投資をするにあたって知っておきたい株価のパフォーマンスと企業収益の関係性について、「大きく負けない運用」を実践する本庄正人氏(キャピタル アセットマネジメント株式会社)が詳しく解説します。
株価のパフォーマンスと企業収益には断ち難い関係がある
証券投資、とりわけ株式投資に携わる人々にとっては、企業業績が将来どうなるかを考えないことは無いでしょう。プロとして株式投資に携わる私達にとっても、アナリストであれファンドマネジャーであれ、仕事の役割やアウトプットとして求められるものは違いますが、企業の業績、収益性について考えること-公開されているデータに加えて、その企業が属する業種のライバル企業や扱う製品、原材料、規制、資本政策等の情報収集と分析に多くの時間とエネルギーを注いでいます。
ファンドオブファンズを運用する立場からすると、ロングオンリーのファンド(大別してバリュー、グロース、クォンツなどのスタイルがあります。)、ロング・ショート・ファンド(ある銘柄を買うと同時に他の銘柄を空売りして、両方のポジションからリターンを狙うもの)、イベント・ドリブン・ファンド(企業のM&Aに関する情報から買い手と売り手の銘柄のフェアバリュー(妥当な株価)からの乖離を利用する戦略)など、様々な運用戦略を実行に移し、リターンを上げる様子を観察しています。
実に様々な運用のスタイル・戦略があるものですし、また夫々の戦略によって同じ企業の収益を調査していても着眼点、将来予測の期間(年数)、業績モデル、求められる厳密さが異なります。大抵はアナリストの部門長(Research Director)がいて、運用会社としての規律やアウトプットである業績予測の品質管理をすべく配下のアナリストの調査、分析活動を管理、補助しています。このほかにも、企業経営者との対話、競合他社、規制当局の方向性、直観を含むありとあらゆる情報に基づいて、検討対象の銘柄ごとに適した分析を行います。
また、上記の伝統的な運用手法以外にクォンツ(定量的)運用では、コンピューターに入力が可能なモデル、データに基づいてシステマティックな投資を行っています。伝統的手法とは異なり、最終的な売買の意思決定には人間の判断、干渉が入り込む余地はありません。人間が考える余地は、モデルの中身を改良する場合に限られます。
クォンツ運用では、非定量的な方法では簡単に処理できないような洗練された方法でアイデアを処理することで、多数の分散化された小さな取引のそれぞれにおいて小さな優位性を作り出そうとします。
大量のデータ処理、組み合わせによって市場参加者が即座には価格に織り込まない可能性のある関連性を特定します。この関連性に基づいて取引(執行)シグナルを生成するコンピューター・システムを構築し、取引コストを考慮したポートフォリオの最適化を行い、秒ごとに何百もの注文を送る自動化された執行方法を用いて取引きします。
株式投資の複数の形態にはいくつか相違がありますが、いずれも対象とする企業の業績に基づいた株式評価、その解釈を拠り所とします。株式の本源的価値は株式評価の中心であって、企業の(一株当たりの)利益やフリー・キャッシュフローの実績、予測が投資を実行するうえでの中心です。
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【バリュー投資】
定義としては容易で割安と評価される株式を買い、更に場合によっては割高と評価される株式を空売りする投資スタイルです。考え方としては、著名なGraham and Dodd(1934)まで遡り、現代のWarren Buffetが代表的なバリュー投資家と言えます。
世間一般の通念に逆らって大部分の人からは好まれている株式の保有は避け、嫌われている株式を買うことですが、「言うは易く行うは難し」です。下落した、あるいは見向きもされない株式を買いにいくのですから自信と勇気が必要です。
実践する方法は様々で、本源的価値の定義、保有期間、ポートフォリオの構築方法(割安と信ずる銘柄だけに集中するのか、ある程度マーケットとの連動性を考慮するのか)などによって実践は異なります。
筆者が実際に目の当たりにしたバリューだけに投資する米国のBアセットマネジメント社ではアナリストに徹底した調査をさせることで有名でした。
ドット・コム相場(2000年当初のインテルの暴落で終焉を迎えるIT銘柄ブーム)のさなかに、割安に放置されていると思われる紙・パルプセクター担当のアナリストと面談したときのことです。彼女はある企業が保有するすべての製紙工場を訪問、調査しており色々な種類の紙製品ごとの製造原価、輸送コストを、工場のエンジニアへの取材も含めて知悉しているのでした。紙製造過程で使われる様々な装置・機械の型式等にも注目するのでした。(償却費用が整合的かなどをチェックするため)膨大な時間と調査の結果です。
また、各種の紙のユーザー(新聞紙、段ボール紙、コート紙、ティシューなど、紙にも様々な種類があるものです。)に直接あたり、仕入れ値、数量、ライバル会社の動静などを調べます。生産工程から最終市場まで。「紙パ」ビジネスの端から端までの内容を知らなければ投資はできないと語っていました。キャッシュフローの予測も5年以上にわたります。
徹底的な調査が売り物の投資運用会社ではありましたが、このような調査に対する態度を持ったアナリストが業種ごとに配置されているので、その内実は投資運用会社というよりも、シンクタンクといった様相でした。彼らは割安に放置されている銘柄を発見しては、綿密な調査の上で購入し、本源的価値に達するまで忍耐強く保有し続けるのです。
このような調査に資源をかけなくても、比較的単純にPBRやPERの低さに着目して投資するバリュー投資家も存在します。その代わり、クォンツ手法を発展、応用した手法が多いように思われます。