政治家の“公約違反”罰則ない理由 「手のひら返し」「うそつき」有権者から批判も…背景に“憲法上の要請”【衆院選】

27日に衆議院議員総選挙の投開票日が迫る中、立候補者らは遊説にラストスパートをかけている。

投票先を決めるにあたって、立候補者および政党がアピールする「公約」を参考にしている有権者は多いだろう。しかし選挙が終わった後、公約を守らないことにつき「手のひら返し」「うそつき」などと政治家が批判を浴びることは往々にしてある。

応援している立場からの“裏切られた気持ち”としての批判の場合と、敵対勢力からのときに“揚げ足取り”としての批判の場合とがあり得るが、いずれの場合でも「公約は守るもの」であることが大前提とされている。

公約破りのような、大切な1票をあざむくような行為に「許せない」と感じる有権者も少なくないが、これに法的な罰則があるわけではない。

公約違反に罰則を設けられない「憲法上の要請」

国会議員は、立候補者として各選挙区の有権者の投票によって選出される。そして当選後、憲法上は「各選挙区の代表」ではなく「全国民の代表」となる。その根拠となるのは、憲法43条1項〈両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する〉だ。

これについて、国会議員秘書、市議会議員を経験し、現在は弁護士として議員法務に注力する三葛敦志(みかつら あつし)氏は次のように説明する。

「憲法上の要請として、全国民の代表であるということは、自分の選挙区の有権者との約束(=公約)に縛られるのではなく、国会においてはすべての国民の代表者となることにより、自己の信念に基づいてのみ行動することを意味すると考えられます。

公約を守らないと失職させるといった、いわば制裁ないし罰則を設けることは、国会議員による自由な活動を妨げることとなることから、認められないということとなります」

さらに三葛弁護士は「利害調整と妥協が政治という営み」であるとも指摘する。

「公約違反に罰則がないとはいえ、『公約は“公の約束”なのだからきちんと守るべきだ』という有権者の感覚は、政治家も理解しています。

そして、国会議員がもっとも避けたいことは『落選』です。次の選挙で有権者に公約違反を追及されれば、当然、落選するリスクも高くなります。そのため、基本的には悪意を持って有権者をあざむこうなどとは考えておらず、公約を実現する方向で活動していきたいと思っているはずです。

ただし国会の場では、“利害調整と妥協”や“事情の変更”により、どうしても公約と違うことをやらざるを得ないこともあります。わかりやすい例で言うと、他党との交渉において、ある政策を実現するために他の政策を譲るといった場面や、予見できない災害の発生など社会的事情が大きく変わる場面のような、何かしらの説明がつく(すなわち説明責任を果たせる)と判断できる場合においては、(結果的に)公約を守らないという選択をすることも珍しくないのではないでしょうか」

選択的夫婦別姓「賛成」の自民党議員が国会では「反対」する理由

政党に所属している議員には、国会だけでなく、政党内でも妥協せざるを得ない場面があるという。

「たとえば選択的夫婦別姓に賛成の立場をとっている与党の議員が、野党の提出した民法改正案になぜ乗らないのか。夫婦同姓が党としての方針である場合、それに反する行動については、政党内において処分がされることで、その後の自身の発言権がなくなってしまうことを考えることによるものです」(三葛弁護士)

石破首相も就任前は選択的夫婦別姓について「やらない理由がわからない」などと発言していたものの、就任後は一転。自身の立場を示すことに消極的になり、12日の党首討論会では、党議拘束を外すことにも慎重な姿勢を見せていた。

「実際のところ、党内議論では政党の立場に対してかなり厳しい意見を言う議員も少なくありません。

国論を二分するような大激論がなされることも珍しくありませんが、徹底的に議論をした後に結論が出た場合には、それに従うということが政党人として求められることとなり、時には選挙の時点において自らの『公約』としていた内容に反する行動(国会での議決など)を行うこともあります。そして、そうした行動に対しては『全国民の代表』であるという憲法上の要請に反するという批判もなされます」(同前)

政治の世界での経験も踏まえて説明する三葛敦志弁護士(弁護士JP編集部)

立候補者が「きちんと公約を守るか」判断基準は?

ひとたび当選してしまえば、“本音”がなかなか見えてこない――。では、自分が1票を託す立候補者がきちんと公約を守るのか、どう判断すればよいのだろうか。

「今は選挙期間中なので、たとえば所属政党の立場と違うことを公約に掲げている立候補者がいたら、直接聞いてみるのもひとつの方法です。

国会議員を経験したことがある立候補者であれば、これまでの行動や公約を守ってきたかどうかの実績を確認することもいいでしょう。また、公約を守らなかったと判断される場合においては、それをどのように説明してきたか、という点も重視できます。そうした際には、メディアの報道も参考になります。

事後検証が可能であることを重視した、いわゆる『マニフェスト』について、国政の場においてはあまり触れられなくなっていますが、こうした発想を有権者の側が持つことも必要です」(三葛弁護士)

公約違反に「罰則」を設けた場合の懸念

これまでみてきたとおり、公約違反は制裁や罰則になじまないとのことだが、仮に、この罰則を「公約違反をした場合には失職をする」という内容にした場合、どのようなことが起きるだろうか。

「そのような場合、当選する見込みのある人は、(罰則のない『全国民の代表』よりも)選挙区の代表であることを最重要視するあまりに、選挙においては各選挙区で利益誘導を主張するようになります。そして、当選後には利益誘導を巡る争いになることが目に見えます。

それを調整し決定する方策として、同じ政党内においても派閥活動が活発になるとともに、各省庁を擁護する族議員がむしろ必要となるとも考えられます。

一方、各政党ごとの公約であれば、全国共通であり全国民を対象するものであることから、ある議員がその公約に違反した場合に罰則(としての失職)があるとすると、どうなるでしょうか。

この場合、選出された個々の議員よりも政党の公約、つまり『党議拘束』的な発想が極めて強力となってしまい、党の方針に反した議員を『公約違反だ』と糾弾し失職させることができるようにもなります。憲法上の位置づけがなされていない『政党』が憲法上の規定のある国会議員よりも上位の存在となってしまうことから、適切でありません。

考え方としては、選挙区選出議員は各選挙区のことを最優先に考え、比例区選出議員は全国または広い地域での利益代表となる、という役割分担もあり得ますが、“狭く強い利益”と“薄く広い利益”との間にうまく調整がつくとも思えません。

以上は一面的な懸念かもしれませんが、公約に罰則を付すことで順守を強制することは、むしろ弊害の方が大きいようにも思えてしまいます。

間接民主制では、投票によって有権者から選ばれた政治家が政治を行っています。そうである以上、有権者の1票は『基本的に公約を守ってね』と託されるものであり、それに反する場合は、前述のように『説明責任』が求められ、次の選挙の際の参考にされることになります。

そしてこれが、『国会議員は全国民の代表である』という憲法上の要請と、有権者が抱えているフラストレーションの最大公約数なのだろうと思います」(三葛弁護士)