AV業界と麻薬は、切っても切れない関係にある、なんてイメージを持っている人間も多くいるでしょう。たしかにセクシー女優や関係者が薬物問題で逮捕される事件も、時折起こっているのは事実です。
今回登場する合沢萌さんも、セクシー女優時代に覚せい剤の所持・使用で逮捕された経験を持ちます。所持・使用だけでなく、自分で覚せい剤の販売もおこなっており、結果として約13年を「塀の中」で過ごすことに。
現在は出所して、さまざまなチャレンジをおこなっている合沢萌さんに、当時の話を深掘りして聞いてみました。
◆3度の逮捕を経験、13年を刑務所で過ごした
――合沢さんが出所して、1年近くになりますかね。
合沢萌(以下、合沢):はい、2023年の10月13日に出所しているので、もうすぐ1年です(インタビュー日は10月10日)。
――合沢さんは3回の逮捕経験がありますよね。それぞれどういう理由で逮捕されたんでしょうか。
合沢:1回目と2回目が「覚せい剤の所持・使用」の罪。3回目が「麻薬特例法違反」です。1回目の判決が懲役1年6か月の執行猶予4年、執行猶予中に2回目の逮捕をされて、判決が懲役1年8か月。
合わせて3年2ヶ月の懲役だったんですが7ヶ月の仮釈放をもらったので、2年5ヶ月のお勤めをして出てきた半年後にまた逮捕されて、今度は9年近くです。
――3回目の逮捕は、自分で覚せい剤を売る側として、ですね。
合沢:はい。最初は「営利目的所持」という罪だったんですが、それより悪質な罪に変更になりまして。これがすごく長い罪名なんですが「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反」です。
――本当に長い(笑)。よく覚えていられますね。
合沢:自分の罪名を言えないと刑務所で怒られるんで、意地で覚えました(笑)。
◆AV業界自体が薬物まみれだったわけではない
――負けず嫌いですね。それにしても12年近く刑務所に入っていたら、出てきたときに驚くこともあったんじゃないですか?
合沢:PayPayが一番びっくりしましたね。「なに、この便利な機能」って。YouTubeもちょうど捕まったときにYouTuberが出始めたくらいだったので、こんなに流行しているとは思いませんでした。あとはコンビニで、お金を直接レジに入れるように変わっているとか……。
――世の中もだいぶ変わりました。ところで合沢さんはもともとセクシー女優で、1回目の逮捕は現役時ですよね。現役中は覚せい剤をよく使っていたんですか?
合沢:覚せい剤より、MDMAとかでした。頻繁に使っていたわけじゃなくて、友人とクラブに行くみたいな、みんなで遊ぶときにときどき、でしたね。
――それはAV業界的に麻薬が身近にあったのか、合沢さん個人の身近にあったのか、という点が気になるんですが。
合沢:私個人の近くに、です。AV業界もときどき麻薬で問題になりますが、関係ない人はまったく関係ないですから、どちらかと言えばクリーンなほうだったと思っていますね。
――完全に無関係ではないですよね。女優さんが逮捕されたことも何度かありますし。
合沢:たしかに。刑務所でもふたりくらい女優さんに会いましたね。
◆仕事が減って刺激のない毎日が覚せい剤使用の引き金に……
――MDMAをときどき、でも違法で悪いことなんですが、逮捕された頃はどうでした?
合沢:その頃はすごくて、毎日2、3回覚せい剤を使うって状況でした。ちょうど事務所が解散して、仕事がなくなってしまったんですね。それでヒマになって、ひとりで覚せい剤をやるようになっちゃいました。
――ヒマだから、という理由もすごいですが。仕事がない不安もあったんですかね?
合沢:不安もありましたけど、刺激のない毎日がつまらない、というのが大きかったかもしれないです。なにかを表現したときの興奮と、薬物を摂取したときの高揚感って似ているんです。私の場合は、そっちの高揚感にハマってしまった感じですね。
◆大学の学費を稼ぐために「覚せい剤を売ろう」
――釈放された後に、覚せい剤を売るようになってしまったんですよね。それはなぜですか?
合沢:言い訳になっちゃいますが……刑務所で高卒認定を受けて、大学に行けるようになったんです。それで「臨床心理士」になりたいと思ったんですね。臨床心理士になれば、刑務所でカウンセリングなどができるので、私の経験も生かせる、と。
――なるほど。
合沢:でも臨床心理士になるには、大学と大学院、最低6年必要。そうすると学費も1,000万円くらいかかる。じゃあ30代半ばの人間が1,000万円稼ぐには……じゃあ、薬売るかってなっちゃったんです。
◆覚せい剤を売って5か月で3000万円稼いだ
――すごく極端な話ですね。合沢さん的には勝算があったわけですか。
合沢:はい。実際かなり儲かりました。捕まったときには3,000万円近く持っていましたね、5か月で稼ぎました。
――5か月で3,000万円ですか!どういう人が買うんですか?
合沢:私はインターネットの掲示板で売っていたんですけど、本当に普通の人たち。サラリーマンとか、主婦とか、学生とか。最初はぽつぽつ連絡が来るくらいですけど、それがリピーターになって、最終的に電話帳には400軒くらいの番号がありましたね。
――すごいですねぇ。仕入れはどうしていたんですか?
合沢:私は組織とつながりはなかったので、掲示板で見つけた売人に「卸してください」ってお願いしました。
――行動力があるんですね。
合沢:行動力だけはあるんですよね、良くも悪くも。良い方向に行けば良かったんですけど……。
◆私が脱がずに売れるわけがないと思った
――セクシー女優としての合沢さんの話も聞かせてください。もともと芸能活動をしていたんですよね、レースクイーンやVシネマの俳優さんとして。それがセクシー女優へ転身したのは「こっちのほうが売れる」との判断ですか?
合沢:そうですね。所属していた事務所が、芸能とセクシー関係とどちらもやっていて、セクシー女優さんと営業回りしたり、一緒に舞台に出たりもしたんです。
セクシー女優はみんなかわいいし、輝いていて「こんな子たちが脱いでいるのに、私が脱がないで売れるわけがない」って思ったのがきっかけです。
――どちらもやっている事務所であれば、話は早いでしょうしね。
合沢:マネージャーに相談したら「セクシー女優になれば今より仕事は増えるかもしれないけど、逆に出られなくなる媒体もあるから、ちょっと考えたほうがいいよ」と言われました。
――10年近く前の話ですよね。その時代にそういうことを言ってくれるって、いい事務所ですね。
合沢:そうなんです、いい事務所だったんですよ。もうなくなっちゃいましたけど。
◆親から言われた言葉「ちょっと自由にさせすぎちゃったね」
――考えたうえで覚悟を決めて、セクシー女優になったわけですね。ご家族に話はしました?
合沢:脱ぐことは親には伝えましたけど、セクシー女優としてデビューしたあとも、とくにちゃんと話してはいませんね。でも家族はみんな、知ってはいました。応援もしてくれていましたね。
――それは良い関係性ですね。
合沢:でも逮捕されたときに「こういう仕事をしていたから捕まった、とは思っていないけど……ちょっと自由にさせすぎちゃったね」とは言われちゃいました。
――それはちょっとツラいですね……。セクシー女優としては単体デビューですよね。お金があるから、薬物に行ってしまった部分はあるんでしょうか。
合沢:それはやっぱりあるかもしれません。やっぱりお金に余裕がないと、覚せい剤を使い続けられないですし。結局セクシー女優で稼いだお金は、全部使っちゃったんですけど。
◆セクシー女優になったことに後悔はありません
――セクシー女優になったのを、後悔したことはありますか?
合沢:全然後悔してないです。大変は大変でしたけど「楽しいな」って仕事はできていました。表現、エンタメの世界としてはすごく好きな世界なので。
――そう考えると、事務所の解散は合沢さんの中で大きな出来事だったんでしょうか。
合沢:そうですね。解散後も一応マネージャーが個人的に仕事を取ってきてくれることもあったんですが、やっぱり事務所ってバックボーンがないとなかなか厳しくて。仕事がなくなってくると「自分の価値って、もうないのかな」と考えてしまうような状態でした。
――そういう気持ちが、薬物に走る原因となってしまった。
合沢:私、仕事依存症な部分があるんです。なにかを表現し続けていないとダメなタイプ。それなのに仕事がなくなってしまったから、もう世の中がつまらない、と思って薬に頼ってしまったのかな、と今では思っています。
<取材・文/蒼樹リュウスケ 撮影/星亘>
【蒼樹リュウスケ】
大学在学中に成人誌出版社で編集のアルバイトを始め、そのままアダルト業界に定住。大手AVメーカーの雑誌編集部を経て、フリーライターとして独立。好きなことを書きたいと思った結果、アダルトならなんでもありな文章を書きまくる生活を送っている