもかかわらず遺産の大半を生前贈与した場合は、遺留分権利者を害すると知っていたと判断される可能性があるため注意が必要です。
相続開始前10年以上前にした贈与が思いがけず遺留分計算の対象となる事態を避けるため、多額の生前贈与をしようとする際は、あらかじめ弁護士へ相談することをお勧めします。
相続人以外の者が特別受益を受けた場合
生前贈与などの特別受益を受けたのが相続人以外の者である場合、相続開始前1年以内になされたものが遺留分計算の対象となります。相続人以外の者とは、たとえば相続人ではない孫や、子どもの配偶者などです。
ただし、こちらも遺留分権利者を害することを双方が知って行った場合は、1年以上前の贈与であっても遺留分計算の対象となります。
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特別受益がある場合の遺留分の計算方法
生前贈与などの特別受益がある場合、遺留分計算はどのように行うのでしょうか? 本記事では、次の前提で解説します。
・相続人:長男、長女、二男の3名
・被相続人は、長男に6,000万円相当、長女に500万円相当、二男に1,500万円相当を相続させる旨の遺言書を遺していた
・被相続人に債務はない
・被相続人は、相続開始の3年前に、長男に対して4,000万円相当の生前贈与を行った
ステップ1:遺留分計算の基礎となる金額を計算する
はじめに、遺留分計算の基礎となる金額を計算します。遺留分計算の基礎となる金額は、次の式で算定します。
遺留分計算の基礎となる財産の価額=(被相続人が相続開始の時において有した財産の価額)+(遺留分計算の対象となる贈与の価額)-(被相続人の債務)
このケースでは、次の額が遺留分計算の基礎となります。
ステップ2:自身の遺留分割合を確認する
次に、それぞれの遺留分割合を確認します。例の場合は、長男、長女、二男の遺留分割合は、それぞれ6分の1(=遺留分割合2分の1×法定相続分3分の1)です。
ステップ3:遺留分の額を計算する
次に、各相続人の遺留分額を計算します。例の場合において、長男、長女、二男の遺留分額は、それぞれ2,000万円(=1億2,000万円×6分の1)です。
ステップ4:遺留分侵害額を計算する
最後に、各相続人の遺留分侵害の有無と、遺留分侵害額を計算します。例の場合には、それぞれ次のとおりです。
・長男:遺留分額2,000万円≦受け取った財産の合計額1億円(=6,000万円+4,000万円)よって、遺留分は侵害されていない
・長女:遺留分額2,000万円>受け取った財産の合計額500万円よって、遺留分が侵害されている。侵害額は、1,500万円(=2,000万円-500万円)
・二男:遺留分額2,000万円>受け取った財産の合計額1,500万円よって、遺留分が侵害されている。侵害額は、500万円(=2,000万円-1,500万円)
つまり、このケースでは、長女は長男に対して1,500万円、二男は長男に対して500万円を請求できるということです。遺留分侵害額請求を受けたら、長男は原則としてこれを金銭で支払わなければなりません。ただし、分割払いの交渉をすることは可能です。遺留分侵害額請求をされてお困りの際は、弁護士へ相談することも一案です。