「妻と浮気相手の間に生まれた子」を見捨てられなかった夫の悲哀。養育費を支払う“条件”は離婚翌日に破られ…

托卵(たくらん)という言葉を知っていますか? 10月17日から「托卵」をテーマにしたドラマ『わたしの宝物』(フジテレビ系列)が始まったので、耳にした人も多いでしょう。もともとは人間ではなく鳥類の習性のことです。

例えば、メス鳥Aはオス鳥B、メス鳥Cの巣に卵を産み付け、孵化したひな鳥をB、Cに育てさせる習性のことです。Aは自分が産んだのに、そのひな鳥を育てようとしないのです。このドラマでは夫と血のつながらない子どもを「夫」に育てさせるという意味で「托卵」という言葉を使っています。

◆自分が父親だと自信を持てなくなった場合は…

妻の美羽(演:松本若菜)は幼なじみの稜(演:深澤辰哉)と再会。一夜をともにしますが彼の子どもを妊娠、出産。結婚期間中に妊娠した子どもの父親は原則、夫という法律があります(嫡出推定。民法772条)。これにより、夫の宏樹(演:田中圭)に子どもを育てさせるーーというのが『わたしの宝物』の大まかなストーリーです。

「僕の子じゃないんじゃないか」と夫が疑うきっかけの例をあげていきましょう。夫と子どもの性格がまったく逆、容姿が違いすぎる、夫や妻と子どもの血液型が異なる、毛髪や唾液のDNAを鑑定し、「99.9999%、親子ではない」という結果が出た……などが浮かびます。仮に自分が父親だと自信を持てなくなった場合、どうすれば良いのか。選択肢は以下の3つです。

・妻、子どもと縁を切る(妻とは離婚、子どもの戸籍の父親欄から抜ける)

・妻と離婚するけれど、子どもの父親のまま。養育費を払う

・何もしない(妻と離婚せず、子どもの父親のまま、結婚生活を続ける)

◆なぜ養育費を払う選択をしたのか

最高裁判所(平成27年)によると親子関係の存在について申立件数は年間233件です。筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談に乗っていますが、過去に「男の離婚本」を5冊も出版しているため、「不倫の子」について相談しに来る男性が一定数います。今までの相談者は1と3を選んでいましたが、今回の相談者・北条優斗さんは珍しく2を選んだので印象に残っています。なぜ、本当の父親が別にいるにもかかわらず、子どもの父親として自分の財布から養育費を払うのでしょうか?

なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また夫婦の年齢や結婚までの経緯、親子関係の証拠などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。

<相談者の属性(すべて仮名)>

夫:北条優斗(38歳・会社員・年収600万円)

妻:北条彩音(34歳・専業主婦)

長男:北条陸斗(2歳)

妻の元彼:結城浩太(38歳・職業不明・年収不明)

優斗さんは「先生にこのような相談をしないといけないなんて。とても悲しいです」と前置きした上で「今までずっと疑っていました。息子が自分の子じゃないんじゃないかって」と下唇を噛みながら言います。優斗さん夫婦には現在、2歳の長男がおり、昨年購入した郊外の戸建に住んでいます。一見すると絵に書いたような幸せな家庭のようですが、実際は大きな火種を抱えていました。

優斗さんと息子さんは性格や容姿が正反対でした。

◆「妻がそんなことをするわけがない」と自分に言い聞かせた

まず性格ですが、優斗さんは引っ込み思案で口数が少なく、1人でいるのが好きなタイプなのに息子さんは大勢に囲まれているのが好きで、思ったことはすぐに口にタイプ。だから、ちょっとしたことでぶつかることが多かったのですが、思い返してみれば、優斗さんは自分の父親とも喧嘩することが多かったようです。そのため、父と子は「そういうものだ」と割り切っていました。

次に優斗さんと妻は一重で切れ長のソース顔なのに、息子さんはばっちり二重のしょうゆ顔。夫婦と似ても似つかないので首をかしげることが多々ありました。筆者は「小さい頃は毎日、顔が変わるものですよ」と諭しました。「僕も妻も血液型はO型、でも息子はB型。産まれてくるはずがないのに……」と苦虫を噛み潰しますが、「血液型がすべてではない」と気にしないようにしたのです。

迷いに拍車をかけたのは妻が長男を妊娠した3年前。夫婦はセックスレスではなく、1ヵ月に1回ほどの夫婦生活はあったそうです。もし、長男が優斗さんの子でなければ、妻には表の顔(いい奥さん)と裏の顔(不倫妻)があることを意味します。優斗さんは「妻がそんなことをするわけがない」と自分に言い聞かせたのです。

◆普段おとなしい妻の「態度が急変する日」が

筆者が「全く何も心当たりがないんですか?」と尋ねると、優斗さんは首を横に振ります。「僕と知り合う前に付き合っていた元彼かな……」と口ごもります。元彼はもともと建設業を営んでおり、妻も彼の仕事を手伝っていました。それが、脱税の容疑で逮捕され、懲役2年の刑を科されたのですが、それが当時別れたきっかけでした。

「当時の妻は彼に振り回されて疲れ果てていました。脱税とは別に、居酒屋で暴れて捕まったこともある、ヤバい奴なんです」と振り返ります。そんな妻を救ってあげたい。こんな僕でよければという流れで付き合い始め、そして結婚したそうです。現在、彼はすでに出所しており、妻と連絡をとることも、直接会うことも可能といえば可能です。優斗さんは「まさかとは思いますが……妻もかなりひどい目に遭ったのだから」と首を振りますが、「そういえば」と思い出しました。

「いつもの妻」はいわゆる三歩下がって歩くタイプ。「はい」「うん」「そうですね」と上手に合槌を打ってくれるのです。亭主を立てる謙虚で健気な性格です。妻は自分から話しかけてくることがほとんどなく、優斗さんは「僕が仕切らないと会話が続かないんですよ」と自嘲気味に語ります。

奇妙なことに、妻の態度が急変する日があると言います。例えば、きつい目で優斗さんのことを睨みつけ、罵詈雑言をぶつけてくるのです。例えば、「ユニクロのGパンなんてぜいたくじゃん?!ジーユーにしなよ!」「本当にボーナス、これぽっちなの?!何年、同じ会社に行ってんだよ!」「スポーツクラブで運動するなんて何様のつもり? こっちは陸斗(長男の名前)のお世話でくたくたなんだけど」と。いきなり守銭奴の顔に変貌するのです。

◆騙し騙し、子育てを続けてきたが…

筆者は「悪口を吹き込んだのは元彼なのでは? 元彼の影響を強く受けすぎるのでしょう」と指摘。妻は優斗さんの愚痴や不満、悩みを打ち明け、元彼が優斗さんの悪口に言い換え、それを妻が真に受けたということです。もし妻と元彼が復縁していたとするなら変貌ぶりには合点がいきます。どちらが本当の顔なのか。いつもは猫をかぶっていたのではないか。優斗さんは完全に混乱していました。

優斗さんは2年もの間「妻の疑惑」をはっきりさせないまま、何とか騙し騙し、子育てを続けてきたのですが、最近の妻の言動が目に余るものがあります。今までずっと我慢してきたにもかかわらず、このタイミングで思わず不満を爆発させてしまったのです。

「僕がいつも身を粉にして頑張っているのは二人のためだよ。仕事だって、なかなかやり手がいない夜勤を進んでやったり。家のことだって、できる限り、手伝っているつもりだよ。それなのに最近の態度は何なんだ? 僕にだって我慢の限界がある」と。

にもかかわらず、妻は黙って下を向き、一言も発しません。せめて「ごめんなさい」「心を入れ替えるわ」「これからは気を付ける」など最低限の約束があれば、優斗さんはこれ以上、何も言わなかったかもしれません。が、妻からは謝罪の言葉も改心の態度も、そして贖罪の意思もありませんでした。

◆妻が持ってきた鑑定書に明記されていたのは…

そこで「陸斗が僕の子どもじゃないってことくらい、前から知っていたんだ。それなのに普通の父親として接してきたし、愛情を注いできたし、十分なお金もかけてきたじゃないか」と口をすべらせてしまったのです。

そうすると妻はいきなり表情が変わり、眼光が強くなり、緊張感を漂わせる感じで自室へ行くと、「ある封筒」を持って帰ってきました。封筒の表面には鑑定機関の会社名が書かれていました。そして優斗さんが封筒を開けると、鑑定書が入っており、そこには「被験者同士は生物学的に親子関係があると判断されます」という文字と、「99.9999%」と確率が表記されていました。優斗さんは自分と息子さんが親子ある確率が99%だと思い、一瞬だけ安堵しました。

けれども、被験者として表記されていたのは優斗さんではありませんでした。それは元彼の名前。つまり、息子さんの父親は元彼、そして優斗さんは父親ではないことが明らかになったのです。さらに妻は「こういうこと。私は何も言わないわ。あなたが考えて……私は言う通りにするから」と。

◆離婚を決意したものの、息子との関係をどうするか

優斗さんが鑑定書の写メールを片手に筆者の事務所へ相談しに来たのは、妻から匙を投げられたタイミングでした。優斗さんはどのような判断を下したのでしょうか?

「妻の人間性に失望しました。離婚することには何の抵抗もありません。これ以上、妻に裏切られるのはこりごりなんです」と妻との関係に終止符を打つことを即決したのです。厚生労働省の人口動態統計によると2023年の離婚件数は183,814人。一方、結婚件数は474,741人なので3組に1組は離婚する計算です。そのため、夫婦が離婚すること自体は珍しくはないのですが、優斗さんの場合、離婚とは別の問題を抱えていました。

それは息子さんと「親子」を続けるかどうかです。現在、息子さんの戸籍の父親欄には優斗さんの名前が記載されています。家庭裁判所に嫡出否認の申立をし、優斗さんと息子さんのDNAを鑑定し、科学的に「親子ではない」と判定されれば、父親欄を白紙にすることが可能です(民法774条)。今年4月から法律が改正され、申立の期間が延長されました。具体的には子どもの出生から1年が3年に変更されたのです(民法777条)。

◆「息子とは別れたくない」からこそ…

息子さんはまだ3歳に達していないので、まだ間に合います。未成年の子がいる場合、夫婦が離婚する際、どちらが子どもを引き取るのか……親権の所在を決めなければなりません(民法818条)。優斗さんの場合、育児をほぼ担っているのは妻。離婚後も妻が息子さんを育てれば、離婚による影響を最小限にとどめることができるでしょう。優斗さんは「息子から母親を奪うなんてできません!」と言います。そのため、息子さんの親権は妻が持つという前提で話が進んでいきました。

それを踏まえた上で筆者が「どうしますか?」と尋ねると、優斗さんは妻のことに対して即断即決だったにもかかわらず、息子さんのこととなると煮え切らない態度をとります。

優斗さんは「息子はとても可愛いです。僕のことをパパと慕ってくれます。だから僕の子なんだと2年間、騙し騙しやってきました」と苦しい胸のうちを吐露します。さらに「今までいろいろなところへ遊びに行きました。たくさんの楽しい思い出があります。だから、妻はともかく息子とは別れたくないのが正直な気持ちです」と続けます。

親権を決めるにあたり、優斗さんは息子さんへの影響を第一に考えていました。そのため、優斗さんは「息子に罪はありません。かわいい息子を傷つけたくはないんです!」と訴えかけます。

◆元彼が愛情を持っていれば、今の状況になっていないはず?

元彼は自分のDNAを提出しているので、妻から鑑定の結果、自分が本当の父親だと聞かされているでしょう。もし、息子さんに愛情を持っていれば、離婚するのを待たずに、もっと早く迎えに来るはずです。なのに、今の今まで何も動きませんでした。筆者は「元彼は息子さんのことを何とも思っていませんよ」と指摘しました。

いかんせん、元彼は何度も警察のお世話になったヤバい奴。キレると何を仕出かすか分かりません。息子さんに手を上げる可能性もあるでしょう。母親である妻が元彼を制止できれば良いですが、もともと無口で気弱なタイプなので期待できません。度重なる虐待で命の危険にさらされる恐れもありますが、それだけではありません。

2022年、親が子どもを家に残してUSJを満喫。11時間後に帰宅すると子どもが熱中症で死亡していたという痛ましい事件が起きたばかりです。こども家庭庁によると2022年、児童相談所に寄せられた児童虐待の相談のうち、16.2%はネグレクト(育児放棄)でした。元彼と妻が息子さんをほったらかしにして出かけたりするかもしれません。優斗さんは「あいつが父親になったら、息子の命が守られる保証はありませんから」と声を荒げます。

◆毎月4万円の養育費を支払うことを約束

次に養育費の問題があります。どんなに妻が開き直っても、彼女のやったことは法律上、不貞行為です。優斗さんに対する裏切りであることに変わりはありません。そして精神的苦痛の対価として本来、妻は優斗さんに慰謝料を払わなければなりません(民法709条)。ただ、専業主婦の妻に慰謝料を支払う収入、貯金はありません。そこで筆者は「養育費と慰謝料を相殺する手もありますよ」と提案。

優斗さんは嫡出否認の申立をせず、離婚後も息子さんの父親のままなので、妻に対して養育費を払わなければなりません(民法766条)。提案したのは、優斗さんは養育費を払わず、妻は慰謝料を払わず、お金のやり取りを発生させないということです。

妻が離婚後、元彼と復縁した場合、元彼はお金に汚いタイプなので、子どもの食事より自分の遊びを優先することも考えられます。最悪の場合、食事を与えられず、命を奪われる可能性もゼロではありません。こども家庭庁によると2022年、児童相談所に寄せられた児童虐待の相談件数は219,170件。わずか1年で5.5%も増加しており、深刻な事態になっています。

そこで優斗さんは「やっぱり、息子のことが心配です。彼の父親であり続けることを決めたので、父親の努めを果たしていきたいと思います」と言い、息子さんを元彼に会わせないことを条件に、毎月4万円の養育費を支払うことを約束したのです。

ところで嫡出否認の訴えですが、申立人は父親(優斗さん)に限られません。妻が申し立てることも可能です。優斗さんが何もしなくても、妻側が動けば、例の鑑定書が動かぬ証拠となります。優斗さんと息子さんの血がつながっていないことが明らかになれば、父親失格の烙印を押されるのです。筆者は「優斗さんがいくら息子さんの父親であり続けたいと思っても、それは叶わなくなりますよ」と念押ししましたが、優斗さんは「そのときはそのときです」と唇を噛みました。

◆どんな理由があろうと托卵は「不倫」

さて、男性は離婚後、すぐに再婚することが可能です。一方、女性は離婚後、一定期間は再婚することが禁じられていました。具体的には2016年より前は6ヵ月、先は100日ですが、2024年から妊娠していないことを証明すれば、男性と同じく、離婚後、すぐに再婚できるようになりました。もし、妻が妊娠していないのなら、役所へ婚姻届に加え、医師が発行した証明書を提出すれば良いのです。妻が離婚の翌日、元彼と再婚したことを優斗さんが知ったのは後日のことです。

ここまで優斗さんの葛藤を見てきましたが、優斗さんに特段の問題がなかったので言うべきことを言うことができました。一方、今回のドラマはどうでしょうか? 長年、夫のいじめや差別、モラハラに苦しみ、悩み、虐げられ続けてきたので、まともな精神状態ではない。たまたま優しい男性が現れたら、「ここから逃げ出したい」という一心で、心を預け、体を許してしまうのも無理はない。妊娠したのはあくまで結果論で、大事なのはそこではない。

夫の悪態を殊更に強調するとどうなるのか。一歩、間違えれば、「托卵」を正当化することになりかねません。今回の主人公はあくまで妻です。彼女を「悲劇のヒロイン」に仕立てれば仕立てるほど、その印象は強くなります。

どんな理由があろうと托卵は「不倫」です。そして損害賠償請求の対象(民法709条)。精神的苦痛の対価として慰謝料を請求されてもおかしくありません。本当に精神的苦痛を受けるかどうかは夫次第ですが、とはいえ、妻の立場で「あんな夫はどうなってもいい」と侮ることは許されません。どんな夫であろうと「傷つけていい」わけではないのです。ドラマの視聴者はそのことを混同しないように注意してください。

<TEXT/露木幸彦>

【露木幸彦】

1980年生まれ。国学院大学卒。行政書士・FP。男の離婚に特化し開業。6年目で相談7千件、「離婚サポートnet」会員は6千人を突破。「ノンストップ」(フジテレビ)、「ホンマでっかTV」(フジテレビ)、「市民のミカタ」などに出演。著書は「男のための最強離婚術」(7刷)「男の離婚」(4刷)など11冊。

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