相続放棄する必要はなかった…?

死後に借金の存在が発覚するという事例はよくある話です。裕美子さんは相続放棄を行いましたが、筆者が受けた相談事例で、必要のない返済をしてしまった方がいます。事例の方は、亡くなったあとに消費者金融からの借り入れの存在を知り、相続放棄ができることを知らずに遺族が借金を返済しなければならないと思い込み、返済してしまったのです。

借り入れの「時効」

そして今回のケースですと、もう30年も前に借り入れて、債権者であった共同経営者もすでに亡くなり、身寄りがないというような場合、時効になっている可能性が高いといえます。長期間に渡り債権者が催告しない、債権者も返済しないというような状態が継続すると、時効となるのです。令和2年4月に法改正され、それ以後の借り入れについては最後の取引の翌日から5年となっていますが、それ以前の借り入れについては10年が時効となります。

ですが、時効の存在を知らず、また、担当した司法書士もいつの借入なのかをよく聞かないまま手続きを進めてしまったため、せっかくの800万円の預金を相続放棄することになってしまったのでした。

間違いだらけの相続

また、裕美子さんが気にしていた叔父の認知症について。認知症の方が作成した遺言書だからといって即無効となるわけではないことは、あまり知られていないかもしれません。遺言能力があるかないか、という点が大きなポイントとなりますが、個別の判断となるため、自分で判断して結論づけるべきではありませんでした。遺言書を作成する際に借金について司法書士、弁護士などの専門家に相談していれば対処できたことでしょう。

裕美子さんに限らず、問題なのは、一人で悩むことです。特に裕美子さんの場合は聞きかじりの情報や真偽不明の情報を頼りに決断してしまいました。相続に関係する法律は複雑です。そのため、必ず専門家に状況の詳細を伝えるようにして、そのうえで選択肢を一緒に考えてもらい、どうしたらよいかを考える必要があるでしょう。

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相続トラブルはお金持ちだけの問題じゃない

今回は死後に借金の存在が発覚し、せっかくの資産を相続放棄をしてしまった事例を紹介しました。

「相続」と聞くとお金持ちだけの問題だと考えてしまいがちですが、資産をさほど持たない人でも相続のトラブルは発生し、2020年の司法統計によると調停・審判となった事例の80%近くは遺産の金額が5,000万円以下で起きている事実があり、むしろさほど資産がないほうが相続を巡るトラブルが起きているということがわかります。

前述のとおり、相続の問題は法律が複雑に絡み、下手に対策すると余計に税金を支払ってしまうようなケースになったり、思わぬトラブルを引き起こしてしまったりする可能性もあります。自分の死後、親や身近な人の死後にどのようなことが考えられるのか、相続に強い弁護士や司法書士などの専門家に相談しながら検討していくとよいでしょう。
 

小川 洋平

FP相談ねっと

ファイナンシャルプランナー