会社の上司や同僚は仲間であり、ライバルでもある。表面上では仲良くしているものの、実は「他人の出世を妨害していた」というケースもあると聞く。システム会社に勤務する本間友樹さん(仮名・30代)はまさにその当事者だという。
◆当初は“当たり”だと思っていた転職先の上司
本間さんは大学を卒業後、システム開発会社で3年間勤務し、同業種のB社に転職。ここで下岡さん(仮名・50代)が部長を務める部署で働くことになったそう。上司の印象について本間さんは以下のように振り返る。
「第一印象はニコニコしていて、笑顔を絶やさない雰囲気の良い人という印象でした。横浜生まれと聞いてましたが、なぜか東北なまりで喋る人で、先輩社員から信頼されている様子でした」
上司の下岡さんと同じ部署で仕事をスタートさせた本間さん。下岡さんの仕事ぶりに、好印象を抱いたと話します。
「とにかく話しやすい人でした。ほんわかしていて、こちらの質問や悩みにもしっかりと答えてくれる。私はまだ経験が浅かったこともあり、仕事の疑問や悩みをよく相談していました。営業、マネージメント、システム開発、サポートなど、全てをこなしている人でした。私は、マルチに働く姿を見て尊敬していました。一緒に働いているうちに『下岡さんみたいになることができたらいいな』と感じるようになりました」
◆必死で働いているのに、なぜか出世も昇給もしない
上司である下岡さんを信頼するようになった本間さん。仕事の面でも、ほとんど怒られたことはなかったという。
「モチベーションを上げる言葉をかけてくれる上司で、怒られたことはありませんし、指導を受けたこともありませんでした。我ながらそつなく業務をこなしていたので、怒る要素もないんだろうなと。1年に1度、上司と今後の目標などを話す機会があるのですが、そこでも『よくやってくれている』『評価しているからがんばってほしい』と言われていました。よく、飲みに連れて行ってももらいましたし、昼ご飯も奢ってもらいました。そこでの話も楽しかった。私は、下岡さんを信頼していました」
評価されているものと思い込んでいた本間さんだが、あることをきっかけに、疑念を持つようになった。
「私はこの会社で頑張ろうと資格を取得し、必死に働きました。技術を身に着け、仕事をこなしていたのですが、出世もできないし、昇給もしなかったんです。下岡さんは『会社の業績が悪い。みんな上がっていない』と言っていて、他の社員に聞くわけにもいかず、『そんなものかな』と思っていました。ところがあるとき、私よりあとに入社した同僚が係長に昇進したんです。なぜなのか理解ができず、愕然としました。私は納得ができなかったので、思いきって『なぜ僕が係長ではないんですか?』と聞きに行くと、『俺は評価しているんだけど、ごめん』と東北訛りで言われて。食い下がることはしませんでしたが、部長の意向が評価に反映されないはずはないので、不信感を覚えていました」
◆知りたくなかった上司の“本性”が明らかに
本間さんが独自に調査を開始すると、意外な事実が判明したそう。
「ある日、職場の同僚たちと飲みに行く機会があり、それとなく下岡さんの話を聞きました。すると、ベテラン先輩社員が『あの人は東北弁でニコニコしているけど、誰よりも腹黒いし、シビアに人を見ているよ。東北弁に騙されてはダメ』と言うんです。また、別の先輩も『下岡さんは人の話を聞いているようで聞いてない』『部下の手柄を自分の手柄のように見せている』『部下に優しいのは自分の味方を作ろうといるだけ』と悪評のオンパレードでした。私は下岡さんと仲良くしていたので、同僚たちは悪評を伝えなかったそうなんです」
意外な事実はまだまだ続いた。
「後輩は『本間さんのこと、下岡さんは嫌っていますよ』と言われて。私がいないところで『あいつはすぐ質問してきて、仕事ができない』『技術力がない』『挨拶ができない』などと酷評していたらしいんです。人の悪口を言う人間にも、見えなかったのですが、裏でそんなことを言っているなんて信じられなかった」
◆いたたまれなくなり、退職を決意。そこでも…
「下岡さんが自分をどう評価しているのか気になり、いろいろな人に質問しました。すると皆、『あいつは挨拶ができないからダメ』と言っているらしいんです。また、『人間性が良くない』『協調性がない』と。また、『出世は絶対にない』と断言しているそう。なにが、『評価している』だよと。信用していたのに、裏切られた気分でした。たしかに私は出社しても黙っているし、挨拶はしないけれど、それでも人より努力をして、仕事もできるという自負があります。挨拶ができないというレッテルを貼られて、それだけで低評価にするなんて、最悪だと思いました」
真実を知った本間さん。その後、どうなったのだろうか。
「信用が崩れたことで、『一緒に働きたくない』という不信感と『このままでは出世できない』という気持ちが拭い去れなくなり、退職しました。退職届を出す際、『急にどうしたんだ』『評価しているから残ってみてはどうか』と言われましたが、『どうせ、口だけで、本心は違うんだろ』と。狭い業界なので口には出しませんでしたけども、もう全てが気に入らなくなってしまい、残る気はありませんでした。今は別の会社で働いています」
さまざまなタイプの思惑がうごめている職場。つきあう人間には、注意したいものだ。
<TEXT/佐藤俊治>
【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。得意分野は社会、スポーツ、将棋など