過去5万本の記事より大反響だった話をピックアップ!(初公開2023年11月3日 記事は昨年の取材時の状況、ご注意ください) * * *
2023年の渋谷ハロウィンは、極めて厳重な警備体制の下で行われた。もちろん、「行われた」というのは「渋谷区が意図したイベント」という意味では全くない。自然発生的に人が渋谷駅周辺に集合し、各々が自由に楽しんでいた……と書けばより実態に近いか。
渋谷区は「ハロウィン当日は渋谷に来ないで」と呼びかけ、路上飲酒のみならず規制区域での立ち止まりすらも許さなかった。そんな渋ハロの様子を覗いてみたので、この記事で一部始終をお伝えしたい。
◆2023年の渋ハロは「人間回転寿司」状態
筆者がJR渋谷駅を降りたのは、10月31日午後5時である。
この日、別件(ハロウィンとは無関係のイベント)の取材で渋谷に来たのだが、ハチ公前広場とスクランブル交差点には既に大勢の人が集まろうとしていた。もっとも、ハチ公前広場は覆いでグルグル巻きの状態にされ、ハチ公像を拝むことは一切叶わなかった。
また、そもそもコスプレして渋谷に馳せ参ずる人が例年より少なかった。これは見た目でもはっきり分かることである。そしてその中でコスプレをしている人は、大半が外国人だったことも書き留めておかなければならない。
渋ハロは今や世界中にその存在が知れ渡っている「日本独特の奇祭」。それを目当てに来日する旅行者も少なくない。が、彼ら旅行者が抱いていた期待は見事に裏切られたのではないだろうか。
JR渋谷駅からスクランブル交差点、そして渋谷センター街に至る道程は右側通行の措置が敷かれた。その上、コスプレイヤーの撮影等のために路上で立ち止まると、すぐさま警察官か屈強で知られたBONDS SECURITYがやって来て口頭で注意される。どうしても撮影がしたければ瞬時の判断でコスプレイヤーに声をかけ、瞬時の判断で安全そうなスペースを見つけ、瞬時の判断でシャッターを切る。用が済んだら歩行を再開する……という流れである。分かりやすく言えば、当日の渋谷は「人間回転寿司」のような状態だったのだ。
◆日本は「路上飲みができる国」か?
外国人旅行者の間では、「日本は路上飲みができる国」として知られている。
日本以外の国で路上飲みなどやろうものなら、あっという間に泥棒の餌食になってしまう。スリも強盗も、真っ先に狙いをつけるのは道端の泥酔者だ。しかし日本では路上で酔い潰れたとしても盗難の憂き目に遭う可能性が低い国で、だからこそ世界有数の大都市の喧騒を楽しみながら安心して路上飲みができる……という発想である。
もちろん、その地域で店を構える人にとっては路上泥酔者などたまったものではない。今年の渋ハロでは路上飲み禁止区域が設定され、同時に徹底した監視も行われた。上述の「人間回転寿司」と相成り、少なくとも禁止区域では路上飲みはほとんど見かけなかった。
◆交通整理がなかったら…
取材を終えて一夜経った今でも、筆者の耳にはホイッスルのけたたましい音が焼き付いている。
「立ち止まらないでください!」
「路上飲みは禁止です!」
「右側通行にご協力ください!」
「歩きスマホはご遠慮ください!」
午後8時を過ぎる頃になると、警察官のホイッスルはまるで発狂したかのような状態になった。さらに大勢の人が集まり出したのだ。
この時点で、JR渋谷駅のハチ公口は閉鎖。群衆事故防止のために迂回路が設けられ、筆者を含めた来訪者は強制的にそこへ誘導させられた。「強制的」という言葉は適切ではないと指摘されてしまうかもしれないが、現実としてそうだったのだ。
強制をしなければ本当に事故が発生してしまう、と思った瞬間がある。
それは午後9時頃、渋谷センター街から井の頭通りへ接続する道を進んだ時だ。突然多くの人がこの道へ入ったため(道幅は決して広くない)、一気に密度が高くなった。筆者と同行していた取材助手は、
「ヤバい、これ早く離脱したほうがいい!」
と、叫び出した。大人数による交通整理がなければ、韓国・梨泰院のような群衆事故が渋谷で発生する可能性は確かにあったのだ。
◆クラスターフェス活動家はどこへ行った?
さて、例年の渋ハロではYouTuberが自撮り棒片手に参加するという光景が見られた。今年はもしかしたら外国人迷惑系YouTuberが何かしでかすのでは……とも推測したが、それは憶測のうちに終わった。
繰り返すが、今年の渋ハロはとにかく「歩き回る」ことを強要された。友人と現地で待ち合わせ、などということはとてもできない。一方通行の道にスマホを設置したスタンドを立てて、音楽に合わせてダンスする猛者も確かにいたが、この人物も警察官や警備員に追い立てられながら何とか粘っている……という具合だった。
なお、パンデミックによる外出自粛期の渋谷で異彩を放っていたクラスターフェス活動家グループ(“コロナは風邪”と主張していた政治団体)は、今年の渋ハロでは影も形も見当たらなかった。「パンデミックなど存在しない」とすら主張していた彼らは、つまるところパンデミックがなければ存在すら叶わない「時代のつむじ風」だったのだ。
◆悪貨を駆逐する良貨
そんな2023年の渋ハロだが、2010年代の「最盛期」と同等の光景はもう見られないのではと筆者は考える。が、それは必ずしもネガティブな推移ではない。
というのも、来年以降、渋谷区と企業が公式のハロウィンイベントを開催するという可能性が考えられるからだ。池袋のハロウィンがまさにそうだった。悪貨を取り締まるだけではそれを完全には駆逐することはできず、誰しもが全幅の信頼を寄せる水準の良貨を発行しなければならない。いずれにせよ、今後の渋ハロはその姿を大きく変えていくだろう。
<取材・文・撮影/澤田真一>
【澤田真一】
ノンフィクション作家、Webライター。1984年10月11日生。東南アジア経済情報、最新テクノロジー、ガジェット関連記事を各メディアで執筆。ブログ『たまには澤田もエンターテイナー』