一緒にいればおしゃべりの訓練ができて共通項がつくれる
せっかくご夫婦になったのですから、どこへ行くのも、何を食べるのも“なるべくご主人と一緒に”という条件を付けた方がいいと思います。それが、ご主人にとっておしゃべりの訓練の場になります。
仏教では、相手との共通項に気付けば慈悲が発生すると考えます。エレベーターに知らない者同士が乗り合わせたら、心の距離を縮めるために「今日はいい天気になりましたね」など、共通項の天候や時事問題を話題にするのはご承知の通りです。
すでにご主人と20年間も同じ時間、同じ空間で過ごしていらっしゃるので、お二人には共通項が山ほどありますが、子育てが終わりに近付いてきた中で、ご主人と一緒に出掛け、食事をするのが、お二人の新たな共通項づくりになります。
MAさんの今回の相談に対して、「ご主人なんか放っておいて、自分の好きなことを見つけて仲間をつくり、どんどん楽しめばいい」という回答もアリですが、心穏やかに生きるために慈悲を説く坊主としてはおすすめしません。共通項がつくれないからです。
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楽しみながら「ご主人おしゃべり化計画」を実行しても
おしゃべりが得意(?)なMAさんなら、ご主人に対して呼び水代わりにどんどん話し掛けて、ご主人に話をさせることもできるでしょう。
例えば「今日、朝起きてから今までにあなたが見た・聞いた・嗅いだ・食べた・触ったことで印象に残っているのは何?」と聞いて、「味噌汁がおいしいと思ったよ」とご主人が答えたとします。
そこで「おいしいと思ってから何を感じたの?」と聞き、ご主人が「別に……」などと答えたら「“この味噌汁は、女房が作ってくれたんだな”と思わなかった?」という具合です。
あるいは「一日一回くらい、私が喜びそうなことを言っても罰は当たらないと思うんだけど」と笑顔で伝えてみるのもいいかもしれません。
そんなことは面倒なのは百も承知です。しかし、何もせずに、これから迎えるであろうご主人との寂しい時間を考えれば、それくらいの努力は今からなさった方がいいでしょう。
楽でなくても、楽しむことはできます。
“これでもしゃべらないなら、こっちでどうだ”と楽しむくらいの気概で、お子さんにも手伝ってもらって、「ご主人おしゃべり化計画」を実行されてはいかがでしょう。それもMAさんがハッピーになる一つの方法です。それができないほど、人生は短くないでしょう。
ヘレンケラーは「幸せの一つの扉が閉じると、別の扉が開く。しかし、私たちは、閉ざされた扉をいつまでも見ているために、せっかく開かれた扉が目に入らないことが多いのです」という言葉を残しました。
子育てという扉が閉まろうとしている今、MAさんには、ご主人とハッピーに生きる扉が開き始めているのだと思います。たくさん共通項をつくって、ご主人を巻き込んだハッピーな時間をお過ごしください。
回答者プロフィール:名取芳彦さん
なとり・ほうげん 1958(昭和33)年、東京都生まれ。元結不動・密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。写仏、ご詠歌、法話・読経、講演などを通し幅広い布教活動を行う。日常を仏教で“加減乗除”する切り口は好評。『感性をみがく練習』(幻冬舎刊)『心が晴れる智恵』(清流出版)など、著書多数。
構成=渡邊詩織(ハルメクWEB)