「大学を卒業したが働かない(働けない)子どもがいる。定年後私たちの家計は破綻しないだろうか?」「小学生の子どもが学校に行けず、日中面倒を見なければならない。在宅勤務ができない仕事なので退職した」不登校・ひきこもりの子どもがいる家庭が増え、この問題は社会全体でも大きな関心を集めています。本記事では、Oさんの事例とともに、子どものひきこもり問題を解決に向かわせる方法について、FP事務所・夢咲き案内人オカエリ代表の伊藤江里子氏が解説します。

不登校、ひきこもり、ニートが家計におよぼす直接的な影響

「不登校児童生徒」とは?

不登校児童生徒は、

何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの

と文部科学省の調査※1で定義されています。2022年度(令和4年度)の文部科学省調査※2によると、不登校の小中学生は29万9,000人を超えており、その数は過去最高を記録しています。29万9,000人のうち中学生は19万3,936人(前年16万3,442人)と、小学生より多い人数となっていますが、小学生10万5,112人(前年8万1,498人)は29%増加率で、教育環境や心理的要因、家庭の事情などが影響しているとされています​。

不登校は子どもだけでなく、家族にも精神的負担がかかり、家計にも影響を与えます。フリースクールなど学校以外の教育手段にかかる費用やカウンセリング費用、子どもが家で過ごすことでかかる光熱費などの支出が増加する一方で、時短勤務や退職により、親の収入が減少するケースも少なくありません。

経済面・精神面で負担がかかりますが、無料で相談できる行政機関、自治体によってはフリースクールの補助があります。公的支援や地域のサポートを活用し、家族全体で協力し合うことで軽減することも可能です。

「ひきこもり」と「ニート」

子どものひきこもり、ニートも経済面、家族の精神面に大きな影響をおよぼします。厚生労働省の「ひきこもり支援施策」や関連ガイドライン※3によると、ひきこもりは、

さまざまな要因によって社会参加(就学、就労、家庭外での交友など)を回避し、6か月以上家庭にとどまり続けている状態

と定義されています。また、ニート(NEET)とは、「Notin Education, Employment, orTraining」の略で、15~34歳の若年者のうち、就学・就労しておらず、職業訓練も受けていない人々を指します。ニートは就学・就労していない人を指すので、充電期間、家族の介護などにより、就学・就労しない、あるいはできない事情がある人も含まれます。また資産家で、働かなくてもいいと考える人もいると考えられます。

しかし、ひきこもりは社会的な孤立や精神的な問題も含むため、ニートに比べるとより社会的支援が必要と考えられているため、不登校と同様に行政などの公的機関やNPO・地域団体がさまざまなサポートを提供しています。

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子どもが働かない…老後の家計に暗雲

不登校が必ずしもひきこもりやニートにつながるわけではありません。義務教育期間中や高校に在籍中などは学校とつながり、支援機関の情報を得ることも可能です。しかし、高校卒業後以降は子どもの自由度が高くなり、親世代が現役で働いて経済的な余裕がある間は、相談窓口や支援機関に積極的に関わろうとしないことも多く、その結果対応が遅れてしまうこともあります。

親が定年を迎える時期に将来への不安が増し、サポートの遅れを実感し始める家庭も少なくありません。

Oさん:62歳(会社員、定年後再雇用で年収500万円)

息子:30歳(独身、無職)
(妻は、1年前、60歳で病気のため他界)

Oさんは、現役時代大手企業に勤務し、50代半ばごろの年収は約900万円。55歳のときに住宅ローンも完済、息子も大学卒業して就職し、このままいけば定年後も安泰と考えていました。

ところが、息子は就職して半年あまり経ったころに人間関係に悩んでうつ状態となり、実家に戻ってきて1年半ほど休職。そのまま退職してしまいました。中学、高校時代は、先生や同級生との関係が原因で学校を休みがちな時期もあり、無理をせず入れる大学に入学・卒業したものの、本人にとっては不本意な進路だったのかもしれません。

自分に合う場所を見つけて働けるようになればと、Oさんは息子の休養期間を見守っていました。おかげで、徐々に落ち着き、しばらくすると特定の人付き合いはしないものの、スポーツジムに通うなど日常に落ち着きを取り戻しました。

その後、妻の病気が発覚。治療費など日常生活で出費はかさみましたが、退職金もあり再就職で仕事を続けたため経済的にも困ることはありませんでした。しかし、残念ながら2年ほどの闘病生活後に亡くなりました。

息子と2人暮らしになったOさんの資産は、ローンのない家と預貯金が約2,000万円。そして、休職中の傷病手当金を使い果たしたあとの息子に、Oさんが小遣い(月2万円)を渡すほか、国民年金保険料やOさんの口座引落のクレジットカードの買い物、スマホ代、スポーツジムの会費(週3回通い)など月々3万円~4万円程度負担しています。

「息子は身体を鍛えて、家の掃除をしたり観葉植物の世話をしたりしながら毎日過ごしています。食事も毎食整えてくれていて、朝は焼き立てのベーグルの香りが居間から漂っています。ただ……。先日、『今日は米粉にしてみたよ』と言われたときは、正直恐怖すら感じました。そんなことをしている場合なのかと」Oさんは続けます。

「もう休養する必要はないと思うんです。ですが、息子はこのまま働かないでいるつもりなのだろうか。まるでゆとりのある暮らしを送っている人のような生活ぶりです。確かに人と違うことは働いていないということだけです。そうはいっても、さすがにこのままだと社会からも孤立してしまうことも心配で……」息子への不安に加えて、Oさんにはもう1点大きな不安があります。

「まもなく年金生活になります。自分1人の年金でやっていけるのか……」いままでのようには暮らせないと、悲鳴をあげます。