最大24%減額…「年金の繰上げ受給」の落とし穴

「年金の繰上げ受給」とは、年金支給が開始される65歳より早く年金の受け取りを開始することです。最短60歳から受給可能です。

早い段階から年金を受け取れるメリットがある一方で、注意しなければならないデメリットもいくつか存在します。主なデメリットは下記の3つです。

<年金の繰上げ受給のデメリット>

1.年金が最大24%減額する

2.「障害年金」を受給できない可能性がある

3.「高年齢雇用継続給付金」を受け取ると年金額が調整される

1.年金が最大24%減額する

65歳から年金を受け取るのと、繰上げ受給で早く年金を受け取るのでは、もらえる金額が異なります。繰上げ受給を選択すると、1ヵ月ごとに0.4%年金が減額され、仮に60歳から繰り上げ受給を開始した場合は0.4%×60ヵ月=24%減額されることになります



[図表]繰上げによる減額 出典:日本年金機構「年金の繰上げ受給」より抜粋

2.「障害年金」を受給できない可能性がある

また、繰上げ受給を選択すると、「障害年金」が受給できなくなる可能性がある点も見落としがちです。障害年金の額が繰上げをした老齢年金の額より高いケースも多いため、万が一大きなケガや病気で身体に障害を負った場合に、もらえるはずだった金額よりも少ない金額しか受け取れないことになります。

3.「高年齢雇用継続給付金」を受け取ると年金額が調整される

さらに、「高年齢雇用継続給付金」についても注意が必要です。

「高年齢雇用継続給付」とは、60歳以降も働く方(60歳以上65歳未満の雇用保険加入者)のうち、賃金額が大きく減った方(60歳到達時の75%未満)を対象に、最高で賃金額の15%に相当する金額が支給されるというものです。

この制度の注意点は、給付を受けると、繰り上げた老齢厚生年金の一部が調整される点です。支給率に応じて年金停止率も変動し、最大で賃金(標準報酬月額)の6%が停止する仕組みとなっています。

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「年金の繰上げ受給」を検討の際は、慎重に判断を

今回、雅史さんは繰上げ受給を選択したことで、大きく「2つ」のダメージがありました。

・高年齢雇用継続給付を受けた際の年金額調整

・障害年金の受給資格の消失

雅史さんは60歳以降も働いていることから3万円の高年齢雇用継続給付を受け取れますが、年金額に調整が入り、賃金の6%にあたる1万2,000円が年金から減額されます。

また、雅史さんは不慮の事故で骨折し、右人工股関節を装着することになりました。現在は車イス生活を余儀されており、障害等級2級または3級に該当する可能性があります。もし2級に該当した場合、本来であれば障害基礎年金として81万6,000円(2024年時点)を受給できていました。しかし、雅史さんは繰上げ受給をしているため、これを受け取ることができません。

つまり、雅史さんは高年齢雇用継続給付を受けた際の年金額調整によって毎月1万2,000円、障害年金の受給資格の消失により毎月約1万7,000円を失うことになりました。

今回のケースはあくまでも結果論であり、繰上げ受給がうまくいくケースももちろんあります。

しかし、雅史さんのように予期せぬ事態が発生した場合、繰上げ受給のデメリットが顕著に現れる可能性があります。そのため、繰上げ受給の選択を検討する際は、将来の健康状態や生活状況の変化に対するリスクも考慮に入れることが非常に重要です。

辻本 剛士
ファイナンシャルプランナー