「女性から触ってきたから…」セクハラ告発され“降格処分” 不服を訴えるも裁判所から一蹴…男性課長の“悲しき勘違い”

ーー なぜ、女性部下の太ももを触ったんですか?

男性課長
「彼女が私のお腹をつついてくるので『つつくのをやめるように』との意味を込めて彼女の大腿部(だいたいぶ=太もも)をたたいたのです。変な気持ちで触ったのではありません」

このように弁解したものの、臀部(でんぶ=お尻)を触るなどのセクハラもあり、男性課長は降格処分となった。(東京地裁 R5.12.15)

当初、2人は仲が良かったのだが、男性課長のスキンシップがエスカレートしてセクハラ事件へと発展した。以下、事件の詳細だ。

事件の経緯

会社は、建築工事や土木工事の企画・設計などを行っており、セクハラをした男性課長は50代の男性。被害者は、男性課長と同じ支店で勤務していた部下で、20代の女性だった。

■ 昔のセクハラ事件
今回のセクハラ事件の約7年前にも、男性課長は別の女性社員へのセクハラを理由にけん責処分を受けている。その際に男性課長が作成した顛末(てんまつ)書には以下の内容が書かれていた。

・女性社員と夕食に行った
・女性社員が「私の髪が硬い」と言ったので、同意を得て髪を触った
・「これからも仕事を頼む」という意味で握手をした
・その際に肩を2回たたいた

男性課長の真意は不明だが、この時代、安易に女性社員に触れるのはヤメた方が良いだろう…。

■ 男性課長と女性部下の仲は良かった
さて、冒頭のセクハラ事件に戻る。一般的にセクハラ事件といえば「男性上司が女性部下から嫌われている」状況が想起されるが、今回の被害者である女性部下は過去、男性課長にLINEで「○○かちょ」「これからも仲良くしよーねー!」などのメッセージを送っており、当初、2人の仲は良かったことが伺われる。

■ セクハラの内容
男性課長は「俺に気があるな」と思ってしまったのであろう。違法なスキンシップへと進んでしまう。本件で問題となったセクハラは以下のとおりだ。

・女性部下の大腿部を頻繁に触る(男性課長が自認するだけでも10回程度)
・手をつなごうとする
・臀部を触る(エレベーターに2人で乗っていたとき、女性部下がエレベーターから降りる際に立ち止まったところ、男性課長が女性部下の臀部を手のひらで2回たたいた)
・男性課長の手が女性部下の胸に当たる(上記で臀部をたたいたあと、男性課長が女性部下の前に行って手を伸ばした際、男性課長の手が女性部下の胸に当たった)

■ 苦情LINE
上記の「胸に触れた件」で女性部下の堪忍袋の緒がキレ、男性課長に「おつかれさまです。次セクハラしてきたら本当にコンプラに通報しますからね」と抗議のLINEを送った。その後のやりとりは以下のとおりだ。

男性課長
「良く言いますね。こちらが被害者ですよ。やめてくださいね」

女性部下
「胸を触ってきたことに関しても謝罪はないということでよろしいですね」

男性課長
「ちょっと色々考えてみます」

女性部下
「はい。考えてくださいね。ぽよん、ぽよんの件も一緒に考えてください」

女性部下の言う「ぽよん、ぽよんの件」が何を意味するのか、判決文からは読み取ることができないが、ネーミングからして男性課長が“イランこと”をしているのが想像される…。

■ 苦情のTEL
2日後、さらに女性部下は男性課長にTELをした。詳細は以下のとおりだ。

女性部下
「これまでお世話になっているが、セクハラがエスカレートしており、一緒にいることが怖くなっています。お尻や足を触られたことについては、私が課長の腹部をつついたから仕方がないとしても、胸を触られたことは衝撃でした。課長が勘違いしているのであればアレなんですが、私は課長のことを上司としてしか考えてないので今後はやめてほしいです…」

男性課長
「勘違いはしていない。あなたは私のお腹をつつく際に喜んでいたので、自分が触られることも別にいいのかなと思っていた。大腿部をたたく際も『私のお腹を触るのを止めるように』との意味でたたいたのがほとんどであり、変な気持ちで触ったのではない」

女性部下
「私が課長になついていたことはたしかなので…謝罪します。課長も謝罪してほしい」

男性課長
「いろいろと悪かった」

■ コンプライアンス委員会へ
翌月以降、女性部下は「課長の私への対応に波がある…」と感じ始めたので、約3か月後にコンプライアンス委員会に匿名でセクハラを通報した。

■ 顛末書
コンプライアンス委員会の担当者は、両者から事情を聞いた。その後、男性課長が提出した顛末書には、反省が書かれていたものの、それに加え【女性部下に関して】以下の記載があった。

・脱毛しているから陰毛がない
・風呂あがりは裸で寝る
・この女性社員は「彼氏の家に泊まりに行くので彼氏の好きな黒の下着を買った」と恥ずかしげもなく話す変わった人物である

女性部下にも非があるんだよ、ということを言いたかったのであろう。

■ 降格処分
その後、会社は男性課長を降格処分とした(課長 → 担当)ので、男性課長はこれに不服があるなどとして提訴した。

裁判所の判断

裁判所は「降格処分はOK」と判断した。大きな理由は「故意に身体を触るセクハラを継続的に行っており悪質な行為と言わざるを得ない」というものだ。

大腿部を触った件について男性課長は「女性部下が私のお腹をつつくなどしてちょっかいを出すことがしばしばあったので、そのときにそれを止めるよう伝える意味で女性社員の大腿部をたたいたにすぎません」と反論したが、裁判所は以下のとおり一蹴している。

「たしかに女性部下から親密なLINEが送られていたり、女性部下が男性課長の腹部を頻繁に触ることがあったとはいえ、課長の立場からすれば、女性部下に対して【従業員同士の適切なコミュニケーションの取り方を指導】すべきである。にもかかわらず、指導せずに自分からも繰り返し女性部下の身体を触っており、女性部下が男性課長の腹部を触っていたことを重視すべきではない」

さらに裁判所は、男性課長が書いた顛末書について「反省の弁を記載する一方で、女性部下が性的に奔放な女性であるとの印象をあたえる事実を記載しており、自らの行為の問題点を十分に理解し反省しているとは言い難い」と“お怒り”であった。

最後に

私を含め、男性たちはこの事件を教訓とすべきであろう。女性部下が親密な態度をとってきたとしても勘違いしてはいけない。どれだけ親密なLINEが送られてこようとも、ボディータッチされようとも「これは仕事上での社交辞令なんだ」と気を強く持ちましょうね。マジで。