パクリと揶揄された「やっぱりステーキ」が急成長。大量閉店で打撃の「いきなり!ステーキ」と明暗分かれたワケ

 円安と異常気象の影響で生産コストが急騰する牛肉。光熱費や人件費などあらゆるコストが上昇中だ。帝国データバンクの調査によると、今年9月までに倒産した焼き肉店(負債1000万円以上)の運営会社は39社と、過去最多を更新している。そして、同じ食肉を取り扱うステーキ業態の経営環境も厳しさを増している。

 特に低価格やリーズナブル価格を標榜するステーキ店の経営は厳しい。安くて日本人の嗜好に合った産地と部位を探索するのは至難の業だ。ステーキ価格は他の外食メニューに比べ割高で、客離れの懸念から値上げは容易でない。これまで価格訴求力を武器にしてきたステーキ店に試練が訪れており、これから各店の真骨頂が見えてくるだろう。

 今回は、生き残りとさらなる成長を目指して奮闘するファストステーキ業態の「やっぱりステーキ」「いきなり!ステーキ」、ファミレスステーキ業態の「ブロンコビリー」、各店の戦略と戦術を取り上げたい。

◆コロナ禍でも店舗数は1.5倍!やっぱりステーキ

 知名度が抜群のいきなり!ステーキが、商圏内のカニバリゼーションによって店舗の統廃合が進めざるを得なくなり、業績悪化が顕著になっている。そんな中、やっぱりステーキの成長が話題だ。同じファストステーキ店という業態だが、両社が勢いの差が鮮明になっている。

 沖縄が発祥の地であるやっぱりステーキ。沖縄は人口10万人当たりのステーキ店が10.8店と47都道府県で最も多い。ステーキを日常食にし、毎日でも食べられる気軽な食事にしたいと、ディーズプランニングの義元大蔵社長が立ち上げた。

 2015年、那覇市に1号店をオープン。ローコストオペレーションの仕組みの確立に加え、飲んだ後はステーキで締めるという沖縄文化もあり、確実に成長していた。最初は知名度の高い、いきなり!ステーキのパクリと揶揄されたが、同店の急速な閉店を横目に店舗数を増やしており、コロナ禍でも店舗数は1.5倍と急伸している。

◆成長著しいやっぱりステーキ

 沖縄を拠点に北海道まで21の都道府県に75店舗(2024年10月時点)出店しており、沖縄(12店)、福岡(10店)、大阪(8店)、静岡(7店)、東京(6店)には集中しているようだ。同社は非上場のため業績は公開していないが、物価高騰でどこも苦戦を強いられている中で成長が著しい。

 ボリューム感ある美味しい肉を低価格で提供されており、食肉が高騰している中で、コスパ最強と定評がある。溶岩石の上に肉が盛られて提供され、シズル感(肉が焼ける音)と匂いがますます食欲を掻き立てる。卓上に豊富な種類のソースがあり、大きめのお肉を注文するといろいろなソースで味変が楽しめる。

 輸入牛・米・野菜・卵などの価格が高騰する中で、10月から一部メニューの価格は改定され、お肉はスモールサイズ(約150g)、レギュラーサイズ(約200g)、ラージサイズ(約300g)と用意されている。ここまで柔らかく美味しいステーキをお手頃価格で食べられ、満足させてくれるステーキ店には感謝する。

 やっぱりステーキの公式LINEに登録すれば、毎月9日に無料クーポンが届くので、お肉と一緒に食べられる。1人でも気楽に入れて、分厚いお肉を自分の好みに焼ける店はありがたい。しかも、ライス・卵スープ・サラダ(マカロニサラダも含む)も食べ放題で、リーズナブルな価格だから人気が出るのも当然か。

◆一世風靡したいきなり!ステーキの今

 いきなり!ステーキを運営するペッパーフードサービスは、カリスマ創業者の一瀬邦夫氏が2013年12月に銀座を1号店として誕生した業態だ。高回転、高単価のビジネスモデルと立ち食いのスタイルで注目を浴び、店舗数を拡大。一時期は500店舗まで迫ったが、過剰な出店戦略によるカニバリゼーションで共食いをしてしまった。

 急速に勢いが衰え、約320店舗の撤退を余儀なくされた。2022年8月に創業者の邦夫氏が退任し、息子の健作氏が社長に就任。2024年9月末日時点で、いきなり!ステーキ(国内 177、海外5店舗)、その他3店舗ある。

 不振に苦しんだ状態を打破するため、顧客層に合致させた店舗リニューアルと新規出店、海外での認知度向上、市場におけるポジショニングの獲得、 成長モデルの確立、店舗網の拡大に取り組んでいる。現在は、立て直しに向け、攻めの投資に力点を置き、経営力の強化に努めている。2023年10月、東証スタンダード市場へ市場変更している。

 いきなり!ステーキの損益状態と財務の安定度は以下の通りだ。

【いきなり!ステーキの損益状態(売上/営業利益/自己資本比率)】

2022年:148億円/▲16億円/20.2%

2023年:146億円/▲5億円/44.8%

◆会員ランク制度「肉マイレージ」にも変化

 自己資本比率も改善するなど、どん底状態からは若干明るい兆しを見せているようだ。なお2024年度上半期は、売上69億8200万円、営業利益100万円である。直近の売上の推移は、

【いきなりステーキ 売上等推移(2024年7→9月)】

売上:91.3%→90.4%→95.5%

客数:83.8%→82.4%→85.9%

客単価:109.0%→109.7%→111.1%

客単価は上昇して前年の大幅赤字は解消されているが、店舗数と客数の大幅な減少から売上は前年を下回っている。第2四半期においては原材料や人件費などあらゆるコストの上昇対策として、グランドメニューの改定、DXの導入などを実施。現在は名物のオーダーカットを廃止するなど事業の再生に注力し、V字回復を目指している。

 2024年9月からは公式アプリの会員ランク制度である「肉マイレージ」に、最上位ランク「ロイヤル・ダイヤモンド」を新設し、上位得意客の優遇に力を注ぎ、安定的な顧客基盤を再構築している。また、インドネシア現地法人との間で、フランチャイズ契約を締結し、海外展開も拡充するようだ。

◆新業態の展開でV字回復を目指す

 再生を加速するための新たな業態も開発している。店舗の統廃合で縮小した中核ブランドであるいきなり!ステーキを補完するため、増えている孤食に対応した「ひとりすき焼き」がコンセプトの店舗を11月下旬にオープンする予定だ。最近は1人焼肉や1人鍋を提供する店も増えており、それらも追い風となるか。

 メニューは和牛を中心に、ブランド牛などを使用した定食形式だという。すき焼きは牛肉料理の中でも豪華な定番メニューであり、お祝い事や何かのご褒美にとよく食べられる国民食の一つだ。そのすき焼きを、離れの茶室のように、落ち着きのある雰囲気の中で、カウンターを主体とした席で提供する。

 牛肉、卵、米も国産にこだわり、自社で独自開発した割下を使用する。今、A5ランクの肉が値崩れを起こしているが、店員がお客さんの目の前で肉を焼き、カウンター席の一人ひとりに提供するサービスで顧客提供価値を高め、価格競争に埋没しない。急伸するインバウンド需要も吸引し、将来的には30店舗ほどの展開を目指すそうだ。

◆家族連れに人気の「ステーキファミレス店」

 そういった厳しい環境の中で奮闘するステーキハンバーグをメインにする「ブロンコビリー」。コスパが高いステーキチェーンとして人気で、東海地方を中心に、全店直営の郊外型店舗で139店舗(2024年4月1日現在)を展開している。

 直近の業績(2024年1月~9月)を前年と比較すると、

【ブロンコビリーの業績(2023年→2024年)】  

売上:175億25百万円→199億52百万円 

営業利益:11億90百万円→20億15百万円

営業利益率:6.8%→10.1%

原価率:34.9 %→32.6%

 売上・利益とも前年を大きく上回っており、売上が13.8%増、利益が69.3%と順調に伸ばしている。物価高騰の中、なかなか値上げに踏み切れずに原価圧迫で苦しむ店が多い中、適切な価格政策と原価管理の徹底強化で原価率を2.3%抑制している。営業利益率は2桁台(10.1%)と大型店ながら極めて収益性は高い。財務の安定性においても、自己資本比率81.5%と盤石である(2023年度決算)。

◆自慢は常時20種類ある新鮮サラダバー

 時間帯別客数構成比(1月~9月平均)はランチ60%、ディナー40%である。ファミリー客をターゲットにしている店だけに、夏休みやゴールデンウィークなど長期連休がある月は、ディナー客の比率が高くなっていた。

 炭火焼きによるステーキやハンバーグを提供される時のシズル感がワクワク感を持たせてくれる。また、各店にかまどを設置してあり、そこで炊き上げ提供される新潟県魚沼産のコシヒカリは最高の味で、ご飯を大かまどで炊きあげ、顧客に提供しており、これもまた人気だ。

 店舗スタッフによれば、かまどならではの強い火力と高い保湿性が味の違いを生んでいるという。確かにご飯が見た目でも光っており美味しい。加えて、競争優位は何といっても、自慢の常時20種類ある新鮮サラダバーだ。営業開始時間の早い時間帯に行くと、お客さんが一気にサラダバーに向くので、サラダバーには長蛇の列ができている。

 女性だけでなく、健康志向の男性にも人気で、価格と内容のバランスから見てもコスパが高い店である。 オープンキッチンを店舗に設置して、調理するコックさんの華麗なる仕事ぶりが客席から見られ、演出にも力を入れており楽しい雰囲気を醸成している。

◆“悪ふざけ投稿”騒動で閉店した店舗も

 一斉休業がある店は業績を伸ばしているとの定説があるが、ブロンコビリーも全店の一斉休業を設けている。全従業員の働きやすい環境づくりのためにも様々な努力をしている。そのきっかけとなったのは、過去(2013年)に当時相次いだSNSでの“悪ふざけ投稿”騒動だ。ブロンコビリーではアルバイト男性がキッチンの大型冷凍庫に入り、結果としてその店舗は閉店せざるを得なくなった。

 そこから社長が、人材育成の大切さを思い知り、人が会社の未来を決めることを改めて確信したそうだ。企業理念が現場に浸透していなかったことへの反省からも、現場の若手社員の悩みを直々に聞く目的で、酒を酌み交わしながらの合宿研修を毎月実施。賃金以外での労働意欲も喚起し、店内の一体感を醸成して従業員満足=顧客満足度を徹底させている。

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 贅沢で豪華な食事とされたステーキは、お祝いごとなどハレの場でしか食べる機会がないのが普通。それを日常食にしようと業態開発してきたファストステーキ店やステーキファミレス店は、微妙に業態が異なる中、切磋琢磨して市場に競争と刺激を与えている。

 外食を取り巻く環境に逆風が吹く中で、お客さんに美味しいステーキをリーズナブルに食べられる努力を重ねている各店の今後の成長に期待したい。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】

飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan