日本のことを知らない日本人
尾﨑: 確かに、日本人が少なかったり、日本式の生活が通用しなかったりする海外では「逃げ道」がないですもんね。私も海外で仕事をしてきたことで、自分自身が日本のことを知らないなぁ、というのは何度も痛感させられました。日本の歴史や文化について質問されても、自信をもって答えられないという経験を繰り返ししたので、改めて日本のことを勉強するきっかけにもなりました。
川上: そうですね。通訳をする場合、通常テンポよく会話を翻訳していかなければならないんです。そのため、日本とオーストラリアの両方の文化的背景に加えてその会話の前提を知っていて、さらに頭の中でスピーディに切り替えなければなりません。これは何度も実習しながら訓練するんですが、その過程で自分は日本語力がないなぁ、と反省しました。30歳過ぎてオーストラリアで日本人の先生に日本語を叩き込まれましたね(笑)。
そのほか、通訳をする場合には医療なら医療の、農業なら農業のテーマごとに特殊な言い回し、専門用語があるのでそうした背景も勉強するようになりました。その分野の専門家には程遠いですが、通訳資格取得のために海外で大学に行ったことで、薄く広く、様々なジャンルの知識を得られたのも大きな収穫です。
尾﨑: 18歳の頃の思い切りとその後の苦労が今、海外で会社を起業し、経営者としての活躍につながっているんですね。
川上: それは間違いないですね。18歳の時にオーストラリアに来ていなかったら何をやっていたのか、想像もつきません。もちろん、苦労はしましたし、精神的に落ち込んでいた時期もあったのですが、自分にはこの道しかなかったかなとも思います。
尾﨑: 留学経験が人生を変えた、と。
川上: 留学することで人生の選択肢が増えた気がしますよね。留学することで自分がやりたいことも見つかりましたし、「こうしなきゃいけない」という先入観からも解き放たれた気がします。日本にいて、日本人とだけ話して暮らしていたら、やっぱりこんな生き方にはなってないでしょうから。
「日本とオーストラリアの競馬業界の懸け橋になる」を掲げて今チャレンジの真っ最中ですが、それをやっていなかったら尾﨑さんとも知り合ってませんからね。
尾﨑: すべての始まりは川上さんが高校卒業してオーストラリアに留学したことですね!
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日本国内の就職では、数カ月程度の留学でも十分武器になる理由
川上: 私の経験からくる考え方ですが、留学してマイナスになることはないと思います。万が一留学が合わなかったとしても、その発見そのものが皆さんのその先の人生にとって貴重な学びになるでしょうし。また、日本国内では「ちょっと英語ができる」というレベルでも十分英語を使って仕事ができる人材としてみなされます。通訳や翻訳の資格を取らないと英語ができるとみなされない社会ではないので、数カ月~一年ほどの海外滞在でも十分武器になりますよね。
尾﨑: 確かに命さえ失わなければチャンスは広がりますよね。語学もそうですが、日本とは違う環境で一定期間生き残ってきたこと、日本とは違う世界各地の方の考え方や行動様式を肌で知っている、というのも武器になりそうです。
川上: 私のような無謀なやり方はおススメしませんが、実際に海外に飛び出してみると、たくさんの人が応援してくれることにも気づきます。なので、私はちょっとでも関心があるなら留学にチャレンジしてみてはどうかな、と考えています。
昔、自分が苦労した経験があるので、競馬や通訳以外にもこちらで日本人向けのシェアハウスや滞在支援、語学学校紹介のビジネスも展開しています。苦労しないと留学の意味がないとは思いますが、自分も含め周囲の人に応援してもらって留学が成功しているので、今から留学してくる若い世代を必要最低限は支えてあげられるようにと思ってますね。
2022年8月の状況としては、コロナ前の3割~4割くらいは日本からの留学生も戻ってきている印象です。もう少し気軽な留学、ワーキングホリデーなどができるようになればいいとは思いますが、頑張っている方は多いですね。
尾﨑: 高校卒業後、そしてオーストラリアで苦労された後に仕事をしながら現地の大学で勉強されたご経歴、そして今世界で活躍する日本人のお一人として貴重なお話をお伺いできました。
川上: オーストラリアは世界でも比較的安全で、かつ完全に英語ネイティブの国です。日本との時差も少ないですから、ぜひ留学やワーキングホリデー先として日本人の方にもっと来てもらいたいですね。競馬はさておき、日本とオーストラリアの懸け橋になれていればうれしいです。
尾﨑 由博
海外安全管理本部/海外安全.jp代表