ワイン評論家のジェームス・サックリング氏が10月に東京・六本木で大規模なワインイベント「グレート・ワインズ・ワールド」を開催。イベントに先立ち、日本のワインメディアと懇親会を開いた。そこで語られたサックリング氏の新たな試みとは? この日のために彼がセレクトしたワインと、彼の素顔をリポートする。

世界的ワイン評論家として、ワインマーケットに大きな影響力を持つのがジェームス・サックリング氏だ。10月に、日本初となる大規模な高級ワインイベント『グレート・ワインズ・ワールド』の開催を控え、その準備のために9月に来日、ワインメディアとの懇親会を開いた。

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ジェームス・サックリング氏(左)と奥さまのマリさん。サックリング氏は米国の著名なワイン誌『ワイン・スペクテーター』で副編集長として長く活躍。ワイン界で大きな影響力を持つワイン評論家。「日常はどんなワインを楽しんでいますか?」という質問に「バローロなど、イタリアワインが多いですね」とマリさん。「家でのワインは妻が選ぶことが多いですね(笑)」とサックリング氏

サックリング氏は会の冒頭でこう語った。
「このイベントは香港、バンコク、ソウル、そして日本、アジア4カ国で行われます。約5000人のワイン業界関係者やワイン愛好家が参加、世界から約400のワイナリーが集まります。日本でこのようなイベントを行うのは初めてですが、日本はアジアにおける高級ワイン市場の中心地。いつかは日本を訪れてみたいと思っていました。今回は、グランドハイアット東京に145のワイナリーが集結、2100の銘柄を紹介します。ありがたいことに、チケットは完売。日本のワイン愛好家の熱が感じられました」

『エスカープメント ピノ・ノワール マーティンボロー キワ 2020年』(右)と『シャトー・オザンナ 2021年』には「赤牛のグリル ズッキーニ グリーンオリーヴ アンチョビ サルサヴェルデ」を合わせて。マリアージュはピノ・ノワールとメルロとでそれぞれに異なり、多彩。「ワインによって異なるマリアージュを楽しんでほしい」とサックリング氏

この日のメディア懇親会はホテル虎ノ門ヒルズのレストラン「ル・プリスティン東京」で行われた。世界的ミシュランスターシェフであるセルジオ・ハーマン氏監修のエレガントな料理に合わせて、サックリング氏がセレクトしたワインは下記の通り。(サービス順)

■ローラン・ペリエ『グラン シエクル N. 25』
■チャクラ『シャルドネ パタゴニア 2022年』
■チャッチ・ピッコロミニ・ダラゴナ『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2018年』
■エスカープメント『ピノ・ノワール マーティンボロー キワ 2020年』
■『シャトー・オザンナ 2021年』
■ドンナフガータ『パッシート ディ パンテレリア ベン レイ 2022年』

いずれもサックリング氏が高得点を付けたものばかりで、グラスやサービス温度もパーフェクト。ワインメディアの面々を唸らせていた。

『チャクラ・シャルドネ/ボデガ・チャクラ 2022年』
アルゼンチン・パタゴニア。シャルドネ100パーセント。「ボデガ・チャクラ」はアルゼンチンで最も優れたピノ・ノワールの造り手と称される生産者。ブルゴーニュ・ムルソーの名門「ドメーヌ・ルーロ」とともに造る。ふくよかな果実味と凛として美しい酸味。750ml/1万4,300円(税込)

『シャトー・オザンナ 2021年 』
フランス・ボルドー地方(ポムロール地区)。メルロ、カベルネ・フランをブレンド。「シャトー・ペトリュス」を育てたクリスチャン・ムエックス氏が率いるジャン・ピエール・ムエックス社が手掛けるワイン。芳醇で力強く、エレガントなスタイル。複雑で奥行きのある味わいで、タンニンもシルキー。750ml/2万3,100円(税込)

ここでサックリング氏に質問してみた。
「あなたがワインを採点する際、最も重視していることは?」
サックリング氏はこう即答した。
「まずは、飲んだ瞬間にエモーショナルな感動を与えてくれるかどうか。そしてバランスが取れているかを重視します。もちろん、エレガントであることも大切な要素です」

ちなみに、彼は昨年は4万本を試飲したという。
「今年もどんな素晴らしいワインに出合えるか、楽しみです」と笑顔を見せる。
サックリング氏は日本ワインにも強い興味を持っており、特に北海道のワインに注目しているという。
「きっかけは、ドメーヌ・アキヒコの『ヨイチノボリ パストゥグラン』でした。ブルゴーニュスタイルですが、ブルゴーニュとはピノ・ノワールの在り方が違い、独特の魅力があって驚きました。北海道は大きな可能性を持っている。ぜひまた産地を訪れたいと思っています。そしていつか、北海道の生産者たちのドキュメンタリーを撮ってみたいですね」と語る。

また、現在サックリング氏が力を入れているのが、新しい消費者にワインを届けるための新プロジェクト「Wine AI.com」だ。これは、ワイン愛好家がワインを発見するプラットホームで、消費者が自分の好みのワインを見つけるのをサポートするもの。その一例が一見、銀河系の画像のような“ワイン・ギャラクシー”と呼ばれるシステム。星のように見えるのは実はワインで、果実味や酸味、タンニン、ボリュームなどが類似しているものが、まるで星座のように集まっている。これをチェックすることで、そのワインがどんなキャラクターなのかがわかるという仕組みだ。フランスワインの隣にチリワインがあったりするので、国や産地にとらわれることなく、好みのワインが選べるという。

「ワイン ギャラクシー」ではAIによって好みのワインが選べる。“ワインの宇宙”が解明できる楽しい仕組み

サックリング氏のワイン評論の魅力は、おそらくは“わかりやすさ”にある。氏に対してのみならず、ワインに点数を付けることにおいては是非の声もあるが、それでも“そのワイン”に対して知識や情報のない人にとっては、ワインを選ぶ際の手掛かりとなってくれるはず。点数の奥には「多くの人々に、よりわかりやすくワインを伝えたい」というジャーナリストとしての思いが隠されているに違いない。

text by Kimiko ANZAI