タレント広告における好感度仮説
では、タレント広告を作る場合、どのタレントを使うべきでしょうか。
上記の仮説が有効に働くためには、使用するタレントの人気があり、好感度が高いことが決め手になってきます。これを好感度仮説といいます。
事実、広告に使用されるタレントは、好感度ランキングトップの人ばかりになるのが普通ですし、好感度ランキングの順位とコマーシャル出演本数は非常に高い相関を持っています。
もし商品のターゲットが明確に決まっていれば、老若男女に人気がある人よりも、そのユーザー層にとってとくに好感度が高いタレントを使うのがよいでしょう。
たとえば、若い女性向けの商品の場合には、その層が支持するタレントを、高齢者向けの商品であれば、高齢者が好きなタレントを用いるのがセオリーです。
そのため、雑誌『日経エンタテインメント!』などが公表しているタレント人気ランキングは宣伝部や広告代理店にとって重要なツールになります。
最初に、日本や韓国、中国などでタレント広告の人気があり、欧米諸国ではそれほどではないというお話をしましたが、この原因のひとつは、人種や民族が比較的単一だからである可能性があります。
「すべての人に人気がある」タレントが存在しやすいからです。
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なぜワーストタレントがテレビコマーシャルに出るのか
ところが、実際のコマーシャルを観ていると必ずしも好感度が高いタレントばかりが起用されているわけではないことに気がつくと思います。
ときには好感度ランキングワーストタレントでさえ登場しています。なぜこのようなことが発生するのでしょうか。
ひとつは、ファン効果(※)があるため、人気タレントが必ずしもコストパフォーマンスが良いとは限らないからです。
※人気タレントはたくさんの商品やサービスの広告に起用されています。ひとりのタレントが多くのものと結びついているがゆえに、連想関係が少なくなっていくことを「ファン効果」といいます(このファンは「タレントのファン」のファンとは違い、ひとつの概念とつながっているノード(結び目)の数のことをさします)。
人気ワーストタレントはワーストであるがゆえに有名でもありますし、また、マスメディア登場回数も多いと思われます(登場回数が少なければ、そもそもワーストワンにはならないでしょう)。
上記の仮説の中では、注目仮説や想起手がかり仮説の効果を条件づけ仮説やバランス理論の効果よりも優先しているわけです。
これらの仮説の下では、我々は感情の方向性(好き-嫌い)よりはその強度に敏感なので、コストパフォーマンスが良い可能性があるのです。
宣伝広告費をかけられる大企業は基本的に失敗がないみんなに人気系のタレントを起用しがちなのですが、中小企業がコストをかけずに効果を最大化しようとすると、独特のポジショニングのタレントを起用しがちになるわけです。
越智 啓太
法政大学文学部心理学科教授