Adoプロデュースのアイドル・ファントムシータ。唯一無二の存在を目指して

 歌い手のAdoがプロデュースを手掛ける“レトロホラーアイドル”をご存じだろうか。今年6月、鮮烈なデビューを果たした5人組グループ・ファントムシータ。約4000人の中からオーディションで選ばれたメンバーは、もな(17歳)、美雨(19歳)、灯翠(21歳)、百花(18歳)、凛花(17歳)。Ado自身が「歌唱力と楽曲に飲み込まれないパフォーマンス力で選び抜いた」とコメントするように、5人が生み出す“美しくも恐ろしい”世界観はアイドル界で異質な存在感を放つ。10月30日にはファーストアルバム『少女の日の思い出』をリリース。そして、11月1日に日本武道館での初単独公演を控える。

そんな新たな領域を切り開くアイドル・ファントムシータの魅力に迫った。

◆恐ろしく感じるものを表現するアイドル

――デビューしてから4か月が経ちましたね。

もな 怒涛のように楽曲やMVを出させていただいたり、初めてのことの連続ですが、だんだんと表現することに楽しさを感じられるようになってきています。

美雨 オーディションに参加してファントムシータになってからまだ短い時間しか経っていませんが、それまでの人生と張るぐらいの濃さというか。人生が変わったなと感じていますね。

灯翠 美雨も言ってくれましたが、ありがたいことに忙しい日々を過ごさせていただいているので、何曜日かがわからなくなるぐらい生活が慌ただしいです(笑)。

凛花 メンバーとは会うたびにいろいろな部分が見えてきて、自分にとってかけがえのない大切な人たちだなと日々実感しています。

――グループ結成時にAdoさんから言われて印象に残ったことはありますか?

美雨 「現代のアイドルとはまた違ったアイドルの新時代を作りましょう」と言っていただいたのですが、それぐらい私たちに期待していただけていることが嬉しかったです。

もな Adoさんの情熱を感じてすごく心強かったです。

――ファントムシータのコンセプトである「レトロホラー」や、「現代のアイドル界の異端児を目指したい」というようなことを聞いたときの心境は?

百花 最初はすごく驚きましたが、現代のアイドルの皆さんを「蝶」とするなら、ファントムシータは「蛾」という異端な存在を目指すということが唯一無二だなと思いました。

凛花 最初は、レトロホラーって何だろう?と思ってネットで調べたのですが出てこなくて…、Adoさんから説明を受けたときにようやく腑に落ちました。レトロホラーというのは形式的なものでなく、人間の内側にある感情も含めて、恐ろしく感じるものを表現するアイドルなんだなと。

――今みなさんが笑顔で話している姿からは想像できないぐらい、ライブ中はアイドルらしからぬ表情と楽曲に度肝を抜かれるパフォーマンスですよね。

灯翠 全員が憑依型というか、曲がかかると入り込んでパフォーマンスするので、MCとのギャップがすごいと言われることもあります(笑)。表情も内から出たものを表現しているだけなので、ここで変えようという意識はないんです。

もな そうなんです。曲が終わると、フッと抜けていく感じです。デビュー曲の『おともだち』は、全員が指を指し合う振り付けから始まるのですが、他のメンバーの表情を見ると、自分にもガコンッ!と憑依する感じが多いです。

――楽曲の歌詞を読みながら、5人でパフォーマンスを作り上げていく作業も?

美雨 きっちりとしたものではないですが、全体の方向性は話し合っています。個々の解釈を聞きながら、気持ちをすり合わせていく作業ですね。

――そこまで入り込むとファントムシータの世界観が抜けなくて、プライベートまで引きずってしまうことはないもの?

もな 今のところはないです(笑)。

灯翠 もともとホラーが大好きなので、私は常にコンセプトの世界で生きている感じかもしれません(笑)。

――でもメンバーのなかには、ホラーが苦手な方いましたよね?

百花 はい……。ただ、私も曲が始まったら入り込んでパフォーマンスするだけなので、普段の生活に支障はきたしていないです。

凛花 よかった。

美雨 特典会などでは、パフォーマンスのイメージで会いに来てくださったファンの方にびっくりされることは多いです(笑)。

――早くもファーストアルバムが10月30日にリリースされます。楽曲の世界観だけでなく、歌詞も現代では使わない表現や言い回しが多くて大変ではなかったですか?

もな 提供してくださったアーティストやボカロPの方々はもともと好きな方ばかりだったので、1つの意味でもかみ砕きながら、難解な漢字も味として、さまざまなファントムシータを見せられているのでありがたいという言葉に尽きます。

――アルバムに収録されている曲の中で特に難しかった楽曲はありますか?

百花 ボカロPの楽園市街さんに書いていただいた「乙女心中」は漢字が多くて、読み方や言い回しも大変でした。

――ほかにも「花喰み(はなばみ)」や「HANAGATAMI」などの意味は調べたりも。

もな そうですね。言葉としての意味を調べますが、辞書どおりのまま表現するということではなく、世界観を通しての意味を考察しながら、一人ひとりが役に入って演じているという感覚が強いです。

――そこまで考察しながら作り上げていく作業は、普通のアイドルグループにはなさそうですね。もしかして、学校よりも勉強しています?

百花 それは間違いないです(笑)。

凛花 自らがきちんと解釈して世界に入り込んでいかないと、提供してくださっているアーティストの方々にも失礼なので、それが第一優先ですね。

灯翠 研究に近いかもしれないですね。どんどん深めていくという感じ。

◆武道館はゴールではなく、スタートライン

――SPA!は皆さんの親御さんぐらいの中年世代が中心なんですが、今回のアルバムで推したい曲はありますか。

百花 『ゾクゾク』がおすすめです。レトロホラーの魅力も詰まっているなかで、昭和歌謡のような雰囲気もあるので懐かしさを感じてもらえると思います。

灯翠 あと、感情と葛藤をテーマにした楽曲『花喰み』のミュージックビデオは、5人ともすごく頑張って撮影しました。とくに箱の中に入って表現するシーンは、感情を爆発させていて表情も過去イチだと思うぐらいのレトロホラーみが出ているので。気になる表情を止めて見ながら、何度も見てもらえたら嬉しいです。

――そんな最恐アイドルの皆さんがプライベートで恐怖に感じることを教えてください。

美雨 虫全般が苦手なのですが、なかでもカメムシが怖くて……。小さい頃に服を着たらカメムシが付いていて、振り払ったら臭い匂いを発していて「ぎゃー!」と叫んだことがあります。それ以来、自宅の部屋を開けて虫がいた際は、「ここはどうぞ」と譲って私は違う部屋で過ごすようになりました(笑)。

もな 私は夜道が怖くて、1人で帰るときは2秒に1回は後ろを確認しながら歩いています。結構、想像の世界で生きているので「暗い中でいきなり人が現われるかもしれない」と考えてしまうんです。怖さ対策として、オシャレな楽曲を聴いています。

――自分たちの曲ではない?

もな 余計に怖くなるので絶対に聴きません(笑)。

――怖いモノ、凛花さんはありますか?

凛花 それでいうと、ないかもしれません。恐怖という感情が出てこないというか。

美雨 たしかに動じないよね。

凛花 今は無敵かもしれないです(笑)。17歳で何も知らないがゆえの無敵かもしれないですけど。

灯翠 羨ましい……。私は朝が本当に恐怖なんです。朝が弱くて、次の日はこの時間に起きないといけないというときの前日が不安で眠れないんです。ベッドに入るんですが、不安に駆られて3時間ぐらい経っていることがざらにあります。常に睡眠不足です。

――ちなみに朝が強いメンバーって誰ですか?

百花 やっぱり無敵な人が手を挙げています(笑)。

凛花 私からアドバイスをするとしたら、アラームを途中で止めずにひととおり聞いてから止めるのを意識してみて。あとは、手の届く場所に置いちゃダメ! 

灯翠 ベッドから起き上がってスマホを取りに行って、アラームを止めたらベッドに戻って二度寝しちゃうの……。

凛花 とにかく寝ちゃダメ!! 今日だってモーニングコールをかけているんですよ。私が寝坊したらどうするんですかね。

もな・灯翠 いつもありがとうございます。

――そして、日本武道館でのファーストライブが11月1日に控えていますね。

もな “アイドルの聖地”という印象の強い場所で、ファーストワンマンをさせていただけることは本当に異端というか、ファントムシータらしいと感じていて。このステージを用意していただいたことに感謝しています。変に委縮することなく、ファントムシータにしか出せない魅力を感じてもらえるように、私たち自身も楽しみにしています。

美雨 日本武道館がゴールではなく、ここからがスタートライン。全員でもっと成長していけるようなステージにしたいです。

――無敵状態の凛花さんとしては、「やってやるぞ!」という気持ち?

凛花 正直に言うと……すごく緊張しています(笑)。ファンの方々やスタッフさんもファントムシータのために時間と労力を割いてくださっているということを頭に入れて、忘れられない1日にしないといけないなという思いは強いです。楽しみでもありますが、ファントムシータにできるのかという不安もあるんです。だから、今は気持ちがぐちゃぐちゃですが、1人じゃないので5人で期待以上のものを作り上げたいです。

――ファントムシータとして今後の目標や野望はありますか?

凛花 具体的な目標はまだありませんが、いつ見ても全力でベストなパフォーマンスを出せるようにしたいです。ファントムシータと聞いて、メンバー一人ひとりの顔が思い浮かんでもらえるようになりたいし、もっとたくさんの方に知ってもらいたいですね。

百花 うん。“レトロホラーアイドル”といったらファントムシータだと言われるぐらい存在を確立させたいです。

美雨 普段思っているけど他人には言えないようなことを、私たちが代弁者として歌っています。楽曲を聴いて、明るく元気に!という感じにはならないかもしれないですが、誰かの心に寄り添えるグループになっていきたいです。

もな とにかく楽曲に触れていただいて、ファントムシータにしかない世界観を体感してもらいたいです。思わず立ち止まってしまうようなパフォーマンスで、アイドルの新たなジャンルを確立させたいと思っています。いろいろなことに擬態できるメンバーが揃っているので個々の魅力も伸ばしていきたいですね。

――挑戦してみたい仕事はありますか。

灯翠 個人的には、ホラーの代名詞になりたいです。例えば、お化け屋敷のプロデュースとかしてみたいです。 

百花 絶対に行きたくない……。

灯翠 その怖がっている様子を撮影して、私たちのYouTubeチャンネルで公開したいですね(笑)。

取材・文/吉岡 俊 撮影/後藤 巧