趣里(34)の“怪演”にみる「二世&朝ドラヒロイン、ヒットの法則」のウソとホント

◆幅広い役を演じきる趣里の演技力

 趣里(34)が怪物のような弁護士役で主演するフジテレビ系の連続テレビ『モンスター』(月曜午後10時)の評判がいい。視聴率争いでも上位に食い込んでいる。

 趣里が演じる神波亮子が、若いOLが自死した理由を裁判のために追ったり、アイドル歌手による歌詞の盗作疑惑の真相を調べたり、人工授精をめぐるトラブルのウソを暴いたりするストーリー。亮子は自分が法廷に呼んだ証人に「ウソつき」と言い、依頼人側のアイドルが望まないのに彼女が美容整形した過去を勝手に調べる。人工授精した主張する女性に身分を隠して近づき、それがウソであることを証明する。

 亮子は真相を知るためならインモラル行為も違法行為も厭わない。おまけに態度が異様にデカく、弁護士事務所の先輩・杉浦義弘(ジェシー)もパシリに使う。とんでもない人物だから、モンスターなのである。

 趣里はNHK連続ドラマ小説『ブギウギ』(2023年度下期)では明朗快活なヒロイン・福来スズ子を演じたが、亮子は一転してブラックな人物。これがハマっており、演技の幅の広さを見せつけている。

 もともと趣里は抜群にうまい人なのだ。2018年には映画『生きてるだけで、愛。』で、鬱による過眠症によって引きこもり状態に陥っているヒロインを演じ、日本アカデミー賞の新人俳優賞などを受けた。恋人役は菅田将暉(31)だった。

 一方で戦争によって夫と子供を失い、体を売るしか生きていく術がない主人公を演じた同『ほかげ』(2023年)では映画界屈指の栄誉であるキネマ旬報ベスト・テン主演女優賞を得ている。

 それでもプライム帯(午後9~同11時)の連ドラの主演は『モンスター』がデビュー13年目にして初めて。水谷豊(72)と伊藤蘭(69)夫妻の一人娘なのは知られている通りであるものの、親の“十四光”というだけで成功できるほど俳優の世界は甘くないのである。

◆二世タレントだから売れるわけではない

 たとえば故・篠山紀信さんと元歌手の南沙織さん(70)の次男・篠山輝信(40)は好感度の高い人だが、デビュー18年でまだ大きな役に恵まれない。故・渡辺徹さんと榊原郁恵(65)の長男である渡辺裕太(35)もそう。デビュー9年目で知名度はあるものの、活躍の場は俳優よりバラエティーのほうが多い。

 木村拓哉(51)と工藤静香(54)夫妻の次女・Kōki,(21)はデビュー作のホラー映画『牛首村』(2022年)で、スポーツ紙の映画記者たちが主催するブルーリボン賞の新人賞に選ばれたが、その後は公開前の映画が3本、公開未定の映画が1本しかない。ドラマには出ていないから、その演技を観たことがない人がほとんどに違いない。

 どうして十四光が必ずしも効果を発揮しないか。それは政治家や企業などの世界と違い、実力だけが問われるから。過去に話を聞いたTBSの制作者によると、「片方の親が芸能人の七光組と十四光組を合わせ、長く俳優を続けられるのはせいぜい3割程度」という。

 七光組、十四光組がデビューすると、当初は話題性が買われ、親にも義理があるから、制作者たちは作品に出演させる。しかし、それは長くは続かない。

 それでも強引に子供を出演させるケースがある。刑事物で人気のベテラン俳優は自分の出演ドラマには子供を必ず出す。しかし、自分が高齢となり、ドラマから遠ざかると、子供もほとんど観なくなった。やはり実力で勝負しないと意味がないのだ。

 趣里と水谷の共演は1度もない。水谷の力を持ってすれば『相棒』(テレビ朝日)などに出すのは簡単だったはずだが、やらなかった。演技指導をしたこともないという。

 水谷は趣里に対し「僕が出来るのは一切口を出さないことだ」と伝えた(朝日新聞朝刊2023年12月8付)。水谷のインタビューをしたことがあるが、俳優の道を突き詰めようとしている生真面目な人だったから、うなずける言葉だった。趣里は伊藤とも共演歴がない。

◆朝ドラヒロインは成功のお墨付き?

 一方、朝ドラのヒロインをやったからといって急に売れたり、その後の成功が約束されたりするわけでもない。七光組、十四光組と同じく、ヒロインを演じた直後は話題性が買われて引っ張りだこになるが、その後は実力が問われる。

 最近の朝ドラの主演者たちが放送終了直後に出演した作品とその後を見てみたい。

『おかえりモネ』(2021年度上期)の清原果耶(22)はTBS『ファイトソング』(2022年冬ドラマ)に主演した。朝ドラが終わってから3カ月後だった。朝ドラの主演者たちにとって平均的なペースである。現在はテレビ朝日系『マイダイアリー』に主演している。

『カムカムエヴリバディ』の上白石萌音(26)はまずフジ『忍者に結婚は難しい』(2023年冬ドラマ) にゲスト出演。今年5月にはテレビ朝日系の単発ドラマ『霊験お初〜震える岩〜』に主演した。ドラマへの出演機会が少ないのは所属事務所・東宝芸能が本人の身体的負担などを考えているからだろう。この事務所は数多くのドラマに出演させない。

『カムカム』の主演は3人。やはり主演だった深津絵里(51)は朝ドラ後のドラマ出演がない。こちらはプライベートな理由とされている。同じく主演の川栄李奈(29)は日本テレビ『となりのナースエイド」(2024年冬ドラマ)に主演した。

『ちむどんどん』(2022年度上期)の黒島結菜(27)はTBS『クロサギ』(同年秋ドラマ) で準主役級を務めた。黒島は今年7月に宮沢氷魚(30)との子供を出産したこともあって、この作品以降のドラマ出演はない。

『舞いあがれ!』(同下期)の福原遥(26)はTBS『18/40〜ふたりなら夢も恋も〜』(2023年夏ドラマ)に主演した。9月に終了した日本テレビ『マル秘の密子さん』にも主演。年明けからはNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』に出演する。

『らんまん』(2023年上期)の主演・神木隆之介(31)は9月にテレビ朝日が放送した故・山田太一さん原作の単発ドラマ『終りに見た街』(9月)で助演した。神木にしては役が小さかったからか特別出演扱いだった。現在はTBSの大型作品『海に眠るダイヤモンド』に主演している。

◆『虎に翼』の伊藤沙莉(30)は?

『ブギウギ』の趣里はまず9月に終了したTBS『ブラックペアン シーズン2』で助演。シーズン1から引き続いての登場だったが、朝ドラの主演を務めた後の今回は特別出演扱いだった。そして現在は『モンスター』に主演している。

『虎に翼』の伊藤沙莉(30)の次回作が明かされるのはこれから。ほかのヒロインたちと同じく、旬である1年以内の登場になるだろう。『虎に翼』が大ヒット作となり、伊藤の人気もグンと上がったので、主演になるはずだ。

 最近の朝ドラ主演組は大半が成功をしている。新人の主演への抜擢がほとんどなくなったせいでもあるだろう。しかし、過去には朝ドラ後もあまり仕事に恵まれず、そのまま引退した人たちがいる。やはりヒロインを務めることと成功はイコールではない。

 俳優は才能と努力がモノを言う世界。2世、3世が幅を利かせる政界などより、ずっと公平なのだ。

<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】

放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員