年金まで持っていかれるなんて…
敏夫さんは会社の社宅に住んでいたため、不動産はありません。そのため、30年間の婚姻期間中に貯めた預貯金や株式などを後でもめることのないように半分ずつに分けることにしました。
敏夫さんは海外生活が長かったことから、運用を取り入れた資産形成を早くから行っていました。そのため、離婚時点での金融資産は7,000万円ありました。それは婚姻期間中に貯めたものです。よってそのうちの3,500万円を恵子さんに譲ることになったのです。
敏夫さんも頭にはきていたものの、やはり長年支えてくれた妻への感謝の気持ちもあったのでしょう。受け取った退職金約2,000万円については、婚姻期間を考慮し800万円を恵子さんに譲ることに。
離婚後、敏夫さんは地元に帰って働きながら親の面倒を見る生活が始まりました。
ところが、地元での生活にも慣れてきた1年後、恵子さんから連絡があり、年金分割を請求されました。まさに青天の霹靂です。ビックリするとともに頭に血が上り「これまでの財産分与はもう済んだじゃないか! 年金まで取ろうとするのか!!」と怒鳴ってしまいました。しかし、年金も離婚における財産分与の対象になるのです。
正式には年金分割といいますが、婚姻期間中の敏夫さんの厚生年金部分を恵子さんは半分受け取りたいと言ってきたのです。
年金分割には合意分割と3号分割があり、3号分割とは夫婦で話し合うことなく恵子さんが一人で手続きできます。しかし、2008年4月1日より前に婚姻期間が開始している場合は合意分割の対象となり、話し合って分割しなければならないのです。
調べてみると婚姻期間中の厚生年金は年額100万円だったため、そのうちの半分である50万円を恵子さんが受け取ることになりました。
離婚を切り出され、最後は年金まで取られるとは思わなかった敏夫さん。最終的に自分が受け取れる年金がいくらになるのかを計算し、それに見合った老後生活を送ることを考えています。
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財産分与請求には時効がある
敏夫さんは恵子さんと話し合い、全て2分の1ずつ分け合うことで話がまとまりましたが、中には話がまとまらないケースもあります。ただ、家庭裁判所の処分も2分の1となるケースが多く※3、夫婦平等にという考えがあるようです。そして、年金分割によって変動する額は月3万円程度というデータもあります。
月3万円でも年間に換算すると36万円。長い目でみるとまとまった金額になります。
敏夫さんが早くから資産形成に取り組んでいたのは、老後は恵子さんと2人でゆとりのある生活ができるようにと考えていたからこそ。しかし、その夢はかないませんでした。両親の亡き後は相続した家で1人で暮らすことになります。それを考えると、がむしゃらに働いた自分の人生は何だったんだろうと寂しく感じることも……。
2人の子どものうち1人は結婚し、東京に住んでいます。今の敏夫さんの楽しみは、年に数回、孫の顔を見に行くことです。
婚姻期間が長ければ長いほど、財産分与の対象となる金額も大きくなります。熟年離婚を防ぐためにも、日頃から夫婦でコミュニケーションを取っておくことも大切かもしれません。