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毎日使う歯ブラシやシャワーヘッドは、目に見えないバイ菌まみれだと一般的に思うだろう。アメリカの微生物学者がそれを調べたところ、驚くべき発見をした。今まで見たこともない無数のウイルスを発見したという。
◆614種類の未知のウイルス発見
ノースウェスタン大学の微生物学者たちは、34本の歯ブラシと92個のシャワーヘッドから採取したバイオフィルム(表面に付着した微生物の糊のような膜)のサンプルを調査し、合計で614種類のウイルスを確認した。大半がこれまで見たこともないウイルスで、類似したウイルスは皆無だった。
研究成果はマイクロバイオームの学術誌「フロンティア・イン・マイクロバイオーム」に10月9日付で掲載された。
これらのウイルスは風邪やインフルエンザを引き起こすような病原体ではない。バクテリオファージ、通称「ファージ」と呼ばれる、細菌に感染してその細胞内で複製するウイルスの一種で、細菌の天敵になる。小さな三脚のような形のファージは、それぞれ特定の細菌種を見つけ、攻撃し、食い尽くす。
研究を主導したノースウェスタン大学のエリカ・M・ハートマン准教授は「私たちが発見したウイルスの数は実に膨大なものです」とし、「その多くがほとんど知らないウイルスや、これまで見たこともないウイルスなのです。私たちの身の回りには、まだ多くの未開拓の生物多様性が存在している。遠くに探しに行かなくても、私たちの鼻の下にあるのです」と語る。
◆新薬開発のフロンティア
ファージは最近、抗生剤の乱用による多剤耐性菌感染症の治療に使われる可能性があるとして注目を集めている。ファージは1世紀近く前から科学者の間で知られていたが、詳細な研究をするのに必要なツールが開発されたのはごく最近のことだ。
CNNによると、2050年までに世界で多剤耐性菌による年間死亡者数は推定1000万人を超えるとされる。増え続ける抗生物質耐性の問題に対する解決策として、バクテリオファージがすでに臨床試験に使用されている。
研究者たちは今回発見したファージのなかで、特にマイコバクテリオファージが多いことに気づいた。マイコバクテリオファージは、ハンセン病、結核、慢性肺感染症などの病気を引き起こす病原菌に感染する。そのため、浴室に潜む未知のウイルスが、それらの治療法を発見するための素材の宝庫になるかもしれない。
ハートマン准教授は「ファージは非常に魅力的で、生物学や微生物学の次のフロンティアといえるのです」(タイム誌)と述べ、研究者が今後マイコバクテリオファージを利用して、さまざまな感染症を治療できるようになるのではないかと期待する。
◆シャワーヘッドや歯ブラシに殺菌剤は不要
ハートマン准教授は「微生物はどこにでもいて、その大部分は私たちを病気にすることはない」と述べ、「殺菌剤で攻撃すればするほど、耐性ができたり、治療が難しくなったりする可能性が高まる。むしろ、私たちは微生物を受け入れるべきなのです」と語る。
そのため、バスルームに生息する目に見えない野生の菌について心配する必要はないと注意を促す。漂白剤を使う代わりに、シャワーヘッドを酢に浸してたまったカルシウムを取り除いたり、普通の石鹸と水で洗ったりするだけで十分だという。歯ブラシのヘッドについては定期的に交換すべきだとしている。