「ONE PIECE 」「SLAM DUNK」の東映アニメーションが“大躍進”。「ガールズバンドクライ」DVD2万本を突破で新境地を開く

 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

 東映アニメーションが好業績を叩き出しています。2025年3月期上半期の営業利益は前年の1.5倍で折り返しました。純利益も1.2倍で、株価も勢いづいています。今年は「ガールズバンドクライ」というテレビシリーズがヒット。新たな流れを作りました。

◆メガヒット作品には“反動”がつきもの

 東映アニメーションの潮目が変わったのは2023年3月期。2022年8月公開の「ONE PIECE FILM RED」と12月の「THE FIRST SLAM DUNK」が大ヒットし、この期の売上高は前期の1.5倍に膨らみました。

「ONE PIECE FILM RED」は国内の興行収入が203.3億円。「THE FIRST SLAM DUNK」は158.7億円を突破するモンスター級の映画となりました。

 このようなメガヒット作品で業績が一時的に押し上げられた場合、その反動がつきもの。しかし、2024年3月期はDVDの販売、海外配信権・海外上映権が好調で、売上高は1.4%増の886億円で着地。ただし、営業利益は2割近い減益となりました。

◆減収減益予想から一転して増収増益へ

 2025年3月期は更なる反動で、期初に上半期と通期は減収減益と予想していました。ところが、ふたを開けると上半期は増収増益での折り返しとなったのです。

 東映アニメーションは10月28日に通期業績の上方修正を発表。売上高を900億円、営業利益を270億円へと改めました。一転して通期も増収増益予想へと切り替えたのです。

 9月に公開した「わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー!」は興行収入11.5億円を超えて、シリーズ歴代2位を獲得。主力となる「ワンピース」、「ドラゴンボール」シリーズの海外配信権販売も好調で、収益を支えました。

 テレビシリーズでは3Dアニメ「ガールズバンドクライ」を4月に放送。この作品は、DVD vol.1が累計出荷数2.2万本を突破するという異例のヒットを飛ばしました。

◆「子供をメインターゲット」の作品が得意だったから…

 DVDの販売数が2万枚を超えると映画化が視野に入ると言われている通り、劇場版総集編の前後編の製作がすでに決定しています。しかし、テレビシリーズ放送開始前の期待度は決して高くありませんでした。

「ガールズバンドクライ」は東映アニメーションの中でも特異なもの。この会社は「ワンピース」や「ドラゴンボール」、「プリキュア」、「おしりたんてい」など、子供をメインターゲットとしたアニメを得意としています。一方、「ガールズバンドクライ」は明らかに成人がターゲット。そこに違和感がありました。

 しかも、ガールズバンド系のアニメは過去にヒット作がいくつも誕生しています。「けいおん!」や「BanG Dream!」、「ぼっち・ざ・ろっく!」などです。

◆「ガールズバンドクライ」の期待値が低かった理由は?

「けいおん!」はバンドアニメの火付け役。「ぼっち・ざ・ろっく!」は音楽性の高さでファンを魅了しました。「BanG Dream!」から派生して誕生した「BanG Dream! It’s MyGO!!!!!」は、従来には見られないドロドロとした人間関係を描いて新境地を開いています。どれもバンドアニメの中では屈指の人気作品です。

「ガールズバンドクライ」のプロジェクトのスタートは2019年。アニメ制作の前に、バンドのオーディションを行って5人組の「トゲナシトゲアリ」というグループを結成。アニメの前に楽曲を作り、バンドのメンバーが声優と音楽の演奏を行うという大がかりな企画でした。この手法は斬新ですが、「BanG Dream!」がすでにその成功モデルを作っていました。3Dアニメという表現方法も本作の後追いと言えるものでした。

 つまり、ガールズバンドアニメはやりつくされた印象があり、東映アニメーションの新作に真新しさは見当たらなかったのです。

 更に悪材料はまだありました。この作品は脚本を花田十輝氏が務めています。実は同氏がシリーズ構成を担当し、2022年に放送を開始した「ラブライブ!スーパースター!!」の2期は一部のファンの間で大炎上していました。その多くは、ストーリーやキャラクターがイメージしていた方向性とは違うというもの。

「ラブライブ!」は音楽を扱うアニメでもあり、「ガールズバンドクライ」は期待値の低い状態からのスタートだったのです。

◆“従来とは異なる層”を取り込んだ意味は大きい

 しかし、見事なヒットを飛ばしました。「ガールズバンドクライ」の主人公は、ロックの申し子ともいうべき人物。顔がむかつくという理由でバンドメンバーにウーロン茶をかけ、路上を歩く会社員に向かってシーリングライトを投げつけるなど、傍若無人なキャラクターとして描かれています。他のメンバーの個性も際立っており、それぞれが衝突する様はこれまでのヒット作とは一線を画すものでした。

 ストーリーも典型的なサクセスストーリーとは一味違うもの。作品に奥行きを持たせています。制作陣の熱量が伝わる作品に仕上がっているのです。

 事業の成長にとって、新たなIPを創出する活動は欠かせません。東映アニメーションが従来とは異なる層を取り込んだ意味は大きいでしょう。

 足元で海外展開にも注力しています。2023年2月にスタートした「スパイシーキャンディ」は中国向けコンテンツ企画の子会社である東映動漫の初企画アニメ。短尺動画のSNSプラットフォームに配信しています。動画の再生回数は1億回を超えており、全プラットフォームのフォロワーは59万を突破しました。

 サウジアラビアのマンガプロダクションと共同制作した「アサティール2 未来の昔ばなし」は、2024年11月に逆輸入されて日本でも放映されています。

「アサティール 未来の昔ばなし」は2020年1月にアラブ諸国で放送を開始。アメリカでも放送されるなど、人気を博していました。

 フランス市場開拓を目的とした新作アニメ「Le Collège Noir」も製作。フランスのアニメーション配信に特化したADN (Animation Digital Network)との共同製作で、映像販売と商品化権も取得していました。

 東映アニメーションは「ワンピース」や「ドラゴンボール」、「プリキュア」など既存作品への依存度が高い状態が長らく続いていました。その時期を乗り越え、IPを創出する新たな会社へと生まれ変わろうとしています。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】

フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界