大阪王将「ナメクジ大量発生」SNS投稿事件。世間を賑わせた告発者が“実刑判決”となったワケ

 2022年7月、宮城県仙台市内で営業していた、飲食チェーン「大阪王将」のフランチャイズ店舗の「仙台中田店(現在は閉店)」で「ナメクジ」などが大量発生していると元従業員の男がSNSに投稿し、「内部告発」として話題になった。 

 その後、ナメクジが大量発生していた事実はないのにSNSで拡散し、業務を妨害したなどとして、仙台地検は元従業員の圓谷晴臣被告人(25)を偽計業務妨害の罪などで起訴。今年4月から仙台地裁(須田雄一裁判官)で開かれている裁判の判決公判が、10月24日に仙台地裁で開かれた。

◆判決の結果は…

 法廷の奥のドアから刑務官らに連れられて入廷してきた被告人。紺色ジャージに短髪、まっすぐ前を向いて被告人席に座っている。判決公判なだけに、これまで以上に緊張している面持ちだ。

 仙台地裁(須田雄一裁判官)は、被告人に対して懲役1年(求刑:懲役1年6か月)の実刑判決を言い渡した。須田裁判官は「本件は公益通報を目的とした事案ではなく、本件犯行動機及び経緯に酌むべき事情があるとはいい難い」と断罪。

 判決によると、被告人は2022年7月24日、自身が勤務していた大阪王将仙台中田店の店舗内でナメクジが大量に発生していたことや料理にナメクジを混入させたことがないのに、これらが事実かのように虚偽の内容をTwitter(現:X)に投稿して、一時休業に陥らせて業務を妨害するなどした。

◆「大量のナメクジが発生」という事実はなかったと認定

 今年4月に開かれた初公判で、検察側は動機について、以前より勤務環境や店長への不満が溜まっており、「会社などへ復讐をするために誇張した事実をTwitterに投稿し、炎上させて業務を妨害させようした」と指摘。

 被告人は罪自体は認めるとしたが、ナメクジの大量発生は事実だとして起訴内容の一部を否認。弁護側もSNSで告発したことは告発方法の正当性がないとして、偽計業務妨害罪の適用は争わないとしつつも、ナメクジの大量発生は事実だと主張した。

 しかし、判決で須田裁判官は「大量のナメクジが発生していたという事実はなかった」と認定。被告人と弁護側の主張を退け、懲役1年の実刑判決を言い渡した。

◆9月の公判では「大量発生」が争点に

 9月の公判で行われた被告人質問で、検察官に「大量とはどのくらいを指すのか」と問われ、被告人は次のように述べた。

「本来、ナメクジは1匹もいないはずなので、3匹も4匹もいたら大量だと思っています」

 さらに、店長もナメクジが大量に発生していたことを知っていたのではないか、とも述べていた。なぜなら、以前に「ナメクジ超大量発生してます」と店長にLINEで報告した際に、店長からの返信が素っ気ないものだったからだという。

「店長からの返信は、『ザルにもいっぱいいるから気をつけて』とだけでした。異常事態なので通常は確認するはずです。ということは、店長はナメクジが大量にいると知っているのだと思っていました」(被告人質問から)

 被告人は、アルバイト時代に県内の別店舗へ異動となった経験があるものの、同じ運営会社とはいえ、異動先ではナメクジを一切発見したことがなかったという。また、異動先の店舗から仙台中田店へ異動を命じられた同僚が、仙台中田店の状況に「ヤバいと言っていた」と振り返っていた。

◆店長の供述は「信用できる」と認定

 判決で須田裁判官は、仙台中田店の店長が事情聴取で「ナメクジの大量発生はなかった」と述べたことは信用できると認定。そして前述の返信についても、過去にザルの裏でナメクジを発見したことがあって注意喚起のために返信しただけで、「ナメクジなどどうでもいいという趣旨ではない」と供述していることについても信用できると認定した。

 さらに、他の従業員も「ナメクジ1匹を見たことはあったものの、大量発生していることはなかった」と供述していることから、店長の供述は整合していると評価した。

◆被告人の証拠写真についての供述は「信用できない」

 一方、これまでの公判で、被告人は「2022年7月12日に被害店舗の冷蔵庫の隙間にナメクジが5、6匹いたのを見た」、「その日以降も5、6匹のナメクジがいるのを複数回見た」などと当時を振り返っている。

 特に被告人質問では、投稿当時に話題になった証拠写真について細かく問われていた。その投稿とは、店長と被告人とのLINEのやりとりをスクリーンショットしたもの。LINEには、「ナメクジ超大量発生してます」の文言とともに、証拠写真が送信されている。

 当時、冷蔵庫の隙間にナメクジが5・6匹いたという。ただし、写真からはナメクジらしきものが1匹確認できるだけ。それでも、被告人は「ナメクジの処分を急ぎすぎた結果、よく確認していなかった」と供述。

 だが、須田裁判官は「被告人の供述は信用できない」としたうえで、「大量のナメクジが発生していたという事実はなかった」と断じた。

「被告人は、大量にいる衝撃で、(略)写真をよく確認していなかったためなどと供述しているが、納得できる説明とは言い難い」(判決から)

◆裁判官が「懲役1年の実刑判決」に処した理由

 さらに、須田裁判官は懲役1年の実刑判決に処した量刑の理由について次のように認定した。

「被告人は、不特定多数の者が閲覧するSNS上で、被害店舗の衛生環境に関して大きく誇張した内容等を投稿したり、店長に対して差別的・侮辱的な内容を投稿したりすることをくり返しているのであって、犯行態様は相当に悪質である」

 他にも、勤務環境や店長への不満から会社へ復讐しようとしたとされる動機について、「本件は公益通報を目的とした事案ではなく、被害店舗内でナメクジが目撃されたことがあったこと自体は事実であることを考慮しても、本件犯行動機及び経緯に酌むべき事情があるとは言い難い」とした。

 被告人は、判決を読み上げている須田裁判官の方を微動だにせず、まっすぐと見つめている。最後に、須田裁判官から「判決の内容はわかりましたか」と問われ、被告人は大きな声ではっきりと「はい」と一言答え、閉廷した。

◆控訴はせず、裁判は決着へ

 閉廷後、弁護人は報道陣の取材に対して、「求刑の懲役1年6か月からは、ばっさりと切っていただけたという印象です。帰り際に、圓谷さんに声をかけたところ『控訴はしない』と言っていました」と語った。

 一時、世間を賑わせた“告発投稿”は、懲役1年の実刑判決で決着がついた。

取材・文/学生傍聴人

【学生傍聴人】

2002年生まれ、都内某私立大に在籍中の現役学生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴にハマり、傍聴歴6年、傍聴総数900件以上。有名事件から万引き事件、民事裁判など幅広く傍聴する雑食系マニア。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行っている。