もし自分が認知症になったら……。誰もが抱える不安だと思います。認知症研究の第一人者・長谷川和夫さん(2021年11月ご逝去)は、自ら認知症であることを公表。このインタビューは亡くなる3か月前に伺った、ご本人と家族の大切なメッセージです。
認知症研究の第一人者が「認知症」になるということ
※インタビューは2021年8月に行いました。
「父の方から、認知症だと思うから薬を飲もうかな、どうしようかなと相談されたのが2016年頃でしょうか。認知症研究の第一人者である父本人がそう言うのならと、私の診療所で薬を出し始めました。認知症と公表したのはその翌年。私は父が認知症になってよかったと思っているんです」
と話し始めたのは精神科医の長谷川洋さん。認知症かどうかを判定する「長谷川式認知症スケール」を開発した医師・長谷川和夫さんの長男です。
ーー“父が認知症になってよかった”と言う理由は何でしょうか。
「認知症の専門家である父が認知症になったということは、この病気は誰でもなる可能性があり、多少の不便はあっても普通に暮らしていけることを多くの方に知ってもらえると思ったからです」と洋さん。
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認知症でも穏やかな生活ができる
当の和夫さんは、電話でこんなことを話してくれました。
「私は認知症になる前は自分が専門家でありながら、認知症になったら向こう側の人、認知症でないこちら側の人、と隔絶していると思っていたんですが、そうじゃなかった。つながっているんです。
私の症状には波があって、朝起きると脳が光り輝いていて、お昼、夕方とだんだん弱ってくる。翌朝になるとまた輝いている。他の人にはない尊いことです」。
洋さんは「両親は2020年9月に老人ホームに移りました。二人を見ていると、多くの方々の助けによって暮らしが整うことでゆとりができ、穏やかな生活ができると実感します」と続けます。
妻の瑞子(みずこ)さんは、「夫は鼻から酸素吸入し、車いすで移動していますが、食事やお風呂など生活まわりはホームでしてもらえるので安心です。夫はもともとよく話す人でしたが口数は減りました。でも長年一緒にいるので黙っていても通じますし、むしろ文句を言うことが減ってケンカもないからよかったと思いますよ(笑)」と穏やかに語ります。