貸家建付地の相続税評価の応用
基本的な貸家建付地の相続税評価はご説明してきましたが、ここからは少し特殊なケースの貸家建付地の評価について解説を行っていきます。
親族等に貸している場合も貸家建付地評価が可能
親族に賃貸している物件についても、貸家建付地の評価は可能です。
後述しますが、貸付事業用宅地として小規模宅地の特例を適用するためには、この貸している親族から“相当の対価”つまり世間相場並みの賃料を受領している必要があります。
ただ、“相当の対価”を受領していなくても、貸家建付地評価を行える可能性はあります。
賃料が低いからといって、住んでいる者の借家権が生じていないとはえないからです。
但し、賃料がタダの場合は固定資産税相当額程度の場合には使用貸借と見なされ、借家権は生じず、よって貸家建付地評価もできませんので注意が必要です。
貸駐車場は貸家建付地評価ができない
貸駐車場については、貸家建付地評価はできません。
貸家建付地評価ができる大前提として、土地の上の建物が建っていて、その建物を利用する人の借家権が生じている場合です。つまり、いくら立派な車庫が建物の上に立っていても、借家権が生じていないような場合には貸家建付地評価はできません。
賃貸部分と居住部分が混在する場合
2階建の建物が建っていて、1階が自分の住まい、2階が賃貸で貸しているといった場合も想定されます。
そのような場合には、賃貸で貸している部分に相当する床面積の割合分の土地についてのみ貸家建付地評価適用可能となります。たとえば、100m2の土地の上に1階が50m2、2階が50m2の場合には、100×50÷100=50m2分の土地が貸家建付地評価の対象となります。
親から子に貸家の贈与があった場合
親が所有する上に子が建物を建築し、その子が第三者に建物を貸しており、親子間では地代のやりとりがない。こういったケースでは、親の土地の評価は自用地評価となります。貸家建付地評価はできません。
ただ、この地代のやりとりがない場合でも、例外的に貸家建付地評価ができる次のような場合があります。
親が土地と建物を所有し、そこで貸付事業を行っている状態で、建物部分のみを子供に贈与した場合。
その後、親子間では地代のやりとりがなく使用貸借になった場合においても賃借人(建物を借りている人)に変更がなければ、貸家建付地評価が可能となります。
ただ、賃借人に変更があった場合には、この貸家建付地評価は行うことができませんので注意が必要です。
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貸家建付地と小規模宅地等の特例
貸家建付地として評価した土地については、通常、貸付事業用宅地として小規模宅地の特例が適用可能となります。ただ、例外もありますので、ここでは貸家建付地と小規模宅地等の特例の関係について詳しく解説します。
貸家建付地は貸付事業用宅地として評価減が可能
貸家建付地評価として評価した土地は、通常は第三者に賃貸しており、事業として使用している土地となりますので、貸付事業用宅地として評価減が可能です。貸家建付地評価をした後の評価額に小規模宅地の特例の計算式を適用します。
但し、例外として、貸家建付地評価ができるが小規模宅地の特例が適用できない場合というのがありますが、それは次項で詳しく解説を行います。
貸家建付地評価ができるが小規模宅地の特例が適用できない場合
賃貸はしているが、受領している賃料が“相当の対価”と認められない場合には、小規模宅地の特例が適用できません。“相当の対価”とは、いわゆる世間相場並みの賃料です。第三者に貸すとした場合にはいくらで貸すかという判断基準です。実務的には、近隣で同程度のグレード・広さの貸部屋の賃料を平均したものと比較し大きくかい離していなければ問題ないでしょう。
小規模宅地の特例の適用要件として、“相当の対価”を得て、“継続的に”賃貸している必要があります。
ここで、賃料は受領しているが相当の対価を受領していない場合や、相続開始時点では賃貸していたが申告期限までに退去して空室になってしまった場合に、貸家建付地評価ができるが小規模宅地の特例が適用できなくなってしまいます。
賃貸割合が100%でない場合の小規模宅地等の特例の計算式
賃貸割合が100%でない場合の小規模宅地の特例の計算について、認識の誤りが多いので計算例で確認してみましょう。
【前提条件】
自用地評価額:4,000万円 面積:100m2
借地権割合:80% 借家権割合:30%
賃貸割合:50%
ここで、
≪誤った計算式≫
3,520万円×50%(賃貸割合)×50%(小規模宅地の減額率)=880万円
と、小規模宅地の特例の減額分を算出する計算は誤りです。
正しくは、まず3,520万円を貸家建付地部分と自用地部分に分解します。
≪自用地部分≫
4,000万円×50%=2,000万円
≪貸家建付地部分≫
4,000万円×50%×(1-1×80%×30%)=1,520万円
ここで初めて、小規模宅地の特例の計算式を適用し
が小規模宅地の特例の減額分となります。