職場のBBQで肉を焼き続けた“女性契約社員”が知った真実「虚しくなって、ボロボロ泣いてしまいました」

 仲が良いと思っていた人間に裏切られるのは辛いことだが、それが集団ともなると、当然そのショックはさらに大きなものになる。井原真奈美さん(仮名・30歳)は職場で仲間外れにされた経験があるそうだ。

◆同僚から「休日のBBQ」に誘われる

「前職で営業事務をしていたころの話です。私が働いていたのは某機械メーカーの地方にある支社で、営業メンバー5名をサポートするポジションでした。自分が前に出るより、人を支える方が合っていると思い始めた仕事でしたが、実際にやってみると性に合っていてやりがいも感じていました」

 

 何よりもやりがいになったのが周りのメンバーの言葉だった。

「『見積もりを代わりに作ってもらって助かったよ』とか『井原さんのおかげで商談がうまくいったよ』と言ってもらえることがあって、それがうれしかったんです。私も期待に応えようと仕事は一生懸命にやっていました」

 人間関係も良好で、仕事中に同僚たちの楽しそうな会話が聞こえてくることも多かったという。

「ある時に、営業メンバーがBBQに行く話をしているのが聞こえてきたんです。彼らはプライベートでもよく会っていたので、特に何も思わずに仕事をしていたんですが、女性のメンバーから『井原さんも一緒に行きませんか?』と誘われました。これまでも飲み会に誘われることはあったんですが、休日に誘われるのは初めてで、距離が縮まったような気がしてうれしく思いました」

◆炎天下のなか、良かれと思って調理し続けた

 BBQに参加するのは人生で初めてのことだった。勝手がわからないこともあり、準備に時間をかけた。

「どんな格好をすれば良いのかわからず、アウトドア系の服を新調したりもしました。食材は当日に買うとのことでしたが、他にもあったほうが良いのではないかと思い、自分で漬けた漬物や焼きおにぎりを用意して持っていくことにしました」

 そうして当日を迎えることに。 

「女性の同僚とふたりで調理を担当する予定でした。でも、その同僚は他のメンバーと話してばかりで、早々に席に座って飲み始めてしまったので、料理のほとんどを私が担当することになりました」

 真夏だったこともあり、料理の担当は過酷だったという。

「席は日陰なんですが、焼き場は直射日光が当たるので本当に暑かったです。でも、みんなが『美味しい』といって食べてくれるのがうれしくて。お肉や野菜、焼きそばなどを焼いて、みんなの分の取り分けもしました。途中で追加のお酒を買いに行ったりもして忙しかったので、ようやく食べる時間ができた時には野菜や焼きおにぎりぐらいしか残っていませんでした」

◆2次会の案内メールが届くも、すぐ削除され…

 つつがなく終了し、ターミナル駅で解散。その後、駅の構内にあったカフェで休んでいると、見たくない情報が飛び込んできた。

「私は疲れていたこともあって、ぼーっとしながらスマホをいじっていたら、とあるメッセージが入ってきたんです」

 そこには驚くようなことが書かれていた。

<BBQお疲れ様でした!お伝えしていたとおり2次会の案内です!料金はBBQと込みなので無料です!>

「リンクが付いていたんですが、それは高級な個室カラオケ店のURLでした。『お伝えしていた通り』とありましたが、私は聞いていませんでした。BBQの代金はかなり高かったんですが、2次会の代金も含まれているなんて知りませんでした。メッセージはすぐに削除されたので、私を誘い忘れたわけではなく、最初から誘う気はなかったんだと思いました」

◆小間使いとして呼ばれていた?

 その時になって、自分が何のためにBBQに誘われたのか気づいたのだという。

「私は鈍感なので全く考えていなかったんですが、自分は料理や買い出しをしてくれるメイドみたいな存在として誘われたんだと思いました。役割を与えたら黙々とやるし、文句も言わない。BBQの小間使いとして適役だったんだと思います。そんなことを考えていたら無性に虚しくなって、カフェでボロボロと泣いてしまいました」

 週明けの勤務。誰もSNSの誤爆について触れることはなく、営業メンバーはいつもと変わらない様子だった。

「同僚に対する不信感が拭えなくて、どうしても確認したいことがあったので、本部に連絡してみることにしました。お客さんからの問い合わせを受けて、私が提案をして、それが元で営業メンバーが商談して成約につながった場合は成果が按分される仕組みがあるんです。私は何件もそうしたアシストを行っていたんですが、本部に確認してみたところ、案の定、私には成果がいっさい按分されていないことがわかったんです」

◆正社員に利用されていたことに気づく

 営業が作成する受注書類に記載されていなければ按分は発生しない。意図的に行われていたようだった。

「上司からは面談で成約のアシストについて口頭で評価を受けていました。ですが、数字上は反映されていないので、いくらがんばったところで昇給などは見込めない状況だったんです。仲間だと思っていたのは私だけで、彼らはそういう体裁だけ装って、ずっと私を利用してきたんだと思いました。契約社員である私と正社員である彼らとの間には明確な線引きがあったんです」

 大きなショックを受けた井原さんは転職を考えるようになったが、それでも最後まで勤務は続けた。

「契約期間は全うしようと思い、半年ほど残っていた期間は最後まで勤務を続けることにしたんです。それで、更新の意思確認をされた時にお断りしました。同僚に『お別れ会をやろう』と持ちかけられましたが、丁重に辞退しました」

 井原さんが転職した先は、その会社の競合で業界シェア上位の企業だった。仕事をがんばることで、前職企業のシェアを奪うことにやりがいを感じているのだという。

<TEXT/和泉太郎>

【和泉太郎】

込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め