身内が亡くなるとあらゆる手続きに追われることになりますが、相続に関する手続きも忘れてはいけません。手続きによって期限がそれぞれ違うため、遅れないように注意しましょう。本記事では、遺産相続に関する9つの手続きについて、必要な書類や注意点を税理士が解説します。

相続発生後すぐ…遺言書がある場合

相続の手続きを始めるには、まず、遺言書があるかどうかを確認します。遺言書の有無によって、その後の相続手続きの内容や必要な書類が変わるからです。

自宅や貸金庫などで遺言書が見つかった場合は、その場で開封してはいけません。開封したことで、遺言書の偽造や変造が疑われてしまいます。

自宅や貸金庫などで保管されていた遺言書は、亡くなった人の住所地の家庭裁判所で検認という手続きをする必要があります(ただし、表題に「遺言公正証書」と書かれているものであれば、検認は不要です。このほか、公証役場や法務局で保管されていた遺言書も、検認は不要です)。

検認とは、その時点での遺言の内容を明確にして、遺言書の偽造や変造を防ぐための手続きです。遺言の内容が法的に有効か無効かの判断はされません。

検認の手続きには、遺言書のほか、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本などが必要です。

検認が終われば、家庭裁判所は検認調書を作成します。遺言の内容に従って遺産を処分するには検認済証明書が必要になるので、家庭裁判所で申請します。

検認されていない遺言書を開封したり、検認されていない遺言の内容に従って遺産を処分したりした場合は、5万円以下の過料を支払わなければなりません。ただし、この場合でも遺言そのものは無効にはなりません。

また、遺言書を偽造・変造したり、破棄したり、隠したりした人は、遺産を相続することができなくなります。

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3ヵ月以内…プラスの財産より借金が多い場合には相続放棄

相続放棄とは、亡くなった人の遺産や借金を一切受け継がないための手続きです。相続放棄の手続きは、相続の発生から3ヵ月以内にしなければなりません。

亡くなった人に多額の借金があったときは、借金を受け継がないために相続人全員が相続放棄をすることができます。手続きが遅れると、相続人が借金を引き継いで返済していくことになります。

また、亡くなった人の遺産が少額で、特定の相続人に全額相続させるために、ほかの相続人が相続放棄する場合もあります。この場合は、手続きが遅れても大きなデメリットはありませんが、遺産分割協議が必要になるなど、手間が増えることになります。

相続放棄の手続きは、相続の発生から3ヵ月以内に、亡くなった人の住所を管轄する家庭裁判所で行います。手続きに必要な書類は次のとおりです。

・相続放棄の申述書(800円分の収入印紙を貼付)

・亡くなった人の死亡の記載のある戸籍謄本(または出生から死亡までの戸籍謄本)

・亡くなった人の住民票除票または戸籍附票

・相続放棄する人全員の戸籍謄本

戸籍謄本と戸籍附票は本籍地の市区町村役場で、住民票除票は居住地の市区町村役場で取得できます。出生から死亡までの戸籍謄本は、取得に時間がかかる場合があります。

■3ヵ月以内に決められない場合には延長もできる
亡くなった人に借金があることがわかっても、その金額の調査に時間がかかる場合があります。また、不動産が各地に点在している場合も遺産の実態調査に時間がかかります。このような状況では、相続放棄の期限である3ヵ月の間に相続放棄したほうがよいのかどうかの判断ができないことがあります。

相続放棄の期限である3ヵ月の間に相続放棄をするかどうかが決められない場合は、家庭裁判所に対して「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立て」をすることができます。

手続きに必要な書類は次のとおりです。申立書には伸長を申し立てることになった理由を書く必要があります。

・相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書(800円分の収入印紙を貼付)

・亡くなった人の死亡の記載のある戸籍謄本(または出生から死亡までの戸籍謄本)

・亡くなった人の住民票除票または戸籍附票

・伸長を申し立てる相続人の戸籍謄本

■特別な事情があれば3ヵ月経過後に相続放棄できることも

特別な事情があれば、相続の発生から3ヵ月を経過しても相続放棄が認められる場合があります。特別な事情とは、次のような場合をさします。

・亡くなった人に借金があったことを知らなかった場合

・亡くなった人と疎遠になって相続があったことを知らなかった場合

相続の発生から3ヵ月を過ぎた場合の相続放棄の手続きは非常に難しいため、経験豊富な弁護士や司法書士に手続きを依頼することをおすすめします。