近年の日本では、株価も不動産価格も上昇傾向にあります。「もしやバブルの再来?」と感じると同時に、平成バブルのつらい思い出がよみがえる人もいるでしょう。当時を振り返ると、いくつもの「あのとき、こうしていれば…」が思い浮かびますが、ここでは一例として、銀行が「銀行としての正しい行動」をとっていたならどうなったのか、考えてみたいと思います。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

株価・不動産価格が上昇中…もしやバブル再来か?

株価や不動産価格が上昇しています。いまの上昇がバブルであるのか否かはわかりませんが、いい機会なので、バブルについて考えてみたいと思います。

バブルには2種類あります。1つはだれもがバブルだと知りながら「バブル崩壊で大損するリスクはあるが、バブルが崩壊する前に売り抜ければ大儲けできる」と考えて投機する人々が膨らませるバブルです。世界最初のバブルは、チューリップの球根だといわれています。現在の貨幣価値で何千万円にも値上がりしたらしいので、だれが見てもバブルでしたね。

しかし、最近ではそうしたバブルはまれです。政府や日銀が「バブルが膨らんでから崩壊すると経済への悪影響が大きい」と考えて、早めに潰してしまうからです。強いていえば、ビットコインは昔のバブルに似ているかもしれませんが。

最近のバブルは、バブルか否かわからない間に膨らむものです。平成バブルのときには「日本経済は世界一になった。21世紀は日本の時代だ」などと考えた日本人投資家が「だから株や土地が高いのは当然だ」と考えて買いまくっていた面も強いのです。

そして、日本経済を動かしていた賢い人々のなかにも、住宅ローンを借りて自宅を買った人が大勢いました。彼らは、バブルだと思っていなかったのでしょうね。バブルだと思っていたら、自宅は買わないで待ち、バブルが崩壊して地価が暴落してから買うでしょうから。

バブルかもしれないが、そうでないかもしれない、というときには、政府日銀がバブル潰しを試みることは容易ではありません。人々が「株が値上がりして儲かった」と喜び、儲かった金で毎晩飲んでいるときに「バブルかもしれないので、早めに潰しておきます」などといおうものなら、投資家たちからも飲み屋からも苦情が殺到するでしょうから。

結局、政府日銀が潰せない間にバブルは拡大し、最後は「地価が上がりすぎてサラリーマンが自宅を買えない。それはマズイので地価を押し下げる」という口実でバブルを潰したわけですが、すでに膨らみすぎていたバブルが崩壊したことの悪影響はとても大きなものでした。

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あのとき、もし銀行が「正しく」行動していたなら

政府日銀が動けなかったとしても、もっと早くバブルを潰すことはできなかったのでしょうか。筆者は、銀行が「正しく」行動していればバブルは拡大しなかったのではないか、と考えています。

投資家たちは、いまがバブルか否かわからない状況では、「いまがバブルでなければ、買うべきだ。いまがバブルだとしても、崩壊する前に売り抜ければよいのだから、買ってみよう」と考えます。儲かるチャンスに賭けることには、合理性があるわけです。

しかし、銀行は違います。「土地を買うから金を貸してほしい」といわれたとき、銀行は慎重に考えるべきだったのです。「いまがバブルでなければ土地は上がり続けるかもしれない。しかし、その場合に儲かるのは借り手であって、銀行ではない。銀行には金利が入るだけだ」「もしもいまがバブルで、地価が暴落して借り手が倒産すれば、銀行が失うのは金利ではなく元本だ」と考えればよかったのです。これは「儲かれば借り手の勝ち、損すれば借り手と銀行の損」という賭けなのですから、貸すべきではなかったのです。

当時の銀行は、高度成長期の名残りで銀行間の量の競争が激しかったので、冷静に「貸さない」という判断をすることが難しかったのかもしれませんが、次にバブルが疑われる状況になったときには、慎重に判断してほしいものです。それにより、銀行自身を救うのみならず、バブルを抑制することで日本経済も救うことになるのですから。