「シェバ」と同じコミフォラ属の植物の葉|Vinayaraj / Wikimedia Commons

 イスラエルなど国際研究チームは、約1000年前の種子から「シェバ」と呼ばれる植物を発芽させ、樹に育てることに成功した。種子は1980年代にユダヤ砂漠の洞窟で発見されており、遺伝子解析やその他の特徴から、聖書に登場する治療薬が採取される植物「ツォリ」の関連種である可能性あるという。研究論文が9月、学術雑誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された。

◆80年代調査で発掘された種子

 シェバの種子は1980年代、ユダヤ砂漠の洞窟で行われた考古学調査の際に発見された。米CNN(10月3日)によると、洞窟はエルサレム北部のワディ・エル・マックク地区に位置する。種子以外にも、多くの考古学的発見がなされている一帯だ。

 その後の放射性炭素年代測定により、種子は約1000年前のものであることが判明した。研究チームは、現在のイスラエル、パレスチナ、ヨルダンを含むレバント地方南部に分布していた樹木種がかつてあり、種はその生き残りである可能性が高いとみる。

 発掘当時、種子は非常に良好な状態で保存されていたが、何の植物の種かは不明であった。科学ニュースサイト『ライブ・サイエンス』は、その後の研究により、カンラン科コミフォラ属の可能性が示唆されたと伝えている。アフリカ、マダガスカル、アラビア半島に広く分布し、芳香性の樹脂を分泌することで知られている。

◆古代の種はまだ生きている? 発芽の試み

 研究チームは種を正確に同定するため、発芽させる必要があると考えた。2010年、サラ・サロン博士率いる研究チームが、種の特定を目的として種を植えている。サロン博士は、エルサレムのハダサ大学医療センターのルイス・L・ボリック自然医学センターの創設者でもある。

 チームのなかでも発芽実験を主導したのは、アラバ研究所のエレーン・ソロウェイ博士だ。イスラエルのエルサレム・ポスト紙(9月22日)は、ソロウェイ博士が「古代の種を24時間水に浸し、成長を促すためにさまざまな化学物質や肥料を加えた」と報じている。

エレーン・ソロウェイ博士(左)とサラ・サロン博士

 より具体的には、過去の研究で確立された方法が用いられた。水、ホルモン、肥料の溶液に種を浸し、その後無菌の土壌に植える手法だ。

◆1000年の時を越えた芽生え

 数週間後、種は約1000年前の眠りから覚め、見事に発芽した。サロン博士はCNNに、「約5週間半経つと、この小さな芽が顔を出したのです」と語っている。発芽後は順調に成長した。ライブ・サイエンスによると、現在では人間の背丈を超え、約3メートルの高さにまで成長している。

 サロン博士は、その樹を「シェバ」と名付けた。樹液が樹枝状に固化した「バルサム」を、アラビアからソロモン王に献上した、シェバ女王(シバの女王とも)に敬意を表してのことだ。

(a)種まき前の古代の種子、(b)発芽5週間、上胚軸と種皮に覆われた子葉、(c)苗木(6ヶ月)、(d)樹皮が剥がれる(12年)、(e)細い毛のある葉(12年)、(f)成熟木(12年)|(a)および(cからf)はGuy Eisner氏より、(b)はElaine Solowey博士より

 シェバの成長過程を通じ、研究チームはその形態学的特性を丹念に観察した。シェバは薄い紙状の樹皮を持ち、緑色の表皮が露出している。落葉性であり、12月から4月の涼しい時期に葉を落とすことが分かった。

 ただしCNNによると、まだ花を咲かせたり種子を実らせたりしていない。このため、研究チームをもってしても完全な同定にはいまだ至っていないという。

◆聖書の治療薬「ツォリ」を分泌か

 一方、研究チームはシェバを、聖書に登場する「ツォリ」に関連がある可能性があると考えている。ツォリは聖書、特に創世記やエレミヤ書、エゼキエル書に登場する、治癒効果のある樹脂だ。米フォーブス誌によると、ツォリは古代世界で高く評価され、ローマ帝国全体に輸出されていた。

 エルサレム・ポスト紙は、その正体は長い間議論の的となってきたと振り返る。シェバの発見により、ツォリの正体がシェバから採れた樹脂である可能性が出てきた。

 研究チームは、ツォリの産出源と考えられる根拠として、その化学的特性、さらにはシェバの発見場所を挙げている。シェバの樹脂を分析した結果、抗炎症作用と抗がん作用を持つ化合物が含まれることが判明している。古代におけるツォリの治癒効果と一致するとエルサレム・ポスト紙は指摘する。

香りのする樹脂が取れるコミフォラ属の植物|Giovanni Seabra Baylao / Shutterstock.com

◆絶滅種がよみがえった可能性

 また、シェバの種子が見つかったユダヤ砂漠の洞窟は古代において、重要な交易路に位置していた。ある生態学者はフォーブス誌への寄稿で、従ってツォリもこの地域で取引されていた可能性があると指摘する。

 シェバはコミフォラ属に属することが確認されているが、その遺伝子は独特であり、既知のどの種とも一致しない。このことから、シェバはかつてその地域に生息していた絶滅種である可能性が高いことが示唆されるという。そうであれば今回の研究を通じ、絶滅種が古代の種から復活したことになる。

エルサレムのハダサ大学医療センター|ChameleonsEye / Shutterstock.com

 1000年ぶりに復活したシェバの樹は、現在も成長を続けている。今後の研究により、歴史的背景や薬効成分の詳細がさらに解明されることが期待される。