GPSを彼氏のスマホに仕込んだ27歳女。ドタキャンされた夜、男の居場所を確認すると驚きの事実が…

◆これまでのあらすじ

総合商社で働く橘くるみ(27)は、広告代理店の彼からデートをドタキャンされた。大学時代からの女友達の勧めで彼の居場所を特定すると…。

▶前回:広告代理店男と付き合って1ヶ月の27歳女。彼から1週間に1回しかLINEが来ないって、ヤバイ?



東京外国語大卒女子/橘 くるみの場合(27歳)【前編】



蓮のスマホにインストールしたGPSの位置情報が示した場所に、私は衝撃を受けた。

「ここ、付き合うことになって、初めてお泊まりしたホテルがある場所かもしれない…」

スマホを見つめて呆然とする私に、芽衣は言った。

「まぁ、真相は確かめなきゃわからないけど。そもそもGPSを忍び込ませなきゃいけない彼氏なんてやめたら?これ以上付き合っていても、自分が惨めになるだけだよ」

私の両肩をがっしりとつかみ、彼女は続ける。

「くるみ、もっと自分を大切にしてくれる人を選びなよ」

「そういう人って、何だか居心地が悪くなっちゃうの」

彼女は驚いて目を見開く。まっすぐな瞳で見つめられ、私はうつむいて言った。

「芽衣には前に話したと思うけど、中学の時にお母さんがガンで死んじゃったんだ。それからお父さんが私とお姉ちゃんを育ててくれたんだけど……」

お父さんは大きな工事を成功させて、ゼネコンでそれなりに出世していたらしい。でも、子どもたちの世話のため仕事をセーブするようになり、それ以上の出世は難しくなったようだ。

「お父さん、『娘さんたちがいなければ、もっと上に行けたのにね』って噂されてたみたい。だから『私がいなければ』って、ずっと思って生きてきた。

お父さんの分までがんばって、いい大学に入って、いい会社で働いて、いい男と結婚して…『自慢の娘』になりたかった」

『自慢の娘』になるために足りないものは、育ちの良さと、お金。パズルのピースを埋めるために、蓮を選んだ。

― でも、もっと、好きに生きればよかったのかな…。

私は窓の外を見た。そこに答えがあるような気がしたけど、土砂降りの雨が降っているだけだった。

芽衣は悲しげに微笑み、はっきりと言った。

「それは違う。くるみはもっと自分で自分のことを大切に扱わないと。他の誰かでコンプレックスを埋めることはできないよ」

「…そうだよね」

「お父さんは自分でその人生を選んだんでしょ?別にくるみが責任を感じる必要ないよ」

彼女はいつも正しい。正しい人生を歩んできたのだろう。私にとって彼女は太陽のように眩しかった。

― 芽衣をこれ以上、付き合わせるわけにはいかないわ…。

彼女に「外出するから」と部屋へ戻るように伝え、一緒に外に出た。

「あれ。くるみ、傘持ってないよね?」

「タクシーを呼ぶから大丈夫」

芽衣とマンションの前で別れて、アプリで呼んだタクシーに乗り込む

三鷹からタクシーで蓮がいる赤坂のホテルがある場所へ向かう。 向かう途中、運転手さんが「あれっ」と声を上げる。

「お客さん、すいません。ここ、通れなくなっていまして……。誰かVIPが来てるのかもな」

「それで通行止めになるんですか?」

「近くにTBSがあるでしょう。海外の要人が来ていると、たまに閉鎖するんですよ」

運転手さんの困った声は、この辺りに詳しくないことが伝わってきた。

スマホアプリで地図を開くと、近所のある場所がブックマークされている。気づくと、運転手さんにこう伝えていた。

「ここで降ろしてください」



降りて向かった先は、赤坂インターシティにある『ざくろ』。

― お父さんとお母さんが東京に遊びに来たとき、デートをした場所だよね…。

デートをした場所は銀座店だったらしいが、系列店が東京にいくつかあると聞いて、他の店舗もブックマークしていたのだ。

「『ざくろ』の炭火でじっくり焼き上がるお肉は旨かった。いつか東京に行ったときに連れていってやりたいな」と父はよく言っていた。

それに、私がイギリスに短期留学していた時も「日本の和牛は世界一だよね!」と言われたことも思い出し、入ってみたくなった。

歩きながら、店に電話をする。空席があるらしく、私は店に入っていった。

仲居さんは笑顔で席に通してくれた。

― たしかお父さんは、ここのトマトサラダもおすすめしてたっけ…。

トマトサラダは、頼むとすぐ出てきた。一見、ただのトマトだけど、絶品だった。

― ただのトマトが、なんでこんなに美味しいの!?

トマトって、こんなに美味しくなれるんだ…。お父さんはすっぽんスープを頼んで、お母さんに笑われたんだっけ。

お肉が到着して、私はそれを湯にくぐらせた。口に含むと、それは私の血となり、肉となり、力になっていった。

― あぁ、そうか、と私は思った。

もう今の私は、昔の何もなかった高校生じゃない。

英語ができて、私のことを考えてくれる太陽のような友達もいる。高級店で、お肉も食べられる。

― 何もないわけじゃない。ないところばっかに、目を向けても仕方ない。

このまま家に戻って、彼に別れのLINEを送ろう。そう決めて、私は席を立った。

お会計を終えると、LINEに1枚の写真が送られてきた。芽衣からだ。

「え、何これ…」

それは外大で文化祭をした時の、クラスの集合写真だった。

外大は都心から離れているせいか、都内の大学の文化祭のような華やかさはない。でも国際色が豊かな出し物があり、ちょっとしたカーニバルのように楽しかった。

それに、写真の中の私は笑っていた。すごくいい笑顔だった。

写真の後には「こういう顔で笑えるような人と、一緒になりな」というメッセージが添えられていた。

「…よし、行くか。終わりを、はじめよう」

私はスマホを握りしめて、蓮がいるはずのホテルへ向かった。

ホテルに着き、ロビーのソファに座る。

― さすがに30分経ったら、ホテルの人にも迷惑だから帰ろう…。

20分が過ぎたころ、1組のカップルが現れた。

女の子はふわふわしたワンピースを着て、茶髪が丁寧に編み込まれている。男が好きな女性の要素を、すべて詰め込んだような子だ。齢は20歳前後だろう。

隣で腕を組んでいる長身のハンサムな男は、亜久津蓮。私の彼氏だった。

「くるみ、何でいるの?」

彼はかたちのいい眉を上げた。明らかに不機嫌そうだ。

「何で、ここにいちゃいけないの?」

女の子はおどおどした様子で、私たちを交互に見つめた。

はーっ、と、彼は聞こえがしにため息をつく。

「今夜の約束はキャンセルしたよね。もう忘れたの?この近くにおじさんの経営してる精神科のクリニックがあるから、紹介しようか?」

「結構よ。蓮こそ、浮気症の病気を治してもらったら?私はあなたの彼女よ。もう忘れたの?」

「へえ、言うじゃないか。オックスフォードで仕込まれたのかな」

蓮は彼女の肩を抱き、言った。

「くるみみたいに海外にかぶれた女より、男が何をしても寛容に受け止めてくれる、女性らしい純ジャパの方がいいに決まってるだろ、こっちが本命だよ」

私はポケットに手を入れた。そこにはスマホがあり、芽衣が送ってくれた写真も入っている。

「あんたみたいな特権階級にあぐらをかいてる浮気男、こっちこそお断りよ! 」

スマホのカバーから彼の名刺を出して、ぐしゃぐしゃにして、投げつけたる。

「ふぅん。謝ると思ってたけど……」

どこかショックを受けたような彼の声を背に、私はその場を去った。

エレベーターを使って、一階に降りる。そこで、ある人物を見つけて、私は声を上げた。

「うそ。どうして、ここにいるの…?」

そこにいたのは芽衣だった。

彼女はニヤリと笑い、言った。

「その顔…さては振ってきたね。だいぶスッキリした表情してるじゃん」

「どうして、ここに来たの?」

「これ、忘れてたからさ」

彼女の手には、傘が握られている。

「芽衣ったら。いらないって言ったのに…タクシーで行くっていったじゃん」

「雨が降ってるのに、傘がいらないわけないでしょ」

「ごめんね、私なんかのために」

「こういう時は『ありがとう』って言うんだよ」

彼女は笑い、私もつられて笑った。赤いルージュがきれいだった。

― 私はもう、足りないものを男で補おうとしない。今のままで十分、愛されていい存在なんだ。

母が血を流して産んだ、私という存在。キャリアを犠牲にして育ててくれた父。それを丸ごと抱きしめてくれたのは、かつての旧友だった。気づくと、私はこう口に出していた。

「色々あったけど、あの時、頑張って外大に入ってよかったわ。親友にも巡り会えたし」

「は、どうしたの急に?」

外に出ると、雨は止んでいる。

秋の夜空は深い藍で、目をこらすと、2つか3つ星が見えた。月は出ていない。

― 見ようとすれば、見つかるのよね。大事な存在って。

「ね。芽衣、飲みに行かない?」

「いいねぇ!赤坂って大使館がたくさんあるから、インターナショナルなお店がたくさんあるって聞いたよ」

「ここも良さそうだな~」とグルメサイトを見ている芽衣の姿を見ながら、私はぼんやりと思った。

この夜がどこに続いているかわからないけど、きっと大丈夫。あの時みたいに笑える日が、きっと来るはず。

― そうすれば、もっとちゃんとした恋愛もできるかも。

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