「速やかに医師不足の解消を」――。
今年4月から政府が医師についても進める「働き方改革」は、時間外労働を年間1860時間まで認めるなどむしろ改革に逆行した“改悪”であるとして、日本医療労働組合連合会と全国医師ユニオンの代表ら4人が10月24日、東京・霞が関の厚生労働省を訪れ、武見敬三厚生労働大臣宛てに働き方改革の真の実行を求める要請書を提出。その後、都内で記者会見を開き、医師の増員など抜本的な改革の必要性を訴えた。
1日平均5時間にもおよぶ時間外労働
医療の現場はむしろ改善から逆行しているようだ。
2024年4月から、働き方改革の一環として医師の時間外・休日労働上限規制が開始された。
しかしその一方で、時間外・休日の労働時間が上限規制である年960時間をやむを得ず超えてしまう場合に、都道府県が、地域の医療提供体制に照らし、その上限を年1860時間まで引き延ばせる枠組みも設けられた。メディアは、現状について「勤務医の24%が超過労働(を強いられている)」(日本経済新聞9月3日付)と伝えている。
会見に臨んだ全国医師ユニオンの植山直人代表は、「今年4月から医師の働き方改革が進められているが、現場では全く改善されていない」と強調し医療現場が抱える切実な状況を伝えた。
武見厚労相に提出された要請書では、速やかに改革してほしい16項目、さらに中長期的な政策として長時間労働の解消につながる「医師の増員を速やかに行うこと」など3項目を求めた。
その中で植山代表らは、長時間労働が強いられている原因として、労働時間とはみなされない労働基準監督署が出す“宿日直勤務”の許可が乱発されていることや、自己研さんの拡大解釈が横行していることなどを挙げた。
「合法的に過労死を認定している」
宿日直勤務とは、使用者の命令によって一定の場所に拘束され、緊急電話の受理、外来者の対応、盗難の予防などの業務に従事するもの。夜間にわたり宿泊を要するものを宿直、昼間であれば日直と呼ばれる。夜勤、日勤などとは異なり、あくまで非常事態が発生した場合の対応要員であり、通常労働は認められていない。
使用者は、宿日直勤務について労働基準監督署の適法な許可を受けた場合に限り、法定労働時間外であっても労働者を使用することができる。通常労働の時間としてカウントされず、法律上は労働時間、休日の規制の枠外に置かれている。
しかし、実態では、夜間、休日の救急対応や入院患者の急変等に対する医療行為が含まれ、精神的にも肉体的にも過重性が高いという。
全国医師ユニオンが独自に行った調査によれば、「(宿日直中に)業務がないと答えたのは2割ほどだった」(植山代表)という。
「救急や夜間の外来を行っていない、たとえば高齢者の見取り中心の病院などは夜間労働も短く、宿日直許可も認められるだろうが、救急病院や集中治療室で勤務する医師らにも(労基署は)許可を与えている。現場の実態と乖離(かいり)している」(同上)と指摘。
令和2年では144件だった労基署の宿日直許可件数が、同5年には5173件まで増えている現状も紹介した。
労基署における宿日直許可の許可件数は大きく増加している(会見資料より)
また、日本医療労働組合連合会の森田進中央副執行委員長は、「年間最大1860時間の残業(時間外労働)はほかの国ではまずあり得ない。合法的に過労死を認定している」と言葉を強め、さらに健康確保措置として導入された勤務間インターバルの時間(9時間)確保についても、「(9時間は)睡眠を6時間取る、とした場合の時間であり、通勤などの時間を考慮していない。現場の感覚では全くあり得ない時間だ」と憤った。
さらに、少なくない医療機関が一部の労働を自己研さんと捉え、労働時間に組み入れていないことも問題視。植山代表は「専門医が新しい治療法を研究し、その研究を治療に生かしたい、といった場合は研さんと言えるだろうが、研修医や専攻医が標準的な治療法を学ぶことは研さんではない」と述べた。
患者に不利益が及ばないような改革求められる
会見では、長時間労働等により、医師の健康が確保できないことによる医療安全の問題も指摘された。
全国医師ユニオンなどが2022年10月に行った勤務医労働実態調査によると、「医師の長時間労働は医療過誤の原因に関係していると思いますか」の問いに対し、8割以上の医師が「大いに」「ある程度」関係していると答えている。
「欧米の医師の労働時間規制は、医療の安全性の点から行われている。何日も寝ていない医師が何日も当直を務めているようなことがあれば患者が困る。患者に不利益が及ばないよう考えなければならない。安全性の視点から(労働時間の)上限規制を考え直してほしい」(植山代表)
医師、医療従事者の健康のため、ひいては国民の健康のためにさらなる改革が求められる。