コロナ禍以後「老後はいくら必要か?」

定年退職後のAさんは、自宅のリフォームのあと、趣味に旅行にと夢に見た悠々自適の生活をスタートさせます。

しかし、そんな夢のような生活は長くは続きませんでした。「最初はよかったのですが……」Aさんは切なげに振り返ります。緻密な計算が崩れだしたのは、新型コロナが国内で広がりだしたころ。外出もままならなくなり、大好きなゴルフや旅行などもできず、妻と2人で引きこもる生活が続きました。

そして、2022年ごろからは海外との金利差等の理由から円安が加速し、いろいろなものが値上がり。食料品に日常品に光熱費、まさにありとあらゆるものが値上がりとなってきたのです。

今年に入るととうとう主食であるお米の値段まで上がりだして、さすがにAさんも贅沢な生活はできなくなってきた、と感じ始めました。

「新型コロナのころは、また外国旅行をしたいけど収まるまでは我慢しようね、と妻と話し合っていたんです。ところが、新型コロナが収まると今度は予想もしなかった円安で海外旅行も楽しめなくなってきました。私の老後プランでは、円安や物価高なんてまったく考えてもいなかったんですよ。これからは働き手もどんどん減っていくから、まだまだ物価が上がっていきそうですね。税金なんかもまだ上がるんでしょうか。空き家も増えるというし、家もちゃんと売れるのかどうかも心配になってきました」Aさんは続けます。

「地震や災害も心配ですが、テレビのニュースも戦争の映像が多くなりましたよね。北朝鮮からのミサイルの数も増えましたし。景気が悪いせいか、詐欺のニュースも増えたような気がします。『闇バイト』という言葉も働いていたころはありませんでした。妻が怖がってしまってニュースを見ているとチャンネルを変えてしまうんですよ。定年退職したあとはなんだか世界が一変したような気持ちです」

ここ数年のあいだに世界情勢や国内の状態などが大きく変化しました。「老後はいくら必要か?」と考えても、なにが起きるかわからない時代に突入してしまいましたから、「これで安心」とは明言できなくなっています。

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老後も働くなんて…

Aさんは、老後は悠々自適の生活を送るため、しっかりとマネープランを組んで定年退職を迎えたつもりだったので、老後に働くということなど一切考えたことはありませんでした。現役時代は総務事務がほとんどで、特にこれといった資格や特技もなく、デスクワーク中心でしたから、これから身体を使った仕事などとても考えられません。

若いころから「公務員だから一生安泰」と思ってきましたが、老後を楽しめたのは定年退職してからはたった1年間のみ。

「同期の人間は親戚の会社に頼んでアルバイトを始めたと聞きましたが、私はどうしても働く気力が起きません。働くことはもともとあまり好きではないんです。贅沢をしなければなんとか暮らしていけると思いますが、いつなにが起きるかわからないと思うとお金が使えなくなりました。夫婦2人で自宅で過ごすことが多くなりましたよ。これからもこんな暮らしが続くのかと思うと気持ちが暗くなります。これからの時代は老後も働くことが当たり前の時代になっていくんでしょうね」肩を丸めて大きなため息をつくAさん。