11月6日、今年度の司法試験の合格者が発表された。合格者数は1592人(合格率42.13%)。合格者の多くは1年間の司法修習の後、「弁護士」になる。これから弁護士になる人々にはどのような「将来」が待ち受けているのか。弁護士業界の今後の「見通し」についてのデータを紹介する。
弁護士人口のピークは「2050年頃」…今の“4割増し”に
弁護士の人数は2024年10月末時点で4万5649人だが、今後、どのように推移するのか。
日弁連「弁護士白書 2023年版」の
シミュレーション
によると、今後、司法試験合格者数が年1500人で推移すると仮定した場合、弁護士人口は2030年に5万人を超え(5万1995人)、2040年に6万人を超える(6万970人)。そして、2050年(6万3615人)頃にピークを迎え、2060年(5万7759人)頃からは5万人台後半で推移する。
つまり、最大で現在の4割増し程度に達することが想定される。
一方、弁護士1人あたりの国民数は、2022年時点で2782人だったが、2040年(1851人)までに2000人を切り、2050年(1646人)頃まで減り続け、その後は1600人台で推移する見通しとなっている。
【図表1】弁護士人口の将来予測(2025年以降の新規法曹1500人として試算)(出典:日弁連「弁護士白書 2023年版」)
つまり、現在の司法試験の合格者数が維持され、事件数が増加しなかったと仮定すると、業界全体として「先細り」になっていく計算になる。
弁護士の「収入・所得」は?
では、収入・所得の平均値・中央値(データを数値順に並べたときに中央にあたる値)はどうか。
2023年時点で、弁護士全体の「年収」の平均値(※)は2082.6万円、中央値は1500万円だった。また、諸経費や所得控除等を加味した「所得」の平均値は1022.3万円、中央値は800万円だった。
※最小値・ 最大値付近のそれぞれ5%を「外れ値」として排除した平均値(5%調整平均)
これに対し、弁護士経験5年未満の「修習71期~74期」の「年収」をみると、平均値575万円・中央値550万円、「所得」は平均値351万円・中央値300万円だった。
前述の通り、今後、弁護士数が現在よりも増加し、弁護士1人あたりの国民数が減少することが予測されている。したがって、今後、事件数の増加等がなければ、弁護士の年収・所得の平均値・中央値は現在よりも下がっていく計算になる。
ただし、事件数のデータをみると、地方裁判所・簡易裁判所での訴訟等の新受件数は人口減少にかかわらずほぼ横這いになっている(【図表2】)。
【図表2】民事第一審通常訴訟新受件数の推移(地方裁判所・簡易裁判所)(出典:日弁連「弁護士白書 2023年版」)
また、家庭裁判所での家事事件の新受件数は大幅に増えてきている(【図表3】)。
【図表3】家事事件の新受件数の推移(家庭裁判所)(出典:日弁連「弁護士白書 2023年版」)
これらのデータをみる限り、現状では、弁護士数の増加が、弁護士や世の中にとって必ずしも「マイナス」になると決まったわけではないといえよう。
弁護士数の増加が社会全体にとって「プラス」となる条件は?
もともと、1999年から行われた法曹人口の増加をはじめとする「司法制度改革」の目的は、法的トラブルを抱えた人のうち20%程度しか司法サービスを受けられていない「二割司法」とよばれる状態を解消することにあった。
しかし、その状態はまだ十分には解消されていない。思いつくだけでも、離婚に際しての子の養育費に関する取り決めが守られないケースや、加害者側の頑なな態度に泣き寝入りするケースなどが挙げられる。
国が行った公式の統計のデータとしては、やや古いが2014年に国の「法曹養成制度改革顧問会議」が実施した「
法的ニーズに関する意識調査
」がある。これによると、「最近5年間に経験したトラブルで弁護士への相談を考えたことがありますか」という問いに対し、「考えたことはない」が79.4%となっている。
これに対し、2020年代に入って民間で行われた複数のアンケート調査があるが、それらを確認しても、「二割司法」の状況が顕著に改善されたとまではいえない。
弁護士に相談することのハードル自体が、まだまだ高いといわざるを得ない。相談を断念する理由としては、以下のようなものが考えられる。
・法的に救済を受けられる手段があることを知らない
・「自分は対象外」「十分な証拠がない」と思い込み、相談自体をためらう
・弁護士費用の負担が大きそう
・弁護士の探し方が分からない・近寄りがたい
逆にいえば、これらの課題に対する適切な手当てがなされれば、本来、権利救済を必要とする人が、弁護士をはじめとする司法サービスにアクセスしやすくなり、その需要が高まる可能性が考えられる。
もとより、国にも、一般市民が司法サービスにアクセスしやすくするための制度の拡充や、義務教育をはじめとする学校等での教育・啓発活動が求められる。また、近年、保険会社が相次いで発売している「弁護士保険」などの普及もプラスにはたらく可能性がある。
それらに加えて、今後は、弁護士の側からの積極的な情報発信が求められるだろう。実際、自身のサイトやSNS、動画メディアを通じて、法的知識について情報発信する弁護士等も増えている。
一般市民にとっても、ウェブ上で検索すれば、法律知識について分かりやすく説明しているメディアや弁護士のサイトに簡単にアクセスできるようになった。弁護士人口が増加し、弁護士1人あたりの人口が減少することは、決して「マイナス」とは断言できない。むしろ、前述の諸条件がうまく噛み合えば「プラス」になる可能性があるといえるのではないだろうか。