長谷川和夫さんが説く、当事者と家族のありよう
長谷川和夫さんのインタビューと、著書『認知症でも心は豊かに生きている』(中央法規出版社刊)の言葉から構成しています。
■認知症の当事者としての気持ち
●認知症になっても別な人になるのではありません
自分が認知症になると思っていませんでした。なってみて思うのは、認知症の人の本当の痛みを知ることができたということです。
ただし、認知症で別な人になってしまうのではありません。人間には多様性があり、いろいろな面がありますが、それは連続しているのです。昨日まで生きてきた続きの今日の自分が、そこにいるのです。
●認知症は不便なことですが、不幸なことではありません
認知症になると、繰り返し同じことを話したり、道に迷うなど確かに不便なことは起こりますが、まわりのサポートでなんとかなります。喜んだり楽しんだりする感情はそのままに、その人らしく生きられるのです。
●記憶が抜けてもまわりの人が覚えていてくれます
自分がした行動を忘れて、今、ここ、しかハッキリしない状態が私にはあります。でもまわりの人が自分のしたことを覚えていて、助けてくれるので、不安に思うことはありません。
■家族の接し方
●診断や治療でなく「その人」を見ることです
パーソン・センタード・ケアという言葉があります。直訳するとその人中心のケアです。認知症の人と接するとき、まわりの方が何かしなくてはと、あれこれ働きかけてしまいがちです。
診断や治療ももちろん大切ですが、その人が何を求めているか、まわりの人が耳を傾けてその人の声をよく聴き、尊重することが大切です。
●同情ではなく共感することです
かわいそう、などと思うのは上からの目線。そうではなく同じ高さの目線でいてほしいと思います。軽んじたり、特別扱いしたりせず、寄り添うこと、語り合うことが大切です。
●支えられる人にせず役割を持たせてください
何でもまわりの人がしてしまうのではなく、その人が一人ではできないことだけをサポートしてください。その人なりの役割があり、ほめられることが生きがいにつながります。
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【受診と治療】「もしかして認知症?」と思ったら気軽に受診
ここからは、長谷川洋さんに、実際に症状が見られるようになった場合の対処を伺いました。
もの忘れがひどくなった、時間や道を間違えるなどの症状が自分、あるいは家族に見られるようになると、不安になることでしょう。
「認知症でなくても似た症状が現れる病気があるので、まずは気軽にかかりつけ医などを受診することをおすすめします」と洋さん。
いわゆる認知症の治療は、症状の進行を遅らせる投薬が中心ですが、他の病気が原因の場合、その病気の治療でよくなることもあるので受診が大事です。
「仮に認知症だとしても、地域包括支援センターなどで、介護保険や行政のサービスなどのアドバイスがもらえます」と洋さん。
また、高齢者の認知症は、大変な病気や人生の困難を乗り越えて長生きできた証、とも話します。
「認知症の症状はそれぞれの方で異なりますが、サポートにより、その人らしい暮らしを続けることはできます。もともと好きだった音楽を聴いたり、好物をおいしく食べたり、趣味を楽しむこともできる方は多いです。仮に認知症という病気になっても、できることを一緒に楽しんでいけるといいなと思います」と洋さん。
本人と家族が、日々の暮らしに喜びを感じ、支え合うことがその秘訣です。
■こんな行動が見られたらまず相談を
●もの忘れがひどい
●判断・理解力が衰える
●時間・場所がわからない
●人柄が変わる
●不安感が強い
●意欲がなくなる
加齢により誰にでも見られる行動ですが、まずは気軽に受診してみましょう。他の病気が原因の場合は治療によって治りますし、仮に認知症と診断されても進行を遅らせる治療ができます。
■まず相談するところは?
まずは認知症外来など専門医に相談。住んでいる地域にはなかったり、抵抗感がある場合は、かかりつけ医などに早めに相談しましょう。「もの忘れがひどい」といった相談でも大丈夫です。
■家族が受診を嫌がったら?
名称はさまざまですが、地域包括支援センターなど、行政の窓口に相談してみましょう。家族が別の病気でかかっている医療機関でご自身が受診して「実は」と雑談風に相談してみる方法もあります。
■治療はどのように進む?
まずは血液検査を行い、次にCTなどの画像検査を行います。甲状腺の機能低下、慢性硬膜下血種など治療できる身体の状態がないか検査で調べることと問診で診断を行い、投薬など治療を行っていきます。
■家族の心構えは?
認知症の方を尊重して接することが大事ですが、家族にゆとりがあってできることです。家族だけでがんばらず介護福祉サービスを活用して、家族もサポートを受けることが大切です。