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 週休3日制への関心が世界的に高まっている。イギリスの労働党政権は先日、週休3日など労働者の柔軟な働き方を推進する法案を議会に提出した。イギリスで過去に行われた社会実験では、実験終了後も参加企業の多くが制度を継続している一方、経済への影響を懸念する声も上がっている。

 日本でも自治体レベルでの導入が始まった週休3日制だが、導入に向けては慎重な検討が必要とされている。

◆5日分の労働を4日でこなす

 イギリスのスターマー政権は10日、労働者が週4日勤務を要求できる新たな法案を議会に提出した。現行法では、従業員には柔軟な勤務形態を要求する法的権利があるが、雇用主には同意する義務はない。新法案では、追加費用が発生するなどビジネスに影響がある場合を除き、雇用主は従業員に柔軟な勤務形態を提供することが求められる。

 成立すれば、労働者は、たとえば月曜から木曜までの4日間で週の労働時間を終え、金曜日を休日とするなど、1日あたりの労働時間を延ばすかわりに休日を増やすことを上司に求めやすくなる。

 労働党の関係者は、英テレグラフ紙の取材に対し、「柔軟な勤務形態は、親が仕事を続けたり、高齢の親族の介護責任を担う人々を支援したりすることで、より多くの人々が労働力としてとどまり、生産性を向上させる可能性がある」と効果を強調する。

◆従業員の健康向上も、企業の競争力低下に懸念

 過去の世界最大規模の社会実験では、ポジティブな効果が認められた。英ガーディアン紙によると、2022年に6ヶ月間の試験的導入を行ったイギリス企業61社のうち、54社(89%)が1年後も同制度を継続している。すでに31社(51%)は、恒久的な制度として採用したという。

 実験では管理職の82%が、従業員の健康状態が改善したと答えた。さらに、50%は、離職率の低下を認め、32%は採用活動が容易になったと実感したという。さらに、46%が仕事の生産性が向上したと回答した。

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 しかし、週休3日制には批判の声も上がっている。影のビジネス相のケビン・ホリンレイク氏(保守党)は、法案提出の動きを受け、「イギリスでのビジネスコストが上昇する」と警告している。同氏によると、企業や消費者にコスト面でのしわ寄せが生じ、経済成長が損なわれる可能性があるとの主張だ。(テレグラフ)

 英産業連盟(CBI)のマシュー・パーシバル氏は、4日勤務制は「すべての業界で採用できるわけではない」と慎重な見方を示している。同氏は、従業員への待遇改善を検討する際、労働時間の短縮だけでなく、給与や年金の増額、育児休暇の拡充など、さまざまな選択肢を比較検討する必要があると指摘している。(ガーディアン)

◆スペイン、ドイツ…各国で広がる試験導入

 動きはイギリス以外にも広がる。スペイン第3の都市・バレンシアでは、2023年4月から5月にかけて、4週連続で月曜日を休日とする週休3日制を試験的に実施した。約36万人の労働者を巻き込んだ大規模な試みだ。世界経済フォーラムによると、労働者のストレス軽減、疲労度の低下、幸福度の向上などが確認されたという。

 ベルギーは2022年11月、週休3日制の法制化に踏み切った。週の合計労働時間は変えずに、4日間で労働をこなす。ユーロニュースによると、ベルギーのアレクサンダー・デクロー首相は、この制度により柔軟な労働市場が創出され、仕事と家庭生活の両立が容易になるとコメントしている。

ベルギーのデクロー首相|Alexandros Michailidis / Shutterstock.com

 ドイツでは、2024年2月1日から45社が参加する6ヶ月間の試験的導入が実施された。労働者の71%が週休3日制を選択できる権利を望んでおり、雇用者の46%は自社での試験的導入を「実現可能」と考えているという。

 アイスランドでは2015年から2019年にかけて、世界最大規模の週35〜36時間労働のパイロットプログラムを実施した。世界経済フォーラムによると、この試みは成功を収めたようだ。労働者のストレスと燃え尽き症状が軽減され、ワークライフバランスが改善された。

◆日本では地方自治体での導入が進む

 日本でも、週休3日制の導入が徐々に進んでいる。厚生労働省が2022年に実施した調査によると、「完全週休2日制より休日日数が実質的に多い制度」を採用していると回答した企業は、全体の8.6%と少数派ながら存在する。

 自治体での週休3日制の導入も進む。茨城県が2024年4月から、そして千葉県が6月から、教員や交代制勤務の職員などを除く全職員を対象に、週休3日制を導入している。フレックスタイム制を基本とし、1〜4週間ごとの総労働時間は変えずに、勤務日の労働時間を増やす方式だ。これにより、土日以外に週1日、休日とすることができる。(時事通信、4月29日)

選択的週休3日制を導入した茨城県庁|Σ64 / Wikimedia Commons

 もっとも、懸念の声も上がっている。自治体の規模によっては業務が回らなくなる可能性や、1日の労働時間増加による負担増大などが指摘されている。秋田県の佐竹敬久知事は、「今のさまざまな仕事が減ることはない。そう簡単にいかない」と述べ、まずは年次有給休暇の消化率を向上するなどに取り組みたい考えを示した(時事通信)。

 興味深いのは、週休3日制導入後の収入に関する調査結果だ。実施前の人々からは収入の減少を懸念する声が聞かれる一方、マイナビが実施した調査では、実際に週休3日制で働く人の約5割が、収入が増加したと回答している。収入が変わらないと答えたのは約3割、収入が減少したと答えたのは2割以下だった。企業側が働く人の負担を増やさない形で生産性向上を図るケースが多く、なかには増えた休日を副業に充てて収入を増やす人もいるようだ。

 週休3日制は、ワークライフバランスの改善や人材確保、生産性向上などの効果が期待される一方で、業務効率化や労働時間管理など、導入に向けてはさまざまな課題への対応が求められる。今後、新しい働き方として日本社会に浸透していくか、動向が注目される。