約260年の歴史を持つバカラと、フランス料理界のトップに君臨するアラン・デュカスがコラボレーションし、パリ16区の「メゾン バカラ」が「デュカス バカラ」に生まれ変わった。両者が持つあらゆるエッセンスを詰め込んで生まれたこの新名所では、今までにない体験を楽しむことができる。
料理、アート、クリスタル。あらゆる芸術に出会う場所
「デュカス バカラ」は、パリ16区、11 place des États-Unisに佇(たたず)む特別な邸宅にある。かつて「社交界の女王」とうたわれた画家で詩人のマリー=ロール・ド・ノアイユ子爵夫人(1902年~1970年)が暮らしたこの邸宅には、コクトー、ダリ、マン・レイ、マレ・ステヴァンといった芸術家や画家、音楽家たちが集った。2003年にこの邸宅を引き継いだ「メゾン バカラ」が今回のコラボレーションをもってリニューアルした形だ。注目すべきは世界が認める天才シェフ、アラン・デュカスが特別な思いを込めて邸宅の1階(日本でいう2階)に構えたレストラン「アラン・デュカス バカラ」。隣の間にはバー「Midi-Minuit ミディーーミニュイ」が併設する。
地上階のエントランスで出迎えるハリー・ヌリエフのアート作品や、歩みを進めると現れるステンドグラスによる「光の礼拝堂」など、「デュカス バカラ」には現代アーティストの創造性豊かな作品があふれる。もちろん、バカラの神髄を余すことなく体感できる場所でもある。空間のいたるところで貴重なクリスタル作品に出会えるほか、装いを新たにしたフラッグシップブティックで買い物を楽しむこともできる。さまざまなアートとクラフツマンシップが交差するこれまでにない空間で、歓びの瞬間を味わってほしいというバカラの願いが込められている。
バカラCEOマギー・エンリケス〈左〉とアラン・デュカス〈右〉
©︎Philippe Vaurès Santamaria
(広告の後にも続きます)
アラン・デュカスの集大成ともいうべき「未来のレストラン」
ルイ14世の彫像などが飾られたアールデコ調の間に作られたレストラン「アラン・デュカス バカラ」。フランスの職人ジャン=ギョーム・マティオによる倒木を用いたトーテムの装飾や、高い天井から降り注ぐ「クリスタルの雨」が、くつろぎのダイニング空間を演出する。
「アラン・デュカス バカラ」のダイニング空間
©︎Bertille Chabrolle
東京を含め世界各地のレストランをプロデュースしてきたアラン・デュカスだが、「アラン・デュカス バカラ」には特別な思いが込められている。そのひとつが、デュカスが23歳で初めてシェフになった1979年から現在に至るまでの思い出をつづったミニブック。食材の原点を探し、食材本来の味を引き出すことを学んだ南仏での修業時代のエピソードなどが紹介されており、食事客が手にすることができる。「アラン・デュカスが大切にしてきたこと、やりたかったこと、残したいことが詰まったレストラン」だと、サービススタッフの一人が教えてくれた。新境地の開拓という願望を持つアラン・デュカスが考える「未来のレストラン」を体現した店だ。
アラン・デュカス、クリストフ・サンターニュ、ロビン・シュローダーの3人のシェフが生み出す食事体験はユニークだ。アラン・デュカスが自身のレストランで少しずつたくさんの料理の味を確かめる日常を想起させるかのように、食事客は前菜からメイン、デザートまで、多彩な食材の魅力に触れながらたくさんの料理を少しずつ楽しんでいくことができる。もっとも、堅苦しい決まりごとにとらわれない、自然な雰囲気を目指している。料理人がフライパンから直接シビレ(胸腺肉)を提供するなど、友人を我が家に招くような演出にも、そうした思いが表れている。
ミニブック「Alain Ducasse 1979-2024」〈左〉と取材当時のディナーメニュー〈右〉。料金はランチメニュー90ユーロ、ディナーメニュー240ユーロ。 写真は筆者撮影
前菜の「クリスピー オイスター」〈左〉と「プロヴァンスの庭」〈右〉
©︎Bertille Chabrolle