「2人きりで旅行は微妙…」曖昧な関係の彼女に旅行に誘われたが、煮えきらない男は…

◆前回までのあらすじ

アパレル関連の会社を経営する翔馬(32)は食事会で出会った香澄と2度目のデートに。いい雰囲気になったふたりはキスをするが、付き合うまでには至らず。デート翌日に香澄から「旅行したい」と言われるが…。

▶前回:「天然なのか、わざとなのか…」体を密着させスマホ内の写真を見せてくる31歳女に、男は…

Vol.8 軽井沢に再集合



「おぉ、結構寒いな」

雪こそ降っていないが、軽井沢にはもう冬が訪れているのを感じる。

東京駅から新幹線に乗り、軽井沢駅からタクシーで向かった場所は、旧軽井沢の高級別荘が建ち並ぶエリア。

ひんやりとした空気があまりにも美味しくて、胸いっぱいに深呼吸をした。

目の前に見える邸宅は、秋山が旧軽井沢に所有する別荘。彼に旅行の件を話したら、快く招待してくれたのだ。

「うわぁ。これは、すごい…」

「やば…」

外観はグレーでシンプルなのに、大きな窓が映えるモダンなデザインが、とてつもなくカッコいい。

俺と元太は、しばらく言葉を失った。

「でしょ。結構、設計に口を出したから嫌がられたんだけど、だからこそ最高に気に入ってるんだよね」

秋山が自慢げに言うのも納得できる。

「庭にある小屋はサウナだから、よかったら後で使って」

「サウナ!それはもう、絶対に入ります」

男性陣でそんな会話をしながら、玄関前で待っていると、香澄、玲、ミナを乗せたタクシーもすぐに到着した。

香澄に「泊まりで旅行がしたい」と言われたのは、彼女とデートをした翌日のこと。そのデートで俺たちはキスまでしたのだが、交際が始まったわけじゃない。

だから、複数人で行く計画に変更したのだが、この1泊2日で、俺はなんらかの答えを出すつもりでいる。

曖昧な態度を取り続けるのは、申し訳ないから。

「お〜〜い!こっちこっち!」

秋山が、女子たちに向かって手を上げる。

「きゃ〜!なんて素敵な別荘なの?男3人、女3人の共同生活、しかも軽井沢だなんて。昔人気だった恋リア番組みた〜い」

落ち葉をカサカサさせながら、ロングブーツで走ってきたのは香澄。

「共同生活って、たった1泊するだけじゃない」

「秋山さん…儲かってるんですね〜」

その後に、玲とミナが続いた。

はしゃぐ香澄に、ピシャリと指摘する玲。コムギを抱っこしながら感想を述べるミナ。元々友達ではない3人は今日も三者三様だ。

「では、どうぞ。お入りください」

秋山に案内された我々は、3つあるベッドルームにそれぞれ荷物を置き、夕食までの間は各々自由に過ごすことにした。

「私、コムギとお庭で遊んでますね」

ミナが言うと、元太が「俺も!」と後について行った。やはり元太は生粋の犬好きらしい。

「外は寒いから、ここでぬくぬくしながら飲みましょ〜よ〜」

香澄は、秋山が東京から持ってきたシャンパンを広いリビングで飲み始める。

「ねぇねぇ!翔馬さんも飲もう?」

案の定香澄に誘われるが、返事をする前に玲に呼び止められてしまった。

「翔馬くん!今から一緒に買い出しに行かない?」

「えっ、俺?」

「うん。もうタクシー呼んでるから」

玲は有無を言わせず俺の腕を掴み、そのまま玄関へ向かう。

― どうして俺と?

背中に突き刺さる香澄の視線に耐え、転びそうになりながらスニーカーを履き、外へ出た。



「この間は、本当にごめんなさい」

スーパーに着くと、玲は俺に頭を下げた。

謝られたことで、あの夜のことが一気に蘇る。

「あ、あぁ。酔い潰れることなんて、誰にでもあるし気にしてないよ」

「ありがとう。そう言ってくれると救われるよ。私こんな性格でしょ、だから好きになってくれる人って滅多にいなくて…。やっといい男性に出会えたと思ったら彼女になる前に終わっちゃったり、付き合っても1、2ヶ月で振られちゃったり…とにかく、自信がなくなってたの」

玲はそう言いながら、生鮮食品売り場で柿とジャガイモ、それからハーブのディルを手に取りカゴに入れた。

「そっか。それで、元太に話を聞いてもらってたんだね」

「そうなの。元太ってすごく優しいのね。思ってもない言葉で適当に励ますんじゃなくて、ちゃんとダメなところ指摘して、イジって、でも最後は褒めてくれて…そんな人初めてだった」

― まぁ、いいヤツではあるよな。

お調子者で図々しいところはあるが、根が優しいので、俺も長年友達でいるのだ。

「それでね、ちょっと好きになりかけちゃったのよ」

「えぇ?元太のことを?」

「うん。みんなには内緒ね!でもね、その後に聞いちゃったの。元太には8年も付き合ってる彼女がいることを。ちょうど翔馬くんが来る前だったかな」

― あぁ、今はあいつフリーだけど…。

玲に教えてあげようかと思ったが、とりあえず話を聞くことを優先した。

「それでね、あぁ、なんてツイてないんだろう…男運がなさすぎる。って、お酒を飲む手が止まらなくなっちゃったんだ」

「あぁだからか。だいぶ荒れてたもんね」

「そう。だから、もうどうにでもなれ!っていう気持ちで、翔馬くんとタクシーに乗って、お家に行こうって言った。元太への当てつけもあったと思う」

玲は、話しながら次はひき肉やサーモンなんかを適当にカゴに入れていく。

何を作るのか、ちゃんと考えながらそうしているのかは、わからない。だが聞けない。

「その後の事はほんとに覚えてないんだけど、あの日、何もしないでくれてありがとう」

「いや。当然のことをしたまでだよ」

「もし、そういうことになっちゃってたら、私はまた自己嫌悪の闇に堕ちていって、しばらく立ち直れなかった」

あの時、玲がそんな心境だったとは知らなかったが、俺の理性もたまには役に立つらしい。

玲は、卵や豆腐、納豆などをカゴに入れると小さい声で「よし」と呟いた。

「玲ちゃん、あの…」

「柿とブッラータチーズでカプレーゼ、ディルを入れたポテトサラダ、スープはきのこのポタージュ。メインはサーモンとハンバーグ。お豆腐や納豆は翌朝用よ」

俺が聞く前に、玲はカートの中身を全て説明してくれた。

「え…ちゃんと考えながら入れてたの?」

「まあね。と言いたいところなんだけど、このメモに従っただけなの」

玲は、デニムのポケットから折り畳まれた紙を出した。

「メニューを考えたのはミナちゃん。別荘を出る前に渡されたのよ」

― ミナは料理が得意なのか…。

プロテインなどで食事を済ませるタイプなのだろうと思っていたので、心の中でミナに謝った。

「でも、それをパッと見ただけで暗記したのは私」

「そうだね、すごいよ。さすが東大卒!」と茶化しながら俺が笑うと玲もやっと笑顔を見せてくれた。

その帰り道、俺は玲に、元太が彼女と別れたことを話した。

別荘に戻ると、他の4人はリビングにいて談笑をしていた。

食材を冷蔵庫に入れていると、元太が「ちょっと来い」と手招きし、俺はリビングから離れた。

「なぁ翔馬、気づいてた?十番でぶつかった美女、たぶんミナちゃんだよ。あのビション見覚えあるもん」

「あ、そうそう。気づいてたよ」

「そうなの?今日じゃなくて、もっと前にわかってたってこと?翔馬、ミナちゃんにも会ってるのか…?」

元太には香澄と会っていることしか言っていないからか、質問攻めに遭う。

「一度だけね。それも、コムギの散歩中にたまたまだよ」

「そうなのか。でも偶然も重なると、必然?はたまた運命?って…思っちゃうよな」

元太とは長い付き合いだ。だから俺のことを俺よりわかっていると思う瞬間もあるが、何を言っているのか意味不明な時もある。

「いやいやないよ。なんだよ、占い好き女子みたいなこと言って。気持ち悪いな」

そう言って誤魔化すしかなかった。今回は香澄のことをもっと知るための泊まり軽井沢なのだから。

「はいそこまで。いいかげん、翔馬さん借りてもいいですか〜?」

背後からスッと現れた香澄に驚く。彼女がいつからそこにいたのかわからないが、なんだか笑顔が引きつっていて、不自然に感じたのは気のせいだろうか。

香澄と一緒にリビングに戻ると、ミナと玲が早速調理を始めていた。

東京の喧騒から離れ、ゆったりとした時が流れる旧軽井沢の夕刻。

まさか、この後のディナーが修羅場になるなんて、この時はその予兆さえ感じられなかった。

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香澄が爆弾発言。そして…