道路交通法(道交法)が改正され、2024年11月1日から自転車運転中のスマートフォン等を使用する「ながら運転」に対する罰則が強化される。また、自転車の「酒気帯び運転」が新たな罰則対象となる。
前方から自転車が近寄ってくる。そのままでは歩道の歩行者に正面衝突するーー。こんなシーンを何度も目撃、実際にそうした危機に遭遇した人も多いのではないだろうか。そのような場面では、自転車の運転者はスマホを見ながら走行しているケースも少なくない。
警察庁のデータでも顕著な「ながらスマホ」の事故増
警察が発表した2024年上半期(1~6月)のスマホの「ながら運転」に関連した死亡・重傷事故の件数は18件。これは前年同期(8件)比の倍以上で、データでも増加傾向が鮮明だ。
ながらスマホによる事故件数は増加傾向(出典:警察庁ウェブページ)
自力で走行する二輪車を視界を落として運転するのは危険極まりないが、一体スマホでなにを見ているのか…。同調査によると、18件の内、通話が3件、動画が15件だったという。
ちなみに、自転車をゆっくり走行した場合、時速10キロ程度になるが、それでも1秒で約3m前進する。ほんの一瞬のつもりでも、大事故につながる可能性は十分にある。「ながらスマホ」については、歩行者側にも一定数おり、両者が混在する路上での事故発生リスクはより高まるといえる。
運転者の意識はどうなっているのか
では、こうした交通マナーに対する自転車運転者の意識はどうなっているのか。警察庁は昨年8月、「自転車の交通ルールに関するアンケート調査」(https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/bicycle/kentokai/02/sankou04.pdf)を実施。それによると、やはり少々残念な結果がみえてくる。
たとえば、「信号を守れている」でさえ約7割にとどまっている。「守れていないルール」は「原則左側通行」「歩道通行時は歩行者の通行を妨げない」が約4割、「ヘルメット着用」が約7割という結果だった。
一方で、「自転車による道交法違反が犯罪になることを知っている」と回答した者は約8割。自転車のながら運転厳罰化を望む声は約6割を占めた。さらに酒気帯び運転についても、罰則を設けることを望む声が9割弱だった。
自転車だから許されるだろうの甘えも
同調査では、「自転車だから許されるだろう」という認識の甘さがうかがえる結果も出ている。自転車の交通ルールの正誤の項目で、正答率は概ね8割前後だったが、顕著に誤回答が目立った問題に、それが表出していた。
自転車運転者の意識があらわれたアンケート調査(出典:警察庁ウェブサイト)
「自転車は夜間ライトをつけなくてもよい」(「合っている」が3.8%)、「自転車は歩行者と対等なので、歩行者に道を譲らなくてよい」(同5.0%)、「自転車は原則として車道の右側を通行する」(同12.9%)「自転車の酒気帯び運転は禁止であるが、罰則はない」(同13.2%)。
この4問は歩行者との関係を考えても誤った認識で事故につながりかねないことばかりであり、危ない認識違いといえる。一方で、「自転車は車道通行が原則、歩道通行は例外」の正答率が8割を超えているのは、実状を考えると意外な印象だ。
これまでのマナー・ルール無視の運転と併せ、データや調査からも、やはり現状のままでは自転車が事故を起こすリスクが高い。そのような背景もあり道交法改正に至り、いよいよ11月から厳罰化が実施される。
ながらスマホで検挙された際の罰則
具体的には、自転車を運転しているとき・停止している間を除いてのスマホでの通話(ハンズフリーはOK)、画面の注視などの「ながらスマホ」は道交法により禁止され、罰則が強化される。画面の注視は手で持たず、自転車に取り付けた状態のスマホ画面でもNGとなる。
罰則の内容は現行5万円以下の罰金が、11月からは「ながらスマホ」をした場合、<6か月以下の懲役または10万円以下の罰金>、「ながら運転」で事故を起こすなど危険を生じさせた場合は、<1年以下の懲役又は30万円以下の罰金>が科される。
また、自転車の「酒気帯び運転」は、<3年以下の懲役または50万円以下の罰金>が科される。これまでは「酒酔い運転」のみだったが、新たに血液1ミリリットルにつき0.3ミリグラム以上または呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で運転すると酒気帯び運転として処罰対象となる。
なお、自転車の飲酒運転の恐れのある者に酒類を提供したり、自転車を提供したりすることも禁止される。
今回の道路交通法改正では、「ながらスマホ」の罰則強化等に加え、自転車の交通違反に対し、反則金納付のいわゆる「青切符」が導入される。取り締まり対象は16歳以上で、適用の違反行為は113種類におよぶ。
自転車による交通事故は全交通事故の2割超を占める。加えて昨今は、電動アシストタイプや電動キックボードなど、路上には多様なタイプが入り乱れ、一部でマナー無視も目立っている。今回の道交法改正は、こうした”無法化”にメスを入れるものになるが、同時にこれを機に、自転車運転者側の意識のさらなるアップデートも必要となるだろう。