テレビやラジオといったオールドメディアに代わり、動画メディアの勢いが止まらない。特にYouTubeは、国内月間アクティブユーザー数7,000万人を超える。多くの人が気軽に動画を配信できるようになり、YouTubeチャンネル数も増加。生き残りをかけた激戦が続くなか、YouTubeでの発信力も活用しながら、事業の成功を収めている時代の革命家たちに迫る。
インタビュアーは、出版プロデューサーでビジネス書作家の水野俊哉さん。水野さんは出版プロデューサーとして数々のヒット作を世に送り出し、自らも作家として多くの書籍を出版している。
今回は、元歌舞伎町ホストナンバーワンで、現在はホストクラブ経営のほか、学習塾や飲食のFC店舗経営、さらには通販など多角的に事業を展開する桑田龍征さんにスポットを当てる。
桑田さんはユーチューバーのヒカルさんと同居し、チャンネル出演や令和の虎で知っている人も多いだろう。彼は元ホストから事業拡大を進めた敏腕経営者でもあり、年商は約33億円、フランチャイズは約4億円など、トータルで約40億円以上の売上をたたき出している。
一方で、自身のYouTubeチャンネル「桑田龍征の心が折れそぅ」では、自分のプライベートな日常を隠すことも厭わない。「人とのつながりを大事にしたい」と話す桑田さんに、これまでの成功秘話と、YouTubeでの活動、そして今後の展望についても聞いた。
◆◆パチスロで負った80万円の借金が、歌舞伎町へと導いた
水野俊哉(以下、水野):桑田さんといえば、ホストクラブオーナー、ユーチューバー、経営者としての顔がありますが、まずはホスト時代から聞かせてください。ホストになったきっかけはなんだったんでしょうか?
桑田龍征(以下、桑田):大学生のとき、パチスロで80万円の借金を負いました。それを返そうとホスト業界に入りました。パチスロにのめり込んだのは、ただ単に大学生活がつまらなかったからです。
大学の休み時間にスロットへ行くようになって、当時は4号機の全盛期でした。毎日1万円、2万円と使い込んでいくうちに借金は膨れ上がり、大学2年にして80万円の借金を背負ったんです。当時は最低時給800円程度の時代。「いったい何時間働けば返せるのか……」と途方にくれましたね。
そんな時です。渋谷で、歌舞伎町のホストクラブのスカウトから「合コン感覚で稼げますよ!」声をかけられたんです。迷う暇すらなく、私は一も二もなく「やります!」と即答し、ホストの世界に飛び込みました。
歌舞伎町は怖くて行ったことすらなかったのですが、「やるしかない!」と腹をくくって。それが良かったのか、必死で働いて2か月で80万円の借金を完済できました。
水野:未経験にもかかわらず、それはすごすぎです。なぜ短期間で稼ぐことができたのですか?
桑田:「周りのホストと違うことをしたから」だと思います。カッコつけているホストが多い中、自分はカッコつけないホストになろうと「店の誰よりもデカい声で話す」と決め、自ら三枚目路線になりました。
また、お金を落としてくれなさそうな若いお客さまや、少々クセのあるお客さまの席にも「僕が行きます!」と積極的につきました。
するとある時、地方から来た若いお客さまが「あなた、面白いね。指名したい」と、その日に60万円使ってくださったんです。「他と違うことをすることで稼げるんだ」と確信した瞬間でしたね。
水野:「自分を活かすビジネスセンスがあった」ということですよね。その後、月間売上2,000万円を達成。当時の歌舞伎町ホストの月間最高売上額だったそうですね。
桑田:今でこそ月間2,000万円売るホストは大勢いますが、インフレ前でブランディングに注力するホストもいなかった時代。その中で、これだけ売ったのは自分が初かもしれませんね。大学生にして、親父の年収を超えていました……。
◆◆起業したジャンルが「ホスト」だっただけ
水野:そんな順風満帆なホスト生活を2年半で引退、経営者の道に進まれます。どんな背景があったのですか?
桑田:そもそもホストは借金返済が目的で、長く続ける気はありませんでした。しかも当時は柄の悪いホストも多く、売上で妬まれて暴力を振るわれたり、店の中で物や金がなくなったりするのは日常茶飯事でした。
また、良いキャストは他店にどんどん引き抜かれ、モノもカネもヒトも奪い合う歌舞伎町に辟易していた部分もあったんです。だけど、この世界の魅力も十二分にわかっていました。だからこそ、自分を育ててくれた歌舞伎町で成功したい。
そうして考えついた先が、ホストクラブの経営でした。培ってきた経験とノウハウを注入すれば必ずうまくいく、という確信もありましたしね。原資が貯まったタイミングで、経営者としての一歩を踏み出しました。
水野:これまでの「ベテランホストが経営者になる」という慣例を覆し、大学生で、なおかつ経営者マインドを持ってホスト業界に打って出たところに、桑田さんらしさを感じます。
桑田:そうかもしれませんね。ただ、大学4年で初のホストクラブ「LEVEL2」を出店、それから2年足らずでNEW GENERATION GROUPを立ち上げることができましたが、グループ化当初は波乱続きでした。
水野:そうだったのですね。うまくいかない理由は何だったのですか?
桑田:理念やビジョンも固まっていなかったので、「絶対にここで働きたい」という人が全然いなかったからですね。お金や人のトラブルも増え、「このグループが嫌いなら辞めてくれ」と言ったら、本当に辞めてしまったホストも多くいました。その結果、2店舗潰しましたし、育て上げた幹部も失いました。
グループを立て直すにあたり、残った人間で真剣に話し合いました。その結果、「ビジョンや理念を理解、共感してくれる人のみ採用する」「理念浸透のため、コーチング研修をしっかり行う」「Webマーケティング、YouTube戦略を立て、実行する」、そしてなにより「売上に貢献する人がきちんと評価される報酬設計にする」という方向性が決まり、やり切りました。
その結果、強固な組織をつくり上げることができたのだと、今では失敗にも感謝しています。
◆◆「仲間」を重んじる精神が人を呼び、人をつくる
水野:ホストクラブの事業の立て直しと時を同じくして、武田塾のFCにも加盟されたのですよね。創業者の林尚弘さんとは面識があったのですか?
桑田:林さんとは24歳で共通の知人を通して出会い、29歳で再会しました。同じ大学生経営者で同世代だった林さんが、出会った頃は2校だった武田塾を100校まで拡大していて、「だいぶ差がついてしまった」と感じていたんです。
どうしても成功の理由が知りたくなり、武田塾のFC事業に飛び込みました。FC加盟の経験によって、停滞した組織を再生し、事業を加速するためのヒントをたくさん得ることができました。
水野:令和の虎チャンネルも、フランチャイズ化のビジネス展開も、初の書籍『ホスト2.0』出版も、そしてあえて言えば今回の取材も林社長のご紹介ですよね。人生の転機に林社長が現れている気がします。
ところで、組織の改革にあたっては、コーチングや研修を導入するなどマネジメントも大きく変えられたと聞いています。
桑田:ええ、そうです。特に「なぜホストでお金を稼ぎたいのか」という目的を引き出し行動を促す「コーチング手法」を取り入れたのは、当時のホスト業界ではかなり異例だったと思います。
実際、取り入れたことで組織は劇的に変化しました。自分の成功パターンを押し付けるのではなく、一人ひとりの能力を開花させる「成功パターンのカスタマイズ化」が良かったのでしょう。
水野:ホストだけではなく、「バックチーム」という形でプレイヤー(ホスト)以外のスタッフも厚遇する、というのは今までにはない斬新な取り組みでした。「スタッフ全員を大事にする」ことが組織力の強化につながったのですね。
桑田:そうですね。「みんなで売上を達成する」ということは意識していましたね。その結果、一人、また一人と売上を出すホストが増え、「ここでずっと働きたい」と自然とメンバーの気持ちも一つになっていきました。
現在でも、古参のメンバーが幹部として活躍しています。組織がどんどん強くなったのは、間違いなくこのメンバーたちがいたからですね。ありがたいことです。
◆◆YouTubeはマネタイズしなければ何の意味もない
水野:一方でYouTubeでの活躍も目立ちます。ここ数年で、令和の虎出演により一気に知名度が上がりました。YouTube自体はいつからされていたんですか?
桑田:ホストクラブの経営者ということで、「ドラゴンPM」というチャンネルを2015年からスタートしていたのですが、これが今一つウケなかったんですよ。今となって思えば内輪ウケになっていたのかもしれません。ただ、「やる」と決めたことなので継続してチャンスは伺っていましたね。
水野:令和の虎出演はどんなことがきっかけだったのですか?
桑田:きっかけは武田塾のオーナー取材で、白羽の矢が私に立ったことです。そのご縁で、林さんや岩井さんに「マネーの虎のYouTube版をやりませんか?」と提案したところ、取り上げてくださって、形になりました。
岩井さん、林さんらと共に始めた令和の虎でしたが、最初は志願者が全然来なくて焦りましたね。3~4年は低空飛行が続きましたが、2022年初頭に火がついて、そこからぐっと知名度が上がった感覚があります。
水野:一気に桑田さんの名前が知られるようになり、それに伴ってご自身の事業の売上も上がっていったのでしょうか?
桑田:いえ、それが全然比例していかなかったんです。「どうしたものかな」と考えているとき、縁あってユーチューバーのヒカルさんと同居することになり、自分もヒカルさんのチャンネルに登場することが多くなりました。
彼はまさにタレントで、撮影が始まれば24時間カメラは回りっぱなし。「この環境をビジネスに活かせないか」を考え、始めたのが「通販の虎」だったのです。虎たちが認めた商品だけを販売する、というルールで始めた物販サイトは知名度の上昇もあって多くの話題を呼び、動画からマネタイズの動線ができました。
水野:YouTubeを始めても続かない大きな原因が「マネタイズできない」ことにあると言われますが、通販の虎はYouTubeとのかけ算で成功した事例ですね。
桑田:まさにそうです。実際、YouTubeの収益は毎月200万~500万円くらいあるのですが、それも編集代などで大部分が消えていきます。だからこそ、ビジネスにYouTubeをどう生かすか? その発想にならないとYouTube単体で継続していくことは難しいと思います。
水野:なるほど。では、経営者がこれからYouTubeを始める場合、まず何から始めるとよいでしょうか?
桑田:2つあります。1つは圧倒的に「経営者の自己紹介をする」ことですね。求職者が履歴書を書くように、経営者もまた「人となり」を出すべきだと思っています。
これはホスト時代の経験が活きているのですが、ホストってまず売れるために、「自分はどんな長所があるのか」というのを徹底的に突き詰めるんですよ。その長所を伸ばすことが他者との差別化になり、結果「あなたを指名したい」といって売上につながるんです。
経営者も同じですよね。自己紹介をしていくことで「自分しかできない強み」を知り、そしてそのことを視聴者に知ってもらう。信頼を得る。それが高まり、自分のブランドになっていきます。そうすれば、商品やサービスの広告を打たなくても自然に集客できるようになります。広告費をかけるなんて、SNSをサボった経営者への“罰金”である、とすら考えています。経営者は「自己紹介」の動画をつくる、一択です。
それができたら、考えてほしいのが自分の好きなことをYouTubeに反映させていくことですね。現在、東京都リーグ2部に所属する「シュワーボ東京」のスポンサーをさせていただいていますが、監督を務めているレオザさんは戦術分析が評価され、現役選手はもちろん、日本代表の選手も見て参考にしているほどです。
サッカーチャンネルで突き抜けたレオザフットボールさんもトップユーチューバーのヒカルさんも、自分の好きなことをやり続けてビジネスにつなげています。やっぱり「好き」というパワーは何物にも勝るのではないでしょうか。
◆◆自分の時間を確保しながら、ビジネスを前に前に進めていく
水野:最後に、今後の桑田さんの展望を教えてください。
桑田:今行っている事業を引き続き伸長させていきたいですね。希望は「ホスト業界出身の経営者で一番の成功者になる」こと。
タレントではなく、あくまで経営者として成功することが理想です。そのためにもホストクラブ店舗、FC事業、通販の虎、組織の左腕と、それぞれを人に任せながら進めていきたいと思っています。もちろん、影響力のあるローランドさんをはじめ、ホスト業界の人間と一緒になってこの業界を盛り立てていきたいですね。
そこにプラスしてYouTubeの撮影もありますね。YouTubeに関しては、一生やり続けないと意味がない気がしていて。失敗も成功も悩みもすべてYouTubeには残しておきたいんですよ。それで他の経営者がなにか判断や決断に迷ったとき、「このチャンネル見ておけば経営者がどうすればいいかわかる」、そんなチャンネルにしていければと考えています。とはいえ、時間のマネジメントは課題で、もう少し暇になりたいという矛盾も抱えています。
娘のちゅむちゃんと過ごす時間と、週1回のサッカーでボールを追いかけているときが、私のリフレッシュタイムです。
◆【インタビューを終えて(水野)】
お会いして話を聞くと、頭の中は完全に経営者。それもそのはずで、グループ売上は33億円の敏腕経営者だった。仲間思いで、熱いハートを感じるナイスガイ。男にも女にも人気なのも納得した。
【プロフィール】
桑田龍征
1986年生まれ。元ホスト。実業家。歌舞伎町ホストクラブグループ「NEW GENERATION GROUP」創業者・代表。現在は株式会社通販の虎、株式会社組織の左腕の代表取締役も務め、年商は33億円にのぼる。ホストクラブのほか、学習塾・飲食といったFC店舗を経営し、多角的にビジネスを展開。著書には『ホスト2.0 歌舞伎町新時代の稼ぎ方』がある。
<取材・文・構成/水野俊哉・高橋真以・掛端 玲 撮影/大久保尚希>
【水野俊哉】
1973年生まれ。作家。実業家。投資家。サンライズパブリッシング株式会社プロデューサー。経営者を成功に導く「成功請負人」。富裕層のコンサルタントも行う。著書も多数。『幸福の商社、不幸のデパート』『「成功」のトリセツ』『富豪作家 貧乏作家 ビジネス書作家にお金が集まる仕組み』などがある。